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検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 2-14

口内炎

口内炎は、化学療法を受ける患者さんに起こりやすい副作用です1,2)
すぐに命の危険に直結する症状ではないものの、日常的に続く違和感や疼痛によって会話が困難となったり、
飲食にも苦痛を伴ったりするなど、心理社会面への負担は小さくありません2)
特に食事によって十分な栄養摂取ができなくなることは、
長期にわたる化学療法を受ける患者さんにとって、体力維持などに影響を及ぼすことになります2)

口内炎は、化学療法の施行中に発生した場合のケアだけでなく、治療前から口腔内トラブルを解消してお
くことでも症状の軽減につながります。また、患者さんのセルフケアにつながる看護支援も大切です。

がん治療による口内炎発症のメカニズム1~3)

化学療法の施行中の患者さんに口内炎が発生する要因は、大きく2つに分けられます。

1つは、抗がん薬の直接作用によるものです。薬剤の種類によって異なりますが、治療を開始してから2~3日が経過した頃から、口腔内の渇きや痛みといった症状が現れ、放置しておくと赤く腫れたり、潰瘍になったりすることもあります。唾液中にしみ出した抗がん薬によって生じた活性酸素によるDNA障害や、サイトカイン産生による口腔内粘膜への直接的な影響が要因になります。

もう1つは、抗がん薬の間接的作用です。治療開始から10日程度が経過すると、血液中の好中球が減少し、免疫機能が低下します。う蝕や歯周病の原因菌の増殖は、通常であれば免疫機能の働きで、ある程度抑制されますが、好中球が減少していると菌の増殖が起こり、口内炎が発生します。

他にも、義歯の不具合や歯列不正による刺激、飲酒や喫煙習慣、唾液の分泌が少ないことなども、口内炎発生のリスクを高めるので注意が必要です。

口内炎への対処法

抗がん薬の投与前、投与中、そして投与後に至るまでケアを行うことが、口内炎の発生や症状を抑えることにつながります。

予防ケア1)

使用する抗がん薬によって口内炎の発生頻度は変わるため、患者さんが使用する抗がん薬を確認します。また、多剤併用療法や大量投与などは口内炎のリスクが高くなるため把握しておくことが大切です。さらに、口内炎リスクを高める要因としてう蝕や歯周病、義歯不適合、口腔内の不衛生などがあります。患者さんの歯磨きなど普段の口腔ケアの状況を確認し、必要であれば抗がん薬の投与開始前に歯科の受診を勧めましょう。

口腔ケア

口唇の裏側、頬粘膜、舌の周囲(側面)などに口内炎が生じやすいため、しっかりと観察します1)。そして口内炎が発生してしまった場合は、悪化を防ぐために保清と保湿を心掛けます1)。こまめなうがいを行い、口腔内を乾燥させないことも大切です3)。乾燥の症状が強い場合には、人工唾液や保湿剤などの使用も検討します2)

疼痛ケア2)

痛みを伴う口内炎に対しては、局所麻酔薬含有の含嗽液や鎮痛薬の使用も検討します。強い疼痛が続くと、摂食量が低下し、栄養状態が悪化する恐れがあります。また、疼痛によって歯磨きなどの保清が不十分になると、さらに口腔環境が悪化するという悪循環にも陥りかねません。そのため、食事や口腔ケアの前に、鎮痛薬により痛みを和らげる方法を考える必要があります。

抗がん薬投与後

次の抗がん薬治療に備えて、口腔内の衛生管理を続けるよう患者さんに指導します1)。患者さんが粘膜の変化や痛みなど口腔の違和感に気付いた場合には、医師や看護師に、すぐに伝えるよう予め指導しておくことが大切です1)。口内炎による痛みで、会話をすることが苦痛になり、医療者へ苦痛を訴えられないケースもあります2)。口腔内ヘルペスやカンジダなどの感染症となれば専門の治療が必要となることも含めて、患者さんに伝えるように心掛けましょう。

表 口腔内の観察ポイント

セルフケア支援

食事の工夫

口内炎が重症化すると、食事ができなくなることもあります。栄養状態の低下は化学療法の継続のためにも避けたいところです。固形物を食べられない状態であれば、細かく刻む、とろみをつけるといった工夫を行うなどの変更を検討します2~4)。ポタージュスープやプリンなど、口当たりがなめらかで栄養価の高い食品を勧めたり、栄養補助食品の使用を検討したりするのもよいでしょう2~4)

歯磨き指導

口腔環境を低下させる歯垢の付着は、食事摂取の有無にかかわらず起こるものです。そのため、歯磨きは朝・昼・晩と就寝前の1日4回実施するよう指導します2)。使用する歯ブラシはヘッドが小さく、超軟毛かスポンジ製のものが低刺激なのでお勧めです1,4)。メントールやアルコールを含む歯磨き粉は口腔内への刺激につながるため、避けた方がよいでしょう1)

もともと正しい口腔ケアの習慣がなかった患者さんの場合、このようなセルフケア指導を行っても、生活習慣を変えることを難しいと感じる場合もあります。そのため、看護師は患者さんの口腔ケアの場を観察し、患者さんの個別性に合わせたケアの方法を考えたり、セルフケアしやすい環境づくりを一緒に考えたりすることも重要です。

資料

  1. 東樹京子. NURSE SENKA 2017;37(9):49-51.
  2. 小池万里子. 看護技術 2017;63(8):809-813.
  3. 蛭田麻未. がん看護 2020;25(2):152-155.
  4. 山田みつぎ. がんサポート 2015;13(5):94-97.

看護師

梶原 悠乃先生

ワンポイントアドバイス

- 予防の重要性 -

口内炎は発生しないように予防することが大事ですので、化学療法開始前から予防ケアを行うことの重要性を患者さんにしっかり伝えます。もし、口内炎ができてしまったら、さらなる悪化を避けることが目標になります。口内炎が発生すると、病変部から細菌などが侵入し感染症になりやすくなったり5)、食事を食べられなくなり栄養状態が悪化することなどが考えられます。

また、入院時は口腔内を観察することが重要です。患者さんの実際のセルフケアの方法や、喫煙歴の有無、歯周病、う蝕などのリスクの有無、歯科メンテナンスの状態といった背景も確認します。

- 口腔ケア -

口腔ケアの基本は保清と保湿です。施設によっては歯科衛生士さんが患者さんに指導してくれることもあると思いますが、看護師も具体的な歯のブラッシング方法などを指導します。

うがいは、三度の食事の前後、起床時、就寝時の合計8回を目安に指導しています3)。レジメンによっては白血球数が非常に低くなることもあるので、そのようなときにはトイレで手洗いをするタイミングでもうがいをするように伝えています。

患者さんによっては、就寝時に義歯を外さない方もいますので、具体的な手入れの方法を確認します。口腔アセスメントガイド(Oral Assessment Guide:OAG)などの評価ツールをスタッフ間で統一して用いることで、観察やケアの効果判定といった情報共有が可能になります。

- 疼痛コントロール -

レジメンによっては口内炎のリスクが高いものもありますので、口腔内をしっかり観察することが大事です。口腔内が渇くと痛みが現れることが多いので保湿スプレーのようなものでこまめに対応するように指導しています。

造血幹細胞移植の患者さんは、口腔粘膜炎の痛みを訴えることが多く5)、そのような場合は鎮痛薬を使用するなどして除痛してからケアをすることが大切です。十分なケアができるように医師と相談しながら疼痛緩和することが重要です。また、歯科医師に口腔ケアの方法を相談する、患者さんの診察をお願いするといった連携も考慮します。

- コミュニケーション -

患者さんに口腔ケアの重要性を理解してもらうためには、口内炎が発生すると痛みから食事が食べられなくなり、栄養状態が悪化することを伝えています。

白血球数の増加に伴って、口腔内の状態は改善するので食事が摂れるようになります。口内炎の痛みでつらいようであれば「それまでの辛抱ですよ」「今は悪化しないようにやっていきましょうね」といった声掛けをします。また、患者さんが食べられる食品や形態を聞きとり、一緒に探していくことが大事です。

ドクター

茨城県厚生農業協同組合連合会 総合病院 土浦協同病院
血液内科 部長

清水 誠一 先生

看護師さんへのメッセージ

- 口内炎の悪化ががん治療に与える影響-

外来で口内炎がひどくなっている場合、飲食ができなくなることから、がんの治療継続に影響する可能性があります。口内炎が発生しやすいレジメンであれば、レジメン変更や症状を軽減させるような対処薬を投与するといった対応が必要となり、外来での管理が困難となれば入院治療への変更となる可能性があるので、口腔内ケアの方法だけでなく、その重要性についても患者さんに伝えることが大切だと思います。

- 歯科との連携 -

口腔粘膜炎の原因やケアについて知ることも大事ですが、歯科との連携を考慮した看護も必要だと思います。歯が痛くて口腔内の清掃不良があったり、歯磨きができないといった場合には、口腔粘膜炎が続発することがあります。そのような場合に歯科に依頼すると適切な処置をしてくれますし、実際に歯科の介入があると患者さんの口腔粘膜炎の発症遅延や早期の改善が見込めることが報告されています6)。保清や保湿のケアについても、歯科との連携が望ましいこともあると思います。

歯系診療部門がない医療機関であれば、歯科医院と連携する方法もありますので、必要であれば近隣の歯科医院へ相談してもよいと思います。

  1. 河野文夫(監修). 造血幹細胞移植の看護(改訂第2版). 南江堂. P115,P127.
  2. 安井昭夫. 日本農村医学会雑誌2016;65(4):766-779.