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検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 2-11

便秘

便秘は、化学療法や放射線治療、
緩和ケアなどを受けている
がん患者さんで高頻度に出現する排便障害です。
慢性的な便秘は、腹痛や食欲不振、倦怠感など、
生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、
自尊心や意欲の低下にもつながります1)
また、多くの患者さんは、他人に排便について話すことは恥ずかしいこと、
行儀が悪いことだと思って、つらさを我慢して話さないこともあるので、
看護師から関心を持って関わっていくことが大切です1)

便秘の原因とメカニズム

便秘とは、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています2)。原因は、加齢による食事量や活動量の低下、抗がん薬や抗うつ薬、オピオイド(麻薬性鎮痛薬)の影響などさまざまです1)。しかし、それらが複雑に絡み合って起こるという特徴があり、多くの場合、長期的に続きます。

便秘への対処法

便秘は1日排便しないだけで苦しいと訴える患者さんもいれば、1週間排便がなくても便秘と気付かない患者さんもいるなど、個人差が大きいため、主観的な体験を聞くことが大事です1)。便秘による症状には、排便回数の減少による腹痛、腹部膨満感、硬便や便排出障害による排便困難、残便感などがあります。他に食欲不振、悪心・嘔吐を訴えることもあります3)。食欲の低下が続くと、倦怠感が現れて、活動量や気力の低下、さらに治療意欲の減退という悪循環に陥る場合もあるため、早期の対処が必要です4)

便秘によるQOLの低下を防ぐためには、排便回数、便の量や性状、排便時の状況、下剤の服薬状況などをがん治療前・治療後にモニタリングする必要があります3)

便秘の薬物療法には、一般的に便が硬い場合は浸透圧性下剤、腸蠕動が低下している場合は大腸刺激性下剤が使われます3)

薬を適切に服用してもらうためには、「排便があるまで下剤の服用を続けましょう」と伝えるだけでなく、それぞれの薬の有効性や効果的な服用時間、服薬方法などを理解してもらった上で、患者さん自身が自分で考えて薬物療法を続けられるように支援することが重要です3,4)

セルフケア支援

便秘の非薬物療法には食事、運動、腹部のマッサージ等があります。これらの生活の工夫をセルフケアによって行います。薬物療法と併せて、患者さんがそれぞれのケアの意味を理解して、適切に行えるように支援することが求められます。

食事の工夫

食事量の低下や偏食は便秘の原因となります。食欲不振や悪心・嘔吐がなければ、食事は1日3食きちんと摂るように説明します。特に、朝食後には胃腸反射が起こりやすく、排便を促すために朝食はきちんと摂ることが大切です3)

便秘の予防・改善のために摂取するよう心掛けたい食材は、玄米、大豆、きのこ、海草、こんにゃくなど、食物繊維の多い食品や野菜です1)

また、十分な水分摂取も便秘の予防・改善に欠かせません1)。食欲がない場合でも、水分摂取量が少ないと便が硬くなりやすいので、冷たい水を飲む、果物を食べるなど、意識して水分を摂取することが必要です1)

生活の工夫

便秘の予防、改善のためには散歩などの適度な運動が効果的です3)。また、腹部を「の」の字にマッサージしたり、腹部や腰部を保温したり、入浴したりするなどは、腸の蠕動運動が促進されるので、可能な範囲で行うようにします1)

十分な睡眠、リラックスできる排便環境を整えることも排便を促すためには大切であることを伝えるようにします3)

排便の工夫

排便時の姿勢も重要です。排便時には、前かがみの姿勢は最適な直腸角度の保持につながり、腹圧がかかりやすいため、排便がスムーズに行えるようになります1)。和式トイレでは自然に前傾姿勢となりますが、洋式トイレでは意識的に前傾姿勢にすると排便がしやすくなります3)

図 便秘予防のプログラム(腹部のマッサージとトイレの工夫)

図 便秘予防のプログラム
(腹部のマッサージとトイレの工夫)



便秘の治療では、その日の排便状況に合わせて患者さん自身で下剤の服用を調整したり、食事や生活を工夫したりしてもらうことが必要となります1)。そのためには、患者さんに排便状況を確認して判断することの重要性を理解してもらうことが大切です1)。また、医療者に排便の状態を伝えてもらうことも必要です。しかし、患者さんの中には自分の便を見る習慣がなく、他人に排便について話すことは恥ずかしいと感じている人もいるようです。

便秘のケアにおいては、セルフケア方法を伝えるとともに、便の状態を看護師に伝える際には、恥ずかしがる必要はないと伝えることも大切です。

資料

  1. 根岸恵. 看護技術 2017;63(10):1001-1005.
  2. 日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会(編集). 慢性便秘症診療ガイドライン2017. 南江
    堂. P2
  3. 山本理恵. がん看護 2020;25(2):147-151.
  4. 畠山明子. YORi-SOUがんナーシング 2020;10(6):
    595-598.

看護師

梶原 悠乃先生

ワンポイントアドバイス

- 便秘の原因 -

便秘の原因の1つとしてオピオイド(麻薬性鎮痛薬)1)や制吐剤3)などによる薬剤性があります。また、血液内科で使用する薬剤にも重度の便秘やイレウスになりやすいものがあるので5)、薬剤性の便秘の可能性はないのかという確認も必要だと思います。

また、腸管内にリンパ腫がある悪性リンパ腫では便秘になりやすく、それがイレウスや、穿孔などのリスクにもなりますので6)、腹部の観察や便秘の評価は重要となります。

- アセスメントのコツ -

排便があったとしても力まないと排便できないのであれば、それは便秘と考えられますので、患者さんから便秘は解消したと言われても、腹部音を聴くなどして本当に解消されたのかアセスメントすることも必要です。

便秘では排便状況の確認、具体的には排便回数や最後の排便はいつだったかといった内容を聴取し、便秘の原因を推測しながらアセスメントすることが大切だと思います。

高齢の方だと「出ている」と言っても、実は少量であったり硬かったりということもあるので、便の量や性状、腸音、腹部所見などを全て確認した上で、その原因を推測し医師に報告することが大事だと思います。

便の性状にもよりますが、排便があるからといって下剤を一度に全てやめてしまうと、再度便秘になることがありますので、排便状況を確認しながら下剤を使用することも考慮します。

下剤は種類によって作用機序が異なるので、下剤の効果が発現した時期、排便の状態、便の性状などをアセスメントし、薬剤の特徴に合わせた使い分けも必要になります。

- コミュニケーションのコツ -

排便コントロールでは、患者さんと排便に関する意識・認識を一致させることが大事だと思いますし、特に高齢の方は便の性状を確認することが望ましいと思います。患者さんが外来に移行したときに、ご自分で下剤の服用を調整できるように、服薬アドヒアランスを評価することが必要だと思います。

下剤が効きすぎて下痢になってしまうと、患者さんが下剤の服用を嫌がるようになることがあります。適度な軟らかさの便を出せるように、下剤の機序をよく理解した上で患者さんと一緒に下剤の服用を調整することが大事だと思います。

ドクター

茨城県厚生農業協同組合連合会
総合病院 土浦協同病院
血液内科 部長

清水 誠一 先生

看護師さんへのメッセージ

- 便秘の看護でのポイント -

基本的なことですが、便通の有無や、便秘の日数といった記録をきちんとカルテに残しておくことが大事です。勤務交代時には、きちんと申し送りをして記入しておくと、患者さんの記憶があいまいな時などに有用になります。

主治医ではない医師が診療する際に、患者さんの排便状態を知りたいとなると、カルテで下剤の処方歴を確認しますが、実際の服薬状況などを確認したい場合もありますので、看護師さんには処方歴や服用状況について把握しておいてほしいと思います。また、化学療法のレジメンによっては薬剤性の便秘もあるので、レジメンを確認し、把握しておくことも大事だと思います。

- 便秘のアセスメントのポイント -

患者さんの下剤の服用状況を確認するのも大切ですが、患者さんの言葉をそのまま医師に伝えるのではなく、腹診をして左下腹部で便塊に触れるか、腹部音を聴くといった確認も行ってほしいと思います。例えば、便が詰まっていて排便ができない可能性があるなら、摘便も考慮して肛門から指を挿入して便の状態を確認します。便が引っかかっていることが分かったなら、医師に報告し摘便や浣腸といった指示を受けることができますし、患者さんへの対応もスムーズに行えます。

- 羞恥心への配慮 -

摘便となれば患者さんには羞恥心が生じることもあるでしょう。ベッドサイドでの摘便は、臭いを気にして同室の患者さんに申し訳ないという気持ちになることもあるようです。また、トイレに行きたいときは、転倒・転落防止のために看護師さんが連れていくのでコールをするように伝えても、ご自分で歩いて行ってしまう患者さんもいます。それで粗相してしまうと、「下剤を飲みたくない」となることもあります。

周りに迷惑をかけてしまうことを恥ずかしいと感じ、我慢してしまうことがあるように思いますので、そこは配慮が必要です。ただ「トイレに行きたいときは呼んでください」と言うのではなく、患者さんごとに配慮した声掛けが必要だと思います。

- 患者教育について -

患者さんの排便については、医師よりも看護師さんの方が関わることが多いと思います。患者さんの排便状況に合わせた下剤の服薬指導をしても、患者さんによっては下剤の自己調整を理解していないことがあります。

例えば、薬が一包化されていると、どの錠剤が下剤なのか分からずにずっと飲み続けてしまい下痢になっていることがありますので、患者さんのセルフマネジメント力に応じた対応が必要だと思います。また、入院すると便秘になるという患者さんもいますので、日々配薬する看護師さんから状況に合わせた下剤の服用方法について、伝えてもらいたいと思います。

最近は新しい作用機序の便秘治療薬も出ていますので、薬剤の特徴を理解し、情報をアップデートすることも医療者としてとても大事だと思います。

  1. 矢島明子ほか. 日本赤十字看護学会誌
    2005;5(1):124-130.
  2. 中村昌太郎ほか. 日本消化器内視鏡学会雑誌
    2014;56(10):3599-3606.