検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。
Contents 2-5
感染症
血液がんの患者さんは、疾患自体の特徴により感染症が発現しやすいだけでなく、
抗がん薬や放射線治療、造血幹細胞移植(HSCT)などの治療の影響により免疫能が低下することや、
皮膚や粘膜のバリア機能が障害されることにより病原菌が体内に侵入しやすい状態となります1,2)。
感染症は、重症化に伴い抗がん薬治療の施行を延期することにもつながります2)。
患者さんが決められた期間で確実に抗がん薬治療を受けていただくためには、
感染症の発症を予防することと、十分な観察による感染徴候の把握が大切になります2)。
代表的な感染症1)
血液がんに伴う感染症の原因となる微生物には、細菌、真菌、ウイルスなどがあり、血液がんの種類によって原因となる微生物は異なります。
急性白血病や慢性骨髄性白血病急性転化などでは細菌や真菌が主な原因となります。多発性骨髄腫や慢性リンパ性白血病などでは、肺炎球菌やインフルエンザ桿菌、髄膜炎菌などの莢膜を有する細菌が主な原因となり、成人T細胞白血病やホジキンリンパ腫などでは、細菌、真菌、ウイルスなどが主な原因となることが多くあります。
代表的な感染症として、細菌感染症では、敗血症と肺炎に注意が必要です。真菌感染症では、カンジダ感染症およびアスペルギルス感染症の頻度が高く重要です。また、ウイルス感染症では、単純ヘルペスウイルス、帯状疱疹、サイトメガロウイルス感染症(網膜炎や腸炎、肺炎を引き起こす)などに注意が必要です。
アセスメントのポイント2)
がん治療を受ける患者さんの感染徴候は全身にみられるため、発熱、上気道、肺・気管支、下痢、肛門周囲、尿路、皮膚などを十分に観察する必要があります。
上気道
例えば、化学療法中には上気道粘膜のバリア機能が低下しやすく、常在菌などによる上気道炎が起こりやすくなります。咽頭痛や咽頭発赤、扁桃腫脹、鼻汁、鼻閉感などの症状が現れ、これらの症状が悪化すると抗がん薬治療の開始が延期になることもあります。症状が出現した時には直ちに看護師や医師に伝えてもらうよう、患者さんに説明し理解してもらうことが大切です。
気管支/肺
抗がん薬治療中に嚥下障害のリスクが高くなると、閉塞性肺炎や誤嚥性肺炎が起こりやすくなります。そのため、肺や気管支のアセスメントでは、咳や膿性痰、胸痛に注意します。また1週間以内で急速に進行する細菌性肺炎では、聴診による湿性ラ音の聴取や末梢白血球増多などがチェックポイントとなります。
口腔内
口腔であれば舌、歯肉、粘膜全体を観察し、発赤や疼痛、白斑、歯痛などがないかをしっかり把握しておきます。う蝕や歯周病は、口腔常在菌が原因となる局所感染症なので、易感染状態のがん患者さんでは、容易に急性化する可能性もあります。普段は問題とならない局所の感染症が、敗血症など重篤な全身感染症に及ぶ恐れもあります。
尿路
易感染状態の患者さんは、膀胱炎や腎盂腎炎などの感染リスクも高くなるため、頻尿や残尿感、排尿時痛など尿路の観察も大切です。
肛門周囲
肛門周囲の清潔の保持や損傷の予防がおろそかになると、細菌が侵入するリスクが高くなるため、肛門周囲粘膜にびらんや亀裂が起きていないか観察することも重要となります。易感染状態の患者さんの場合、下痢や便秘を起こしやすい薬剤を服用していないか把握しておくことも大切です。
表 観察項目
感染予防ケア3)
感染予防ケアには、口腔ケア、皮膚の保湿ケア、排便コントロールなどがあります。
口腔ケア
口腔ケアではていねいに義歯を洗浄し、歯ブラシやコップを清潔に保つよう患者さんに指導します。
皮膚の保湿ケア
抗がん薬治療により皮膚バリア機能が低下しやすいので、皮膚からの感染を予防するためにも保湿クリームを塗布するなどのセルフケア支援を行う必要があります。
排便コントロール
さらに、肛門周囲からの感染を予防するために、肛門を傷つけないよう排便コントロールを行うことも重要です。
患者指導
抗がん薬治療の施行中には、悪心や倦怠感などの副作用に伴う苦痛によって、ADLが低下しがちです。その結果、セルフケアも困難となり、感染症のリスクを高めることにもつながりかねません。患者さんの状態を適正にアセスメントしながら、感染予防の習慣化が行えるよう、教育・支援を行うことは退院後の感染予防という点でも大切です。
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