検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。
Contents 2-8
倦怠感
倦怠感はがん薬物療法を行う多くの患者さんに生じる可能性がある症状です1,2)。
倦怠感の原因やメカニズムは解明されておらず、治療法も確立されていません1,2)。
休養しても容易に改善しないことも特徴として挙げられます1)。
また、主観的な症状のため見過ごされやすく、過小評価されやすいため、
多くの患者さんがわかってもらえないつらさを抱えている可能性があります3)。
看護ケアでは、そうしたつらさに寄り添い、共感的に関わることが求められます。
倦怠感の原因
がんやがん治療に伴う倦怠感とは、疲労感を生じるような運動をしていない、あるいは十分に休息が取れているにもかかわらず、日常生活が妨げられるような苦痛(倦怠感)が生じる状態を指します3)。
要因として考えられるものは、がんそのものや、がん治療に伴うもののほかに、発熱、電解質異常・脱水、低栄養、貧血、肝機能障害、睡眠障害、不安、ストレスなどの精神症状によるものなどがあります2)。
アセスメント
症状の把握
倦怠感は主観的な症状であるため、患者さんの話を聞くことが大切です1)。患者さんの体験が症状の緩和につながる重要な手掛かりとなります3)。 また、患者さんによっては、倦怠感は仕方がないものと思って、医療者に言わずに我慢している場合もあるので、聞き取りは定期的に行うことが大切です1)。
倦怠感を感じている患者さんに対しては、症状について詳しく聞くようにします1)。聞く内容は、「いつから症状が現れましたか」(経過)、「どれくらい続きますか」(時期)、「どのくらいのだるさですか」(程度)、「だるいときはどうしていますか」(対処法)などのほかに、生活への影響、だるくなるときのパターンなどを、患者さんと一緒に振り返りながら聞くことが大切です1,3)。
患者さんに治療日記をつけてもらい、症状の程度やパターン、生活への影響などを書いてもらうと、ケアがより効果的になります3)。治療日記は患者さんのセルフモニタリングとセルフケアにも役立つツールです。
倦怠感の対処法
倦怠感の一因と考えられる原因が、貧血や脱水などの治療可能なものであれば治療が必要です1,3)。治療により倦怠感の改善が期待できます。
薬剤によっては倦怠感の原因となることがありますので、このような薬剤を使用するタイミングを患者さんと相談することもあります1)。
非薬物療法としては、運動療法、睡眠の質の改善、リラクゼーションやマッサージなどの補完療法があります1)。アセスメントにより、病状や治療状況、全身状態などを考慮して、患者さんと相談しながら、個々に合った方法を取り入れることが大切です。
運動療法
患者さんの状態にもよりますが、1週間に数回の有酸素運動は、倦怠感の軽減に有効である可能性があります2)。適度な運動は、抑うつや倦怠感の要因となる睡眠の質を高めることにもつながります3)。患者さんの運動習慣や運動能力、生活スタイルに合わせて行うように指導することが大切です。
体力の温存と行動のマネジメント
患者さんが自身の倦怠感の出現状況を把握して、治療中の活動レベルをできるだけ正常に保てるよう、エネルギー配分をマネジメントできるように介入することも大切です2)。具体的には、患者さんが自分で行いたい行動にエネルギーを使えるよう、セーブできるところは他者に委ねたり、負担の少ない方法で行ったりするなど、活動内容を考えていきます3)。
睡眠の質を高める工夫
睡眠障害は倦怠感の要因の一つなので、睡眠の質を高めることによって倦怠感が改善する可能性があります1)。睡眠の質を高めるためには、決まった時間に寝起きする、だらだらベッドで過ごさず、睡眠時だけベッドで寝る、長時間や遅い時間の昼寝をしない、夜間はカフェインの摂取を控え、就寝前にくつろぐ時間をつくるなど、夜間の生活習慣を整えるといった行動を取り入れることが勧められます2)。
倦怠感は治療意欲の減退、自尊感情の低下にもつながるので、症状を見逃さないようにしましょう1)。倦怠感をなくすことが難しくても、患者さんが大事にしていることを共有しながらセルフケアを支えていくことが重要です1)。
資料
看護師
社会医療法人北楡会 札幌北楡病院
看護部
荒 香織 先生
ワンポイントアドバイス
- 看護のコツ -
スケジュールの工夫
だるいからといって何もしないでいると、だるさがずっと続くことで体力が落ちてさらに悪循環になることがあります。だるい状態が続いても、だるさがよくなる時間を患者さんと考えて、そこにリハビリを入れたり、シャワーで清潔なケアをしたりするといった工夫をします。
運動療法
運動療法(リハビリ)は疲れるというイメージがありますが、体を動かすことがだるさの軽減につながります4)。リハビリの先生からも運動療法の有用性を患者さんに伝えてもらったり、看護師からもタイミングを見てリハビリについて伝えてみたりするのもよいと思います。
清潔ケア
だるいと清潔ケアができない患者さんが多くいます。シャワーに入るだけで疲れて動けなくなる患者さんもいますので、全てご自分でやるのではなく、できるところは介助しますよと伝えるようにします。足浴は以前からよく実施されていますが、足を温めることで気持ちが楽になったり、夜眠りやすくなったりしたという患者さんもいますので、足浴も含めた清潔ケアも介助しながらできるようにしています。
貧血や心理面からくる倦怠感
血液疾患では貧血による倦怠感も多くあります。患者さんは貧血の状態に慣れてしまいがちですが、輸血で貧血が改善することもあります。ただし、輸血の効果は徐々に低下してしまうこともあります。治療できない倦怠感には、心理的なことが関与している可能性もあります。長期入院で治療効果がみられないといったつらい時にはだるさも取れにくい印象があります。心理的な理由も倦怠感の原因となっている場合は輸血の効果も限定的になると思いますので、検査値や症状だけでなく心理的な原因が倦怠感につながっていないかという視点も必要となります。
- コミュニケーションのコツ -
倦怠感は主観的な症状なので、周りから理解されにくいというつらさがあります。このようなつらさの中でも、治療に向き合っている患者さんには、「つらい中でもリハビリを頑張っていますね」といった感じで、できているところを探して声掛けしたり、共感する姿勢を持つようにしたりと心掛けています。
また、目標があると頑張れる患者さんが多いので、退院して孫と遊ぶ、といった長期目標を立てて、そこに向けて頑張れるように声掛けをしたりします。小さな目標は日々スタッフとも話して、患者さん本人も考えていらっしゃると思いますが、大きな目標---最終的な目標があると、それに向かって患者さんも頑張れるように感じます。