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検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 2-10

下痢

下痢はがん患者さんに高頻度で出現し、脱水や栄養不良を伴う中等度以上の下痢は
14%以上に認められるという報告もあります1)
特にがん薬物療法、放射線療法などのがん治療で発現しやすく、
重症化することもあるため、注意が必要です1)

また、下痢が続くと自尊心の低下など精神面への影響も大きくなるので2,3)
患者さんの気持ちに寄り添った看護が求められます。

下痢の原因とメカニズム

下痢は、通常よりも水分が多い便、形を成さない液状の便を頻回に排出する状態をいいます4)。原因はさまざまですが、がん患者さんの特徴としては、薬剤性、放射線療法、手術療法、腸管閉塞、食事栄養、心因性などがあります2)。抗がん薬、抗菌薬、免疫抑制剤、一部の消化器用薬などでは重度の下痢を起こす可能性があるので注意が必要です4)

抗がん薬による下痢には、投与後早期に発症するものがあり、投与開始から24時間以内に発現する「早発型」と、24時間以後に発現する「遅発型」に分類されます4)。また、投与後1~2週間経ってから発現する「後期発症」の下痢もあります4)

下痢への対処法

下痢が続くと、体重減少、倦怠感、脱水、電解質異常、栄養不良などの症状が出現することがあります2、3)。さらに重症化すると、循環不全など生命の危機につながる可能性もあります5)

がん治療に伴う下痢の重症化を防ぐためには、脱水の徴候、電解質、腎機能などをモニタリングすることが大切です5)

副作用としての下痢は、症状が軽症であれば、患者さん自身でセルフケアすることができますが、重症化したときには医療の介入が必要となるため、がん治療開始前から、患者さんにセルフモニタリングの必要性を伝え3)、下痢を起こしやすい薬を使用する場合は、下痢の出現が薬と関連づけられるように伝えておくことも大事です5)

主なモニタリング項目は、次の通りです。

図 モニタリング項目

下痢の治療は、早発型では抗コリン薬、遅発型では止痢薬の使用を検討します5)。止痢薬には、腸管運動を抑制する薬、腸管粘膜保護作用により刺激を緩和し、炎症の治癒を促す収斂薬、腸内物質を吸着排除する消化管用吸着剤、腸内のpHを調整し、腸内の異常発酵を抑制する乳酸菌製剤などがあります5)

下痢が続くことで起こる脱水や電解質異常の予防のために補液の使用も検討します5)

セルフケア支援

がん治療中に下痢が出現した際には、非薬物療法として、患者さん自身が食事、環境、清潔ケアなどをセルフケアできるように支援することも大切です。

食事の工夫

食事は、消化管を刺激して下痢が悪化する可能性があるので、脂肪の多い揚げ物や牛乳などの乳製品、食物繊維、炭酸飲料やカフェイン、アルコールなどの刺激の多い食品は控えるように指導します2,3,5)。特に、脂肪の多い食品は下痢の引き金になることもあるため注意が必要です3)

下痢の予防や重症化を防ぐためには、消化吸収が良い食べ物を選ぶことが大切です5)。また、冷たい食べ物より、温かい食べ物の方が、胃腸の負担が軽減されます2)

下痢が発現しているときは、脱水を防ぐために水分補給が大事です。水やお茶だけでなく、電解質が補給できる経口補水液やスポーツドリンクなどを飲むように勧めます2)

環境の工夫

下痢が続くと疲労感、倦怠感が引き起こされるので、自宅では、腹部を締め付けないゆったりとした服装を選び、できるだけ楽な姿勢で休息を取るように伝えます。また、お腹を冷やさず温めることも大切です2)

清潔ケア

下痢便の多くは酸性に傾いていることが多く、下痢が続くことで肛門周囲の皮膚が炎症を起こしやすくなります2)

皮膚障害の予防には、排便後は温水洗浄便座で肛門周囲を清潔に保つようにすることも一案です2)

また、トイレットペーパーでごしごし拭き取ると擦れて痛みを生じることがあるので、できるだけ柔らかい紙で押さえ拭きして、皮膚に刺激を与えないよう指導します2)

肛門周囲の皮膚を保護するために、予防的に軟膏を塗るなどのケアを患者さんと一緒に考えていくことも大切です3)

心理的支援

下痢は羞恥心を伴う症状であるため、下痢が続くと患者さんは不安を感じたり、自尊心が著しく低下したりすることが考えられます3.5)。患者さんに下痢の症状などを報告してもらう際には、患者さんが安心して伝えられるよう、プライバシーが確保された部屋を準備して、落ち着いて話ができるように、余裕のある時間設定も含めて環境を工夫することが大切です3)

また、多くの患者さんは、他人に排便について話すことを恥ずかしいこと、行儀が悪いことと考えていて、中には症状を話すのをためらう患者さんもいます2)。「下痢の症状を伝えることは治療にとって大事なことです。恥ずかしいことではありませんので話してください」と伝えるなどして、患者さんとの信頼関係を構築していくことが、継続した看護ケアのために大切です。

資料

  1. 杉本侑孝. 治療 2021;103(10):1252-1257.
  2. 根岸恵. 看護技術 2017;63(10):79-83.
  3. 淺野耕太. YORi-SOU がんナーシング 2020;10(6):590-594.
  4. 厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 重度の下痢(R3年4月改定)
    https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1g17-r03.pdf(2023年2月22日閲覧)
  5. 出口直子. がん看護 2020;25(2):143-146.

看護師

梶原 悠乃先生

ワンポイントアドバイス

- アセスメントのコツ -

下痢の原因には薬剤性1)や移植片対宿主病(GVHD)6)などさまざまありますが、血液内科では特に感染症による下痢に注意する必要があると思います。また、二次的なトラブルとしてスキントラブル、脱水といった点にも注意して看護します。

GVHDでは便の性状や量、排便回数などが大事な指標になりますので6)、正確に教えてもらえるように患者さんに伝えます。また、出血傾向のある患者さんやGVHDの患者さんは血便が出ているかどうかも把握して6)、医師に報告するとよいと思います。

下痢の発現が治療開始後何日目なのかといった発現時期や腹痛などの随伴症状、便の性状、量、排便回数を正確に医師に伝えることで、医師は治療をする際の判断材料として活用することができます。感染性なのか、抗がん薬によるものなのか、GVHDによるものなのかといった視点でのアセスメントが大事になります。

- モニタリング -

モニタリングとして、便の性状、量、排便回数などの観察や、腹痛などの随伴症状にも注意します6)。下痢が頻回に続くと肛門周囲のトラブルが起こるので、拭き取る際には皮膚への刺激を与えないように押さえ拭きにすることが大事です。

また、造血幹細胞移植の患者さんは下痢をきたすことが多いので、二次的なトラブルを避けるためにも下痢が始まる前から、お尻や肛門周囲には軟膏などの撥水性のある外用薬を塗るなどして予防的にケアをすることも考慮します3)

- コミュニケーションのコツ -

レジメンが下痢になりやすいものであれば、オリエンテーション時から下痢について説明しておきます。患者さんにも下痢を知ってもらうこと、心構えをしてもらうことは大切だと思います。

口と肛門はトラブルが起きやすいので、しっかりケアをする必要があることや、温水洗浄便座の使い方を説明するなど、できるだけ皮膚に傷を作らないようにする方法を治療開始前から説明します。また、患者さんには「我慢しないでいつでも声を掛けてください」と伝えることで、下痢に対する不安を解消してもらうように心掛けています。

下痢で下着を汚してしまったりすると、患者さんの自尊心が傷つくことがあります。このような状態を避けるためにも、予防的に紙パンツの使用を提案することもあります。

ドクター

茨城県厚生農業協同組合連合会 総合病院 土浦協同病院
血液内科 部長

清水 誠一 先生

看護師さんへのメッセージ

- 看護師さんにも確認してほしいポイント -

下痢では、腹痛の有無、水様便か非水様便か、血液が混入している下痢便か、嘔吐を伴っているかといった点を確認しています6)。また、抗がん薬の投与中に起こる早発型の下痢か、遅発型の下痢かということも重要なポイントになります4)

- 尿量の確認 -

下痢により脱水になると無尿になる可能性があるので、尿量が減少していないか確認します。入院中であれば尿量やバイタルサインを把握できますが、外来で尿量の把握が難しいのであれば、間接的に判断する指標として入室時に体重を確認します。下痢による体重減少であれば、血圧が低下していないか、脈拍数が増加していないかを確認し6)、場合によっては入院も考慮します。また、前回の化学療法施行時と比べて、体重が著しく減少していれば、下痢による体重減少だけでなく脱水の可能性が示唆されるため、このような視点も観察する際に重要だと思います。

- 下痢の発現時期に注目 -

下痢は症状だけでなく、発現した時期にも注目してほしいと思います。発現したタイミングを確認し、化学療法開始後何日目の下痢なのかという視点も必要だと考えます。血液検査の結果から骨髄抑制期で好中球数の減少が確認されれば、感染症による下痢が疑われます。また、骨髄抑制期には感染予防として抗生剤を投与されていることが多く、抗生剤による下痢7)ということもあります。感染性の下痢が疑われる場合は血清CRP値を確認しますが、数値だけで判断せず症状もみることが大事です。抗生剤の投与による下痢では、血便、発熱、腹痛の症状を呈することが多いという特徴があります7)

このような視点で評価した結果として、看護師さんから「早発型で化学療法剤によるコリン作動性の下痢と考えられる」と報告してもらったり、好中球数が減少している時期に「発熱と腹痛を伴い、抗生剤を飲んで何日目で、緑色の下痢便です」といった報告をもらえると、その後の対応がスムーズになると思います。

  1. 河野文夫(監修). 造血幹細胞移植の看護(改訂第2版). 南江堂. P138-139.
  2. 鈴木康夫. 日本消化器病学会雑誌 2010;107(12):1897-1904.