検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。
Contents 2-6
発熱
一部の抗がん薬や分子標的薬を除き、多くの抗がん薬でみられる副作用に好中球の減少があります。
骨髄内で骨髄系幹細胞から骨髄芽球へと分化して成熟する好中球は、
その寿命が1日と短いため常に産生されています。
しかし、化学療法によって骨髄の造血能がダメージを受けると
造血幹細胞などが減少することから好中球が減少し、それにより発熱のリスクが高まります1)。
好中球減少時の発熱の原因には、基礎疾患による腫瘍熱や、治療薬による薬剤熱などもありますが、
圧倒的に多いのが細菌や真菌による感染症です2)。
しかし一方では、原因微生物や感染巣が不明な発熱も少なくありません。
好中球減少時期の発熱は急速な重篤化につながり危険性も高いため、
ただちに広域抗菌薬を投与することが重要です3)。
発熱性好中球減少症(FN)
の定義とメカニズム
化学療法に伴う好中球減少による発熱を総称して、発熱性好中球減少症(FN)と呼びます。FNは、発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドラインでは「好中球数が500/μL未満、あるいは1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予測される状態で、腋窩温37.5℃以上(口腔内温38℃以上)の発熱を生じた場合」と定義されています4)。
好中球は体内に侵入した微生物に対し、貪食・殺菌する役割を担います。しかし、化学療法によって好中球が高度に減少した状態になると、殺菌作用が乏しくなり、微生物が循環血液中に侵入します。そして、免疫細胞から炎症性サイトカインの放出が全身に拡大することで、発熱・悪寒などの症状が出現します1)。
FNの原因微生物については細菌が多く、1980年代までは緑膿菌や大腸菌などのグラム陰性菌が大半を占めていました2)。1990年以降になると、黄色ブドウ球菌やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、連鎖球菌などのグラム陽性菌が60~70%を占めるようになっています2)。
このほか、真菌にも注意が必要で、カンジダによる肝脾膿瘍や侵襲性肺アスペルギルス症などによる発熱もみられます2)。
FN発症時の症状の評価
症状の発症時期は抗がん薬の種類や投与量、疾患によっても異なります。好中球数は通常であればおよそ3,000/μLですが、1,000/μL未満になればFNへの注意が必要です2)。悪性リンパ腫などで3週間ごとに繰り返すレジメンの場合は、治療開始10日から14日で好中球数が最低値になることが多く、FNの好発時期と考えることができます2)。
FN発症時には、全血球計算、血清生化学検査などの血液検査、血液培養検査などを実施します1)。感染が疑われる症状や兆候がある場合には、感染が疑われる部位の培養検査や画像検査を追加して行います1)。FNは発熱症状のみの場合も多いものの、感染部位を同定するためには問診や診察を入念に行う必要があります1)。
口腔内、鼻腔、副鼻腔、肛門周囲、そしてカテーテルの挿入部位などにも炎症所見がないか、見逃さないように観察しましょう。局所の疼痛や腫脹、下痢、膀胱炎症状などの有無にも注意が必要です1)。FNの重症化リスクを評価する、MASCCスコアなども活用します。
表1 発熱性好中球減少症の重症度評価
表2 MASCCスコア(スコアリングシステム)
具体的な対処方法
FNと診断された場合には、速やかに抗菌薬による初期治療をスタートします。また、MASCCスコアでFNの重症化を評価し、高リスクであれば入院により経静脈的に抗菌薬の投与を開始します1)。低リスクであれば外来での経口抗菌薬の投与を行います。ただし、自宅での感染予防行動実践が困難と判断された場合には、低リスクの患者さんであっても入院による治療を選択する場合があります1)。
好中球数減少時期の発熱は、急速な重症化によって死に至る危険性も低くありません3)。一方で、原因微生物が確定される前から広域抗菌薬を速やかに投与することで、発熱の症状が改善して死亡率の低下が期待できます4)。そのため、外来治療の患者さんには、発熱時の対処方法や受診の目安などを伝えることが大切です。
患者さんのセルフケア支援
発熱を重篤化させないために重要なことは、感染兆候の観察と感染予防に関する患者さんへのセルフケア支援です。口腔ケアでは、義歯や歯ブラシ、コップなどを清潔に保つこと、可能な限り毎日入浴して全身の清潔を保持すること、便秘により肛門を傷つけてしまわないよう排便コントロールを行うこと、皮膚のバリア機能を保持するために保湿を欠かさないことなど、多方面にわたるセルフケア支援を行うことで感染の予防につなげます1,5)。
患者さんの苦痛の緩和にも気を配る必要があり、発熱時には冷罨法、悪寒戦慄時には温罨法を行うことなどを具体的にアドバイスします5)。また、発熱による化学療法の延期などで生じる患者さんの不安にも寄り添うことが大切です5)。患者さん一人では対応できないこともあるため、ご家族にも教育と支援を行っていきます。
化学療法による副作用症状を重篤化させないためには、看護師と医師、薬剤師との連携により患者さんの理解を補うことが必要です3)。患者さんのセルフケア能力に応じた対応を心掛けながら、不安や迷いが生じた際には遠慮なく病院に相談するように伝えておくことも、患者さんの心理的ケアにつながります。
資料
看護師
梶原 悠乃先生
ワンポイントアドバイス
- 発熱の原因 -
発熱の主な原因には、感染症、薬剤熱、腫瘍熱などがあります2)。発熱の発現時期や血液検査結果を経時的に確認し、原因を予測しながらアセスメントすることが大切だと思います。がん患者さんの場合、免疫能が低下していることが多いので感染症による発熱には注意が必要です。感染症による発熱を疑う場合は、呼吸音の聴取や、皮膚に蜂窩織炎がないか、下痢はないかなど、感染症状についてもアセスメントすることが望ましいと考えます6)。中心静脈カテーテルを挿入している場合は、穿刺部位から感染することもあるので6)、感染兆候の有無を必ず確認し、収集した情報を医師に報告することが大切です。
- 発現時期に注意 -
発熱時にFNを意識し、FNを念頭においた看護が望ましいと思います。化学療法施行開始後10日~2週間は、好中球数がナディア(最下点)となることから、FNの好発時期となります1,2)。この時期の発熱は、対応が遅れると敗血症となるリスクがあり、抗生剤の投与が必要と考えられますので6)、医師に速やかに報告します。いったん解熱しても再度発熱した場合や、発熱が1週間継続している場合、悪寒戦慄を伴う場合、血圧、SpO2、バイタルサインを確認し変化があれば、再度、医師に報告します。
- コミュニケーション -
退院時には、在宅時に発熱した場合の具体的な対応方法を説明します。高齢者では、発熱してもご本人が気付かないことがあるので、毎朝、検温するよう指導します。
2回目以降の入院時には、前回治療時の経過を一緒に振り返ります。ナディアが予測される時期を確認し、「このぐらいの時に最も白血球数が減りましたね」「この時期は注意が必要ですね」と患者さん個々のデータに基づき、説明するようにしています。
解熱しない場合や、熱が上がったり下がったりを繰り返して体調のつらさがあるとセルフケアやQOLが低下することがありますので、励ましながら関わっていきます。「ナディアが終われば、白血球数が増加して発熱は落ち着くので、そこまで一緒に頑張りましょう」「もう少ししたら白血球数が上昇してくると思います。できないところはお手伝いするので一緒にやっていきましょう」と伝えています。
また、発熱による不安に対しては、症状のつらさなどを患者さんに聞きながら、できるだけ頻回に訪室するようにしています。
- 感染予防 -
血液疾患では、患者さんに易出血性と感染予防についてしっかり伝えます。入院時オリエンテーションから感染予防のセルフケアをしっかり獲得できるように介入していく必要があると思います。患者さんごとに習慣が違いますので、手洗いであれば洗い方やタイミングなどを、口腔内の状態であれば、う蝕の有無や、義歯の取り扱い方などを確認することが大事です6)。
外来に移行した後も、ペットとの過ごし方や、温泉や旅行、家庭菜園などの趣味や嗜好を聞き、旅行にはいつから行けるのかなど必要に応じて具体的な対策や、関連情報を伝えるために、患者さんの生活環境を知ることは大切だと思います。
ドクター
茨城県厚生農業協同組合連合会 総合病院 土浦協同病院
血液内科 部長
清水 誠一 先生
看護師さんへのメッセージ
- 発熱の発現時期に注意 -
発熱時の対応として、予め処方された抗生剤と解熱鎮痛薬を服用し、効果がなければ来院するよう指導されている医療機関もあると思います。患者さんから発熱していると電話が来た際に、緊急度を判断するために、状況を確認することが大事だと思います。発熱時に予防内服をしているかどうか、予防内服後も発熱が継続しているか確認します。
また、発熱が治療後1週間以内であれば抗がん薬関連の可能性6)があり、治療後10~14日であれば骨髄抑制による可能性2)が、治療コースを終了している場合であれば再発・再燃、あるいは感染症といった原因の可能性が高くなると思われます。
- 情報共有の有用性 -
発熱の時期によって原因が異なってくることは、医師、看護師さん、場合によっては患者さんも情報として共有しておくとよいと思います。発熱で来院した際に、情報共有ができていれば緊急性の判断がしやすくなると思います。セルフケア用のセットを渡されている患者さんであれば、解熱鎮痛薬を服用してもらい解熱後の翌日の来院という対応につながると思います。
ただし、意識障害を伴ったり、ひどい腹痛を訴えている場合などは他の原因の可能性もありますので、症状を確認することが大事です。また、冷汗が出る、意識がおかしい、といった症状を伴うのであれば、すぐに来院するように伝えます。逆に、前日に抗がん薬を投与して発熱している場合は、レジメンを確認し、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)の可能性も考慮します7)。
- 合併症状と検査項目 -
発熱時に注目してほしい症状は意識状態と血圧です。血圧はご自宅でも測定できますし、可能であれば呼吸数も測定してほしいと思います。入院で夜中に突然発熱した場合はSpO2を測定しますので、もしご自宅にパルスオキシメーターがあれば、SpO2を測定してほしいと思います。
- 発熱の原因 -
好中球数が低下していればFNの可能性があります。免疫チェックポイント阻害薬を投与している患者さんであればirAEを念頭に、レジメンや何コース目なのかといった確認をしたり、投与薬によるアレルギーの可能性なども考慮して対応します。
- 感染予防の指導 -
患者さんは、退院時指導や化学療法導入時に薬剤師さんや看護師さんからも発熱等の副作用について説明を繰り返し受けていると思いますが、血球数の減少と症状を関連付けて記載されている図を活用するなどして、分かりやすく説明することが望ましいと思います。また、「今日から治療開始したので何日目が危ないですよ」「この期間は人混みに行かないようにしてください」というように具体的な期間や対策を指導することが感染予防として大切だと思います。