検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。
Contents 2-15
味覚障害
化学療法による口腔の副作用として起こる味覚障害は、
患者さんから食事の楽しみを奪うなど生活の質(QOL)を大きく低下させます1)。
生命の危機には直結しないものの2)、摂食量の減少による栄養不良にもつながりかねず、
体力の低下や治癒不全、治療への意欲といった精神面への影響を招く可能性もあります1)。
味覚障害のメカニズムを知ることにより、予防や食事の工夫、
セルフケアやご家族への支援につなげることが大切です。
味覚障害のメカニズム
化学療法による味覚障害のメカニズムには不明な点が多いものの、抗がん薬による味蕾の障害や、唾液の減少による味物質の到達障害、末梢神経障害などによる味覚伝達障害などによって生じると考えられます2,3)。また、がんそのものや治療のストレスといった心理的な影響、抗がん薬による嗅覚障害、肝臓や腎臓の機能低下なども挙げられます3)。
また、がん患者さんは尿中に正常の約3倍の亜鉛を排出します4)。そのため、亜鉛の欠乏が味覚障害の原因となる可能性もあります。
味覚障害の症状
味覚障害の症状はさまざまです。例えば、何も食べていないのに口の中に不快な味を感じる自発性異常味覚があります2)。また、食べ物を口に入れても味を感じにくい味覚減退では、塩味やうま味の感じ方が低下しやすい一方、酸味や甘味の感じ方は維持されやすいという特徴があります2)。ほかにも、食べ物本来の味と違った味がする異味症もあります2)。
このような味覚障害の症状は、使用する薬剤や個人の特性によっても異なりますが、味覚の変化によってさまざまな随伴症状が起こり、食事摂取の妨げとなります。症状をアセスメントし、それぞれに合った対処法を検討することが大切です2)。
図 味覚変化の随伴症状2)
試験概要5)
対象:
通院化学療法を受け味覚変化を自覚している患者163例のうち回答が得られた148名。
方法:
味覚変化症状の詳細および随伴症状に関する質問紙への回答。症状について5段階で評価してもらい、「かなりあてはまる」「とてもあてはまる」を有症状とした。
アセスメント
味覚障害の原因や症状、症状への対処法や患者さん個々のセルフケア能力などを丁寧にアセスメントすることで、より効果的な支援につなげることができます。まずは薬剤の種類、口腔内および栄養の状態、食嗜好などを総合的に判断しながら、味覚障害による症状をどのように捉えているかを確認します3)。
例えば、食欲の低下が食べることに対する幸福感の減少や孤独感につながっているなど、心理的問題が生じている場合もあります6)。味覚障害により調理が困難になり家事に支障が生じたり、外食の機会が減少したことによる交流の減少など、社会的な問題が生じている可能性もあります6)。身体的な問題だけでなく、心理・社会的側面からのアセスメントを行うことで、支援のポイントも明確になります3)。
また、患者さんがすでに対処法を実践している場合にも、その効果は現れているのか、対処法を実践できていない場合には、その理由などもアセスメントすることが大切です3)。
ケアのポイント
味覚障害に対して、対処は難しいと考え我慢している患者さんもいます3)。その場合、セルフケアの能力が低下してしまう恐れもあります3)。味覚障害に対する相談がなくても、患者さんに寄り添い傾聴するという姿勢を見せることが重要です3)。
味覚障害により食欲低下が起きている場合には、食べたい物を食べたいときに、無理せず摂取するように指導します2)。ただし、味覚の不快な症状があるときに好物を無理に食べようとすると、その後に食べようとしたときに嫌いになってしまうことがあります2)。そのため、お粥やそうめん、アイスクリームなど、万が一嫌いになっても支障がない食品を選んでもよいでしょう2)。酸味や甘味を生かした献立は、味覚障害があっても食べやすい場合があります2)。ただし、手間をかけて調理した料理を美味しく食べられなかった場合は落胆が大きくなるため、普段以上に手の込んだ料理をつくったり、高級な食材を使ったりすることは避けた方が無難です2)。
他にも、肥厚した舌苔は味覚低下につながりやすいため、柔らかい歯ブラシなどで清掃し、保湿ジェル剤で潤すといったケアも有効です1)。ミントやレモン味のシュガーレスキャンディを利用し、唾液分泌を促すことでも症状の改善が期待できます2)。
同居するご家族がいる場合、美味しく食べてもらいたいという思いが強すぎると、患者さんの食生活に介入しすぎてしまい、逆効果になる恐れもあります2,3)。ご家族への情報提供もしっかりと行い、見守るという支援も大切であることを伝えながら、患者さんに寄り添ったケアを心掛けましょう2,3)。
資料
看護師
社会医療法人北楡会 札幌北楡病院
看護部
荒 香織 先生
ワンポイントアドバイス
- 看護のコツ -
こまめなうがい
味覚障害への対応として、治療開始前からこまめなうがいを提案しますが、うがいにもいろいろな種類があります。以前はレモンなどの柑橘系がサッパリするのでよいといわれていましたが、最近はグルタミン酸が味覚異常に有効という報告7)もあります。グルタミン酸を多く含んでいる昆布茶や昆布を勧めたり、昆布のお菓子などを売店においてもらうようにしています。
事前に食べ慣れた食品を準備してもらう
症状が現れる前からご自身が食べられそうな食品を準備しておくようアドバイスします。患者さんから、どのような食品を用意すればよいのか分からないと聞かれた場合、若い患者さんならインスタント食品やカップ麺、冷凍食品といった食べ慣れている食品を提案することもあります。
氷菓を活用する
味覚異常で食欲がない場合などでも、アイスクリームやかき氷などの氷菓を食べやすいという患者さんが多いので購入していただく、あるいは病院食でもアイスクリームやかき氷を選択していただきます。アイスクリームは栄養補給の観点からもカロリー高めのものを用意しています。
高齢者の口腔ケア
高齢者は入れ歯を使用していることが多いので、入れ歯のケアを十分に行うことが大切です。患者さんの口腔ケアの状況を観察したり、事前にアセスメントすることがケアにつながることがあります。治療で痩せてしまって入れ歯が合わなくなった上に、食欲がなくなり、さらに味覚障害が現れると食事が摂れなくなってしまいます。口腔ケアでは歯科と連携し、歯科医師による治療や歯科衛生士さんによるケアをお願いするなどの他職種との連携も大切です。
- コミュニケーション -
高齢者は食べることは生きることにつながる、と考える傾向があるように思います。食べられなくなってつらいというときは、出された食事を全部食べられなくても構いません。少しでも口に入れることが体のためにはよいことです。味覚がないからといって食べない、となってしまうと口腔内や舌の状態は改善しません。味がしなくても「少しは食べるようにしましょう」と声掛けしています。