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検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 2-9

注意すべき検査値とその副作用

アセスメントの基本は、患者さんの変化に気付く観察力です1)
気になる症状や徴候に気付いたときは、患者さんの「つらい」「苦しい」という訴えを直接聞く主観的データと、
バイタルサインや状態観察などの客観的データを確認することが大切です1)
さらに、これらの主観的データを客観的データと関連付けることにより、
訴えや症状の理解が深まり、異常の早期発見につなげることができます1)

ここでは、がん薬物療法中に症状と関連して、看護師が理解しておきたい検査値として、
腫瘍崩壊症候群、電解質異常、だるさについて取り上げます。

腫瘍崩壊症候群と検査値2)

腫瘍崩壊症候群(TLS)は、がん薬物療法や放射線治療などにより腫瘍細胞が急激に死滅(破壊)する時に生じる、核酸(尿酸に代謝)、K(カリウム)、P(リン)などが、急速に血中に放出されることにより起こる代謝異常です。抗がん薬治療開始後12~72時間以内に出現することが多く、腎機能障害(尿量減少、倦怠感)、致死性不整脈、低Ca(カルシウム)血症(不整脈、けいれん)などを引き起こす可能性があるので注意が必要です。

TLSはLTLSとCTLSに分類されます。血液検査データで、高尿酸血症、高K血症、高P血症、低Ca血症のいずれか2つ以上を認めた場合が「Laboratory(検査上の) TLS(LTLS)」、これに加え、腎機能低下、不整脈、けいれんなどを認めた場合が「Clinical(臨床的な)TLS(CTLS)」です。CTLSは致死的になりうるので早急な対応が必要です。また、LTLSからCTLSへの移行のサインに気を付けることが大切です。

看護師が腫瘍崩壊症候群を早期発見するために確認すべき検査値は、尿酸、K、P、Caです。これらの検査値のいずれか2つ以上の異常を認めた場合は、腫瘍崩壊症候群を疑い、症状と結び付けて報告することが大切です。

電解質異常と検査値3)

抗がん薬投与による電解質異常は主に、薬剤の直接的な作用で起こる低Na血症や低Mg血症と、粘膜障害などで起こる下痢を起因とする低K血症などの二次的なものに分けられます。前出の腫瘍崩壊症候群も、致死的な電解質異常を招きかねない有害事象です。

がん薬物療法中に把握しておきたい血液検査項目は、電解質では、Na(ナトリウム)、K、Cl(クロール)、Ca、P、Mg(マグネシウム)、腎機能ではCre(クレアチニン)、BUN(尿素窒素)があります。

表 電解質と腎機能の血液検査項目:基準値と異常値のときの原因

電解質異常が生じているときは、下痢や嘔吐などをきたすことが多く、また下痢による脱水で電解質異常が生じる可能性もあります。低Na血症になると、集中力や注意力の低下、軽度の意識障害が発生することがあります。脱力感や倦怠感も強くなります。そのため転倒・転落の危険性が高くなるので注意が必要です。

電解質異常が悪化すると、急性腎機能障害や脳浮腫などが生じる可能性があるので、症状の発現時期とその前後の検査値の変化を把握しておくことが大切です。

だるさの原因とチェックしておきたい検査値4)

抗がん薬の投与中に起こるだるさの原因は、感染症、貧血、電解質異常、慢性的な腎機能障害、脱水、内分泌・代謝異常、心因的な要因などが挙げられ、それが複合的に関わっています。

電解質異常や糖代謝異常などがなく、貧血が疑われる場合、確認すべき検査値はRBC(赤血球数)、Hb(ヘモグロビン量)、Ht(ヘマトクリット値)です。抗がん薬による骨髄抑制があると、赤血球の産生が抑制されるためRBCが減少します。抗がん薬の種類によっては、溶血性貧血が起こることもあります。

一般的に貧血の有無はHb(基準値:12.0~16.0g/dL)で判断されることが多くあります。Hbは赤血球に含まれる成分で、全身に酸素や二酸化炭素を運ぶ役割を担っています。抗がん薬投与中は有害事象共通用語基準(CTCAE v5.0)などを用いて、貧血の程度を確認することが大切です。

Htは全血液中に占める赤血球の割合を指します。
この割合が基準値(34.0~46.0%)より低いと貧血が疑われます。貧血の原因は骨髄抑制以外にも、鉄欠乏性貧血、慢性的な二次性貧血、消化管穿孔や出血などさまざまな原因があります。

資料

  1. 福地本晴美. Expert Nurse 201632(11):10-12.
  2. 住谷智恵子. Expert Nurse 2018;34(2):62-64.
  3. 佐伯やよい. Expert Nurse 2017;33(8):37-41.
  4. 高橋雅子. Expert Nurse 2016;32(11):26-30.

看護師

社会医療法人北楡会 札幌北楡病院
看護部

荒 香織 先生

ワンポイントアドバイス

- 看護のコツ -

腫瘍崩壊症候群(TLS)

入院病棟ではTLSが非常に重要なので、患者さんへの説明はもちろん、医療者間でも関連する検査項目のデータは共有すべきと考えます。臨床症状が現れる前に検査値の変化でTLSとわかることもある2)ので、検査データを確認しアセスメントにつなげられるように気を付けています。

腫瘍の量が多い患者さんではTLSで腎機能が低下し、その後急激に悪化して透析に至ることも考えられます2)。悪化する前からCre値や尿量、体重に変化がないかを確認します。尿量の変化は特に注意しており、「おしっこは出ていますか」と聞くのではなく、いつもより少なくなっていないか、血尿は出ていないか、おしっこの色に変化はないか、といった点も聞くようにします。場合によっては、実際に尿を見せてもらうこともあります。

電解質異常

抗がん薬の投与により電解質異常は起こりやすいですし、また、抗がん薬の投与後の脱水により起こることもあります。ほかにも、基礎疾患の影響で電解質異常となっていることもあるので、症状とデータの両方をアセスメントすることが大事です。患者さんへの指導として経口飲水が可能であれば経口補水液を飲んでいただくことも伝えます。電解質異常は、だるさの原因となることがありますので、だるさが貧血などの他疾患によるものなのか、電解質異常によるものなのか、といった点も注意して観察します。

検査データの確認ポイント

検査データを確認する場合は、前回のデータと比較することや、すでに数クールの治療を実施している患者さんであれば前回のクールでのデータも参考にします。このようにデータを確認すれば、データと症状を関連付けてアセスメントできるようになり、患者さんへの声掛けも「そろそろ回復してくると思うので、もう少し頑張りましょう」というように変わってくると思います。

- コミュニケーションのコツ -

骨髄抑制による好中球減少は多くの患者さんに現れるので、検査結果では好中球数の変化を注意して見るように伝えます。好中球数が低下すると免疫能も低下するので、感染を予防する行動についての説明や指導をしています。好中球数が低下しているときは人混みを避けるように伝えたりします。