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検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 2-2

出血傾向

がん薬物療法の副作用として、
出血傾向(血小板減少)が起こることがあります。
血小板が大幅に減少すると致命的な大出血を起こす場合もあり、注意が必要です。
脳内出血などの出血につながらないよう、患者さんにセルフモニタリングと
セルフケアを行ってもらうことが重要です。
また、患者さんやご家族を不安にさせないケアと心理サポートが大切です。

出血傾向の原因とメカニズム

出血傾向とは、血液中の血小板が減少し、出血しやすい状態のことです。

血小板は骨髄の造血幹細胞の分裂によりつくられ、血液中で約10日間循環した後に脾臓で処理されます1)。血小板の主な役割は止血です。抗がん薬による血小板減少は、造血幹細胞の分裂が制御され、血小板の産生が低下して起こる場合と、血小板の消費や破壊の亢進によって起こる場合とがあります2)

出血傾向の対処法

血小板数の基準値は15万~37万/μLとされていますが、10万/μL以下になると、止血にかかる時間が長くなるなどの出血傾向が出現します1,2)

5万/μL以下になると、軽度の刺激でも出血のリスクが高くなり、歯肉出血や鼻出血などが起こりやすくなります1,2)

さらに、3万/μL以下になると、消化管出血、血尿、喀血、眼底出血などの臓器内からの出血が出現しやすくなり、1万/μL以下では脳内出血などの致命的な出血の危険性が高まります1,2)。血液がんでは、強力な化学療法が施行されることが多く、血小板減少も高度になることがあります1)。ただし、血小板減少があっても、出血しない場合も多いこと1)を理解しておくことも大切です。

出血しやすい部位は全身にあり、症状は出血部位によってさまざまです。

表 出血しやすい部位と主な症状

表 出血しやすい部位と主な症状

血小板減少の治療は血小板輸血です。脳内出血などを予防することを目的に、予防的血小板輸血が行われます2)

通常、血小板減少は抗がん薬の投与開始から数日で発現し、1~2週間で最低値となり、3~4週目で回復します1,2)。治療開始前から血小板数や凝固機能のモニタリングを行います1)

アセスメント1)

出血の予防と早期発見には、患者さんのセルフモニタリングとセルフケアがとても大切です。セルフモニタリングとしては、患者さんに血小板数と出血しやすい部位を知っていただき、症状が現れたら医療者に伝えるように指導します。また、出血予防と出血時のセルフケアを治療開始前に示しておくことが大切です。

出血予防

血小板減少時には生活の中で出血を予防する行動をとることが大事です。そのために重要なことは転倒予防です。ベッドの周囲に余計な物を置かないようにし、底の滑りやすい履き物や脱げやすい履き物は避け、夜間は照明を利用するなど、転ばない工夫が大切です1)。また、ベッドから起き上がるとき、歩くときの動作はゆっくり行うようにします1)

むくみによる皮下出血を避けるためには、長時間の座位や立位を避けることも大事です1)。内出血しないように体を締め付けるような衣類や下着を避ける、歯磨きは歯肉を傷つけないように柔らかい歯ブラシを使うなど、日常生活の工夫も伝えます2)。排便時に力むことも内出血の原因になるので、便秘にならないように食物繊維の多い食べ物や消化のよい食事を心掛けることも大切です2)。必要があれば、下剤を使うようにしますが、浣腸は避けます2)

著しい血小板減少が起きている場合は、激しい運動は避けて、できるだけ安静に過ごすように伝えます2)

出血時の対処

血小板減少になると、出血の危険性が高くなるので、患者さんに出血傾向の有無をセルフモニタリングできるよう、出血時の症状を知らせておくことが必要です1)

患者さんが気付きやすい症状は、目に見える出血や皮下出血です1)。患者さんが出血に気付いたら医療機関に連絡してもらえるように、予め伝えておく必要があります1)。外傷による出血や、便や吐いた物に血液が混じっている場合は、医療機関への速やかな受診を促します1)

抗がん薬による出血のリスクを患者さんに理解してもらうことは大事ですが、患者さんやご家族は、出血に対する不安を感じており、特に出血時は動揺するものです1)。出血時の迅速な対処や症状や処置の説明を行うと同時に、医療者がいつでもサポートできることを伝えておくことが大切です1)

資料

  1. 富永知恵子. プロフェッショナルがんナーシング
    2014;4(4):366-381.
  2. 大上幸子. がん看護 2020;25(2):137-139.

看護師

梶原 悠乃先生

ワンポイントアドバイス

- 転倒予防が大切 -

易出血状態の患者さんには、転倒・転落の予防が重要となります。貧血や発熱を合併している患者さんや、高齢の患者さんはめまいで転倒する危険があります。また、血小板数が1万/μL以下の状態で転倒すると頭蓋内出血などにつながる可能性があるので1)、転倒予防は重要です。ベッドや椅子から立ち上がるときにはつかまることや、めまいでふらついたときには無理をせずに、その場でいったん座って大丈夫そうであれば立ちあがり、それから歩き出すなど、具体的に転倒予防を目的とした動作を伝えます。

- スタッフ間での情報共有 -

転倒しやすい患者さんのことは、スタッフ全員で共有しておく必要があると思います。鼻出血や歯肉出血などの症状があれば医師や看護師に伝えるよう患者さんに説明しています。血小板数が2万~5万/μLであっても、出血傾向や貧血などの症状があれば輸血の対象となることもあるので3)、血小板数を把握するだけでなく、夜間に鼻出血や歯肉出血、口腔内出血などを見たら医師に伝えるようにしています。

- 出血予防と出血時の対処方法 -

易出血状態にある患者さんは、出血予防が基本となります。口腔内出血の予防として、歯ブラシは柔らかいものを選び、強くこすらないようにするなどブラッシングの仕方も指導します。固い物を食べると、口腔内が切れてしまったり、出血斑ができて血豆のようになってしまい、そこから出血するということもあるので出血に対する予防方法を患者さんに伝えることは大事です。

口腔内出血や、採血時の出血は、圧迫止血が基本となります4)。採血後は出血斑になりやすいので、「何分間、ここを押さえてください」と止血のための方法を具体的に説明します。また、完全に止血するまでは、出血部位にできたかさぶたをいじったり剥がしたりしないように伝えます。

- 患者教育 -

転倒・転落予防の重要性は、入院時に伝えます。患者さんには出血傾向があると頭蓋内出血などを起こす可能性があることを説明します。血液検査の結果を患者さんに渡した後、血小板数の変化を一緒に確認したり、血小板数が低下すると起こりやすくなる皮下出血や鼻出血、歯肉出血などの症状を具体的に説明します。

患者さんは血便が出ていても、便の色が黒くて分からない、ということもあります。看護師は、患者さんに出血症状が現れていないかを聞くことが大事だと思います。看護師から積極的に聞くことで「そういえば、便に赤いのが混じっていた」と患者さんが気付くこともあります。
また、患者さんが出血時に落ち着いて対応できるように、出血症状だけでなく、出血したときの対応方法までセットで説明しています。

ドクター

茨城県厚生農業協同組合連合会 総合病院 土浦協同病院
血液内科 部長

清水 誠一 先生

看護師さんへのメッセージ

- 看護師さんから報告してほしい内容 -

患者さんの出血を見たら、骨髄抑制による血小板数低下に伴う出血なのか確認することが重要で、直近の血小板数のデータを確認することが望ましいでしょう。骨髄抑制期の出血なのかを確認するためにも、化学療法開始後何日目の出血なのか、といった視点が大切だと思います。

出血症状に発熱を伴う場合は注意が必要で、骨髄抑制期であれば緊急性が高くなります。血小板数減少の原因がない時期の出血であれば、ウイルス感染5)や、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併6)したことで血小板数の低下と発熱が起こることがあるので注意が必要です。

- 患者さんへの声掛けのポイント -

口腔粘膜での点状出血を含めた出血傾向の有無を確認することが重要だと思います。患者さんは化学療法の施行中に正しい歯磨き方法を指導されているため、歯磨きで出血することはあまりないようです。ですので、診療時には「歯磨きで血がダラダラと出ることはありますか」と聞き、口腔内の出血の有無あるいは出血状態の情報として参考にしています。また、排便時の出血もあるので「お尻を拭いた紙に血がつきませんか」と聞くようにしています。

- 患者さんが気付きやすい出血 -

患者さんは四肢の点状出血に気付くことが多く、特に入浴時に気付くことが多いようです。口腔内の粘膜出血も多くみられますが、口腔内や舌を誤って噛んでしまった場合に、噛んだ面積よりも大きな粘膜出血ができるので、このような出血には注意します。

- 点状出血での注意点 -

点状出血が脚の毛穴に出ているような場合は、出血傾向によるものなのか、薬疹によるものなのか鑑別ができないことがあります。このような場合は、血算機能検査を行うことで、鑑別する必要があるので来院するように伝えます。

出血の中でも白目に出血する眼球結膜下出血は、自覚症状がなく、ご本人も鏡を見て気付き驚かれることがあります。ただし、眼球結膜下出血は止血学的検査にて異常を認めることはなく7)、視力や視野に影響することはあまりないので、急いで来院する必要はなく、ご自宅で様子をみるよう伝えます。

- 来院の基準 -

年末年始のような長期休業中に出血の連絡を受けた場合や、出血の緊急度の判断が難しい場合など、夜間に来院するように伝えていいのか判断に悩むことがあると思います。救急で受診する必要性を判断する1つの基準として、皮膚や潰瘍部の出血で圧迫止血が有効であれば翌日または早めの受診でよいことを説明します1)。特に点状出血では、悪化しないよう予防策を説明し、物理的な刺激がなくても悪化する場合は受診するよう説明します1)

ただし、口腔内出血や鼻出血などでも、出血が止まらない場合は来院する必要がありますので、患者さんから症状を具体的に聞き出すことが大切だと思います。

  1. 厚生労働省医薬食品局血液対策課 「血液製剤の使用指針」(改定版)(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/iyaku/kenketsugo/5tekisei3b01.html#01)
    (2023年2月22日閲覧)
  2. 河野文夫(監修). 造血幹細胞移植の看護(改訂第2版). 南江堂. P148-151.
  3. 井上克枝. 日本血栓止血学会誌 2012;23(3):259-264.
  4. 公益財団法人難病医学研究財団 難病センター 特発性血小板減少性紫斑病(指定難病63)(https://www.nanbyou.or.jp/entry/303)(2023年2月21日閲覧)
  5. 加藤淳. 日本内科学会雑誌 2009;98(7):1562-1568.