検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。
Contents 2-18
心不全・不整脈
抗がん薬治療による心不全は、発生頻度は高くはありません。
しかし、多くが慢性的に進行し、発症すると不可逆性であり、
さらに予後不良にもつながることがあるので注意が必要です1~3)。
重篤な心不全を見逃さないためには、治療開始前からのリスク評価や、
治療終了後のモニタリングも大切です。
長期にわたるモニタリングやセルフケアの重要性を患者さんやご家族に理解してもらい、
心不全の早期発見・早期対処につながる看護ケアを行うことが必要です。
心不全/不整脈とは
心不全とは、心臓に器質的異常や機能的異常が生じて心臓の収縮機能が低下し、血液の循環が維持できなくなった状態のことです。また、脈のリズムに異常をきたした状態を不整脈といいます。
抗がん薬治療による心不全は、抗がん薬の種類によって発症のリスクと時期が異なります。さらに、高血圧、糖尿病、心疾患などの基礎疾患の有無、年齢、喫煙歴、飲酒歴、肥満などによってもリスクが高くなります3)。
心不全の症状
心不全の症状は、疲労、息切れ、動悸、咳嗽、胸痛、浮腫、体重増加、尿量低下、手足の冷感、チアノーゼ、意識レベルの低下などさまざまです。ただし、初期には症状が現れない場合や患者さんが症状に気付かない場合があります1)。また、貧血や消化管疾患とまちがわれやすい症状もあるため、適切な鑑別と早期発見・早期介入が大切です。症状の評価には、有害事象共通用語規準(CTCAE v5.0)やニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類などが用いられます。
表 心機能障害の評価
心不全/不整脈の対処法
心不全が起こった場合の対処として、重症度が高い場合は抗がん薬の投与を中止します。抗がん薬治療を継続する場合は、βブロッカー、アンジオテンシン受容体Ⅱ拮抗薬、利尿薬などによる薬物療法を施行します3)。ほかに酸素治療、食事療法、禁煙治療などを行うこともあります3)。
不整脈に対しては、ほとんどの場合が一過性ですが、まれに重篤となるため、適切な対応が必要です3)。治療は一般的な不整脈の治療を行います3)。
心不全は、抗がん薬による治療中だけでなく、治療終了後、数年以上経過してから発現することもあるため、長期にわたるモニタリングが必要となります。モニタリングする項目としては、患者さんによる自覚症状の確認と、心電図、心エコー、胸部X線検査などの心機能検査が挙げられます。
アセスメントとケア
アセスメント
抗がん薬治療を開始する前には、高血圧、心筋梗塞、狭心症、不整脈などの既往歴や治療歴などを聞き取り、心機能の状態や心機能障害のリスクの有無を確認します。
抗がん薬治療によって、心不全が発症する可能性があることや、心不全は慢性的に進行し発症すると治りにくいこと、ときに命に関わることを患者さんに説明します3)。そして重症化予防のためには、患者さんやご家族が心不全の症状を早期に気付くことが大切であることを説明し、セルフモニタリングの重要性について理解してもらうことが大事です。
患者さんやご家族が心不全の症状に気付いた場合は、速やかに病院へ連絡あるいは受診することを伝えます。日頃から治療日記をつけておくと、症状に気付きやすく、医療者に症状を伝えやすいので、治療日記の利用も一案です。
心不全のケア
心不全のリスクを有する患者さんには、普段から心臓に負担がかかる行動を避ける生活指導を行います。食事療法としては塩分制限や水分制限を指導します3,4)。
症状の出現により、患者さんが苦痛と感じていることを把握することも大切です。苦痛を緩和するための環境整備、睡眠援助、マッサージなどの支援を適宜行うようにします3)。
心不全の症状が出現すると、患者さんはがんの病状が進行したのではないかと不安になることがあります。症状は治療の副作用であることを説明し、心不全の治療のための薬をきちんと服用できているかを確認します3)。また、心不全により治療を中断しなければならない場合、患者さんの落胆や不安も計り知れないものがあります。患者さんの気持ちに寄り添った心理的な支援が大切です。
資料