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検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 2-16

肺障害

抗がん薬治療の副作用により、肺に障害が起こるケースがあり、症状を引き起こす原因は多岐にわたります。
肺障害の中でも発生頻度の高い間質性肺炎は、生命に危険を及ぼす可能性があります1)
患者さんとご家族に対して肺障害の症状について十分な情報提供を行い、
異変を感じた場合は早急に報告してもらうよう指導することが大切です。

抗がん薬による肺障害と主な原因疾患に対する管理法

抗がん薬による肺障害は、大きく2つに分けられます1)
1つは、薬剤そのもの、あるいは中間代謝物が肺細胞を直接的に障害する直接的肺細胞障害です1)

もう1つは、免疫細胞の活性化や炎症反応を介して起こる間接的肺細胞障害です1)。肺障害には呼吸困難感を伴うことが多く、呼吸困難感の原因として、肺感染症や胸水貯留、うっ血性心不全など、さまざまなものがあります。

表 呼吸困難感・呼吸不全をきたす
主な原因・症状・治療法

肺感染症はウイルスや真菌、種々の細菌により引き起こされ、重篤化する場合があるため、感染巣や起炎菌の早急な検査が重要です2)

胸水貯留の原因はさまざまで、胸腔ドレナージや胸膜癒着術が有効な場合もあります2)。 

うっ血性心不全は、過剰な輸液負荷に伴う体液量バランスの不均衡などで起こることがあり、治療前・治療中の心臓超音波検査などで心機能を評価することがあります2)

がん患者では深部静脈血栓症・肺血栓症などのリスクが高くなることで、肺血管障害が起こることがあります2)。また、全身状態の悪化による長期臥床などによっても、肺血管障害のリスクは高くなります2)

薬剤性肺障害のリスク因子として、年齢60歳以上であること、既存の肺病変があること、呼吸機能の低下、酸素投与、腎障害などがあります4)。特に頻度が高いのが間質性肺炎で、全ての抗がん薬または支持療法薬で発現する可能性があります3)

間質性肺炎の症状と注意点

間質性肺炎の主な症状には、息切れ、咳嗽、胸部不快感が挙げられ、喘鳴や血痰を伴うことがある一方、発熱はみられないこともあります5)。感冒などの気道感染や原疾患の進行または他の有害事象と誤認しやすいため注意が必要です5)。なお、症状はなく画像所見で発見されることもあります5)

間質性肺炎には、びまん性肺胞障害(DAD)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、器質化肺炎(OP)、過敏性肺炎(HP)、好酸球性肺炎(EP)と、主に5つの病型があります1)。重篤度や経過の良・不良などそれぞれに特徴がありますが、特にDADには注意が必要です1)。症状が現れるようになったその日に急激な息切れを生じたり、経過も良好ではなかったりするため、早急な治療につなげることが重要です1)

症状へのケアと患者指導

がん治療中の患者さんは、肺障害の原因となる疾患の治療が困難な場合があります。そのため、口腔ケアによる肺炎の予防や、体重増加、下腿浮腫の評価による心不全の増悪の予防など、肺障害を防ぐための取り組みを心掛けておくことが大切です2)。 

多くの肺障害で、呼吸困難感や咳嗽、喀痰、発熱、低酸素症状などの症状が見られますが、感冒と思い込んで放置すると症状が進み、治療を開始しても効果が現れにくいことがあります1,2)。患者さんの使用している抗がん薬が肺障害の起こりやすいものかどうか把握し、聴診で捻髪音の有無などを確認することが必要です1)

間質性肺炎の疑いがある場合には、胸部X線撮影やCT画像検査、血液検査などが必要となります1)

患者さんが訴える息苦しさには、低酸素血症を伴う呼吸不全と、低酸素血症を伴わない呼吸困難感があります2)。しかし、いずれも酸素投与により改善されることがあります2)。また、室内や気道の乾燥を防ぐ環境の工夫や、呼吸がしやすい体位の工夫、呼吸リハビリテーション、精神療法などの非薬物療法も呼吸困難感の改善に役立ちます2)

間質性肺炎の場合、安静時に呼吸困難感や低酸素状態がなくても、労作時で顕著な低酸素血症をきたすこともあるため注意が必要です3)。咳嗽が強い場合などは、必要に応じて薬剤を投与し、症状の緩和を図って日常生活の援助を行います3)

資料

  1. 弦間昭彦. がんサポート 2015;10:32-35.
  2. 鶴田展大ほか. がん看護 2017;22(2):225-227.
  3. 良田紀子. がん看護 2020;25(2):196-199.
  4. 日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第2版作成委員会(編集). 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 第2版 2018. メディカルレビュー社:1-4.
  5. 渡邊翔. がん看護 2018;23(7):652-654.