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検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 2-13

悪心・嘔吐

がん薬物療法に伴う悪心・嘔吐(CINV)は患者さんにとって非常に苦痛であり、
生活の質(QOL)が低下するだけでなく、
治療中止やレジメンの変更につながることも少なくありません1,2)
抗がん薬の種類により発現頻度は異なります。
治療開始前からの制吐薬の使用で症状の発現を予
防するこ
とが可能ですが、それでも症状が発現
し、持続することもあるため、治療前からの評価
が欠かせません。
また、悪心・嘔吐は自覚症状で
あるため、医療従事者と患者さんで
評価が異なる場合もあります3)

悪心・嘔吐では、患者さんのセルフケア、セルフモニタリングの情報を共有し、
つらさに寄り添った看護ケアを行うことが求められます。

悪心・嘔吐の原因、
メカニズム

がん薬物療法における悪心・嘔吐は、薬剤が脳の嘔吐中枢や消化管の粘膜を刺激することで起こります4)。また、治療に対する不安や心配が嘔吐中枢を刺激して、症状が現れることもあります4)

悪心・嘔吐はその発現時期により、急性、遅発性、突出性、予期性に分類されます5)

急性は抗がん薬の投与後から発現し、24時間以内に消失する症状、遅発性は24時間以降に発現し、5日くらいで消失する症状、突出性は制吐薬を予防的に投与したにもかかわらず、悪心・嘔吐が発現・継続する症状をいいます。予期性は、以前の治療で悪心・嘔吐を経験した患者さんが、精神的な要因でがん薬物療法を行う前から発現する場合をいいます。

悪心・嘔吐は、食欲不振、低栄養、脱水、治療意欲の低下、治療継続の不安などの原因となり、患者さんのQOLの低下、治療継続の中断にも影響するため、適切な予防と対処が必要です2)

悪心・嘔吐への対処法

がん薬物療法における悪心・嘔吐の治療の基本は発現予防です5)

抗がん薬は、催吐性リスクにより高度催吐性リスク、中等度催吐性リスク、軽度催吐性リスク、最小度催吐性リスクに分類されています5)。事前に患者さんの年齢、性別、飲酒習慣、全身状態などのリスク因子5)も考慮して、制吐薬が予防的に投与されます。がん薬物療法で使われる制吐薬は、主にNK1受容体拮抗薬、5-HT3受容体拮抗薬、副腎皮質ステロイドの3 剤で、抗がん薬の催吐性リスクに応じて使い分けられます5)

突出性の悪心・嘔吐には予防で使用した制吐薬とはタイプの違う薬剤が使われます5)

予期性の悪心・嘔吐では、事前の確認が不可欠です。抗がん薬治療が初めてでない場合は、以前に治療を行った際の副作用の症状を把握し、予防策を講じる必要があります5)

発現した悪心・嘔吐に対処するためには、患者さんの症状を正確に把握することが大切です。しかし、悪心・嘔吐は患者さんの自覚症状の訴えにより評価されるため、医療従事者と患者さんで評価にずれが生じることがあります3)

有害事象共通用語規準(CTCAE v5.0)などを用い、客観的に評価することが大切です。

表 がん治療に伴う悪心・嘔吐の客観的な評価

表 がん治療に伴う悪心・嘔吐の客観的な評価

客観的に評価するためには、患者さんの話をよく聞いて、患者さんの主観的な評価を把握することも必要です。Visual Analogue Scale(VAS)、Numerical Rating Scale(NRS)、フェイススケールなどのツールを用いて、主観的な評価を認識・共有することも一案です1,3)

アセスメントと
セルフケア支援

がん薬物療法の悪心・嘔吐をコントロールするためには、患者さんによるセルフケアが必要です。

特に催吐性リスクが高度の医薬品による治療中であれば、作用機序の異なる数種類の制吐薬が処方されるため、患者さんが適切に服用できるようにアセスメントすることが重要です2)

また、悪心・嘔吐の症状を正確に評価して適切な治療をするためには、セルフモニタリングが必要です。モニタリングの内容としては悪心・嘔吐の有無、出現時期、持続時間、嘔吐回数、食事量の変化、体重減少の有無などがあります5)

外来治療の場合は、治療日記などを利用して、次回の受診日までの記録を書いてもらうことが悪心・嘔吐の予防、改善に有効です2)

患者さん自身が実践できる予防としては、体を締め付ける衣類を避ける、芳香剤、柔軟剤、煙草などのにおいの強い物を避けるなどがあります4)。症状がある場合には、無理せず食べられる物を食べる、食べられなくても水分はこまめに摂る、刺激が少なく消化に良い物を食べる、リラックスできる環境づくりを心掛けるなどがあります4)

また、患者さんの中には、「吐くほどではないから」などと、悪心があっても我慢してしまう人もいるので、「症状への対策はあるので、症状がある場合は我慢しないで教えてください」と伝えることも大切です1)

資料

  1. 小池万里子. YORi-SOUがんナーシング
    2020;10(6):570-574.
  2. 三浦佳代ほか. がん看護 2017;22(4):393-397.
  3. 沖田憲司. Expert Nurse 2017;33(2):53-55.
  4. 秋吉由利子. 消化器ナーシング 2021;26(9):864-868.
  5. 日本癌治療学会. 制吐療法診療ガイドライン(http://
    www.jsco-cpg.jp/guideline/29.html#cq01)

看護師

梶原 悠乃先生

ワンポイントアドバイス

- 予防の重要性 -

抗がん薬による悪心・嘔吐は、発現させないよう予防することや、患者さんに我慢させないことが大事です。急性の嘔吐が一度起きると、次々と予期的に起きてしまうことが多いので予防が第一となります。

悪心・嘔吐のリスクとして、催吐性リスクの高い薬の服用、男性よりも女性、つわりの経験がある女性などが挙げられます6)。そのような背景にも気を付けるとよいと思います。

また、制吐薬が適切に使われているかを評価することも必要です。患者さんに我慢させないという意味でも、患者さんへの説明だけでなく早めに医師に伝えるようにしています。制吐薬を服用しても吐き気が強いようなら、制吐薬が最適なのかどうかを薬剤師も含めて確認することもあります。

- 他職種との連携 -

外来の患者さんが悪心・嘔吐について医師には伝えず、看護師に伝えてくることがあります。このような場合は、看護師から医師に状況を伝えても正確に伝わらないことがあるので、薬剤師にも相談し、薬剤師から医師に報告してもらうようにしています。他職種と連携することで患者さんの症状改善につなげるように心掛けています。

- 嘔吐時の看護 -

嘔吐後は口の中がすっきりするように、うがいをしてもらったり、氷や冷たい物を口に含んだりしてもらいます。臥床では胃液が上がってきてしまうので、ギャッチアップして座位をとれるようにしてあげたり、換気可能な状況であれば換気をしてあげることもよいと思います。

吐き気で苦しむ患者さんには、付き添ってあげることも大事です。また、吐き気で食事を摂れないようであれば、栄養士さんと相談し食事の形態を変えることも考慮します。においが食べられない原因になることもありますので、食べられる食品を一緒に探していくことが必要だと思います。温かい物は駄目だけれど冷たい物は食べられる、喉ごしがいい物なら食べられる、など患者さんと一緒に考えて試していくことが望ましいと思います。

- 悪心の発現期間 -

患者さんに、「抗がん薬による悪心・嘔吐の発現は7日くらいで消失することが多い7)こと」を説明すると、ゴールがみえてくるので気持ちが楽になるようです。悪心・嘔吐の原因は抗がん薬だけでなく、腸閉塞や脳転移、カルシウム値の上昇などの電解質異常、尿毒症、腎臓疾患、心因性などさまざまありますので、原因についても考慮した看護が必要になると思います。

- 治療日誌の活用 -

悪心・嘔吐に限りませんが、患者さんに治療日誌を書いてもらい、ご自身の体調管理に活用してもらうことを勧めます。ただし、治療日誌は書く人はきちんと書きますが、書かない人は書かないので、患者さんには治療日誌の有用性を説明します。診療時の短い時間内に医師に的確に症状を伝えるには、治療日誌が必要になることを伝えると、患者さんも治療日誌の活用に前向きに取り組んでくれると思います。

ドクター

茨城県厚生農業協同組合連合会 総合病院 土浦協同病院
血液内科 部長

清水 誠一 先生

看護師さんへのメッセージ

- 悪心における患者教育の重要性-

催吐性の高いレジメンの場合、悪心・嘔吐の発生時には制吐薬を服用するよう、事前に指示することがあります5)。がん治療といえば「脱毛」と「吐き気」というイメージを患者さんも持っているので、吐き気で食べられなくなることを当たり前と感じ、患者さんによっては吐き気があっても制吐薬を服用せず、「吐き気があってつらかった」と後から伝えてくることがあります。

外来の場合は患者さん自身でのセルフケアになりますが、吐き気が現れる時期や、吐き気への対処として制吐薬の服用といった指導をしたり、吐き気があれば医療者に伝えていただくように説明するとよいと思います。

- 嘔吐で注目してほしい検査値 -

嘔吐により胃液・腸液が減少し、カリウム値が低下すると不整脈が現れることがありますので、カリウム値には注意が必要です8)。患者さんが頻回に嘔吐している場合は、内服でのカリウム補充は難しく、点滴で補正する必要があるため、入院加療が選択されることもあります。

また、高カルシウム血症、低ナトリウム血症による嘔吐もあります9)。カリウム、カルシウム、ナトリウムの値には注意してほしいと思います。

- 嘔吐の原因にも留意 -

嘔吐の原因は化学療法だけではありません。例えば再発・再燃や脳転移10)という可能性もありますので、症状をきちんと確認することが大事です。脳出血や脳腫瘍による嘔吐の可能性も考慮し、頭痛やせん妄といった嘔吐以外の症状はないかといった観察も大切です10)

また、消化管の閉塞なども嘔吐の原因となることがあるので11)、便秘、腹痛の有無、腹部膨満、腹水貯留などを考慮して観察してほしいと思います。疾患進行や合併症による悪心・嘔吐の可能性を意識した看護を心掛けることが大切だと思います。

- 他職種連携の要として -

悪心・嘔吐の症状がある場合、入院中や医療機関によっては外来でも他職種連携として栄養士さんの指導が入ることがあると思います。このような場合は、看護師さんは栄養士さんとの連携という点で要となってくれることが多くあります。悪心・嘔吐による患者さんのQOL低下を予防するためにも、看護師さんには今後も要としての活躍を期待しています。

  1. 小林由佳ほか. 静脈経腸栄養 2013;28(2):627-634.
  2. 長坂沙織ほか. 医療薬学 2007;33(4):310-317.
  3. 要伸也. 日本内科学会雑誌 2006;95(5):826-834.
  4. 沼部敦司. 日本内科学会雑誌 2012;101(6):1698-1707.
  5. 野村和弘. 脳神経外科ジャーナル 2003:12(5):323-329.
  6. 戸倉夏木ほか. 日本消化器外科学会雑誌
    2007;40(4):522-527.