section common Banner section common Banner

検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 3-6

晩期障害

造血幹細胞移植後の回復過程は患者さんごとに異なっており、合併症もなく順調に経過する場合も
あれば、感染症やGVHDなどの合併症が想像以上の苦痛となり、QOLなどに影響することもあります。

晩期障害は、治療が終了して数カ月から数年後に、がんそのものからの影響や、
薬物療法、放射線治療などの治療の影響によって現れます。
看護師は晩期障害をマネジメントすることと、
患者さんのセルフケアを支援することが大切になります。

慢性GVHD1)

急性GVHDと異なり、慢性GVHDの病態発症の機序はよくわかっていません。膠原病と似た臨床症状や自己抗体が認められることから自己免疫疾患の病態が考えられています。頻発する症状として、皮膚症状(皮疹、落屑、乾燥など)、口内炎(潰瘍形成、口腔内の赤みなど)、下痢(水様~泥状便、腹痛)、出血性膀胱炎(下腹部痛、排尿時痛など)、眼症状(ドライアイ、視力異常など)があります。

患者さんは、症状が現れても「もう入院したくない」という思いから、医療者やご家族に隠すことがありますので、早期発見・早期治療の重要性を理解してもらうことと、ご家族には症状観察を依頼することが望ましいでしょう。

心機能障害2)

心機能を障害する可能性がある薬剤を投与した後は注意が必要です。寛解導入療法の時から使用している抗がん薬を確認し、累積投与量を定期的に評価するだけでなく、患者さん自身にも自覚症状について注意してもらうよう生活指導(食事、運動、禁煙、体重維持など)を行います。

性機能障害2)

多くの患者さんが移植前に抗がん薬の投与や放射線照射の治療歴があり、さらに移植前の処置により性腺機能が影響を受けている可能性が高いです。女性であれば、更年期障害が自然経過よりも早く発現し、心身ともに対応が難しいこともあります。定期的なフォローでは、自覚症状の有無やその程度を確認し、日常生活への影響についても聞き取り、場合によっては、ホルモン補充療法も選択肢となることを伝えます。男性であれば、勃起障害、射精に関する問題などが起こることがあります。男性も女性も移植後は妊孕性が維持できないことが多いものの、維持されていることもあるため、場合によっては避妊の必要性があることを伝えます。

出血予防1)

移植後は血小板数が回復するまでに時間がかかり、不安定になることもあります。退院後も皮膚や粘膜が薄弱であることから容易に出血する状態にあるといえます。生活環境が病院から自宅に移行すると、活動範囲も広がるため出血予防の指導をします。
具体的には、外傷、打撲を避けて皮膚を傷つけないように注意する、長時間の同一体位や圧迫、衣服による締め付けをしないようにする、柔らかい歯ブラシを使用するなどの指導を行います。

資料

  1. 河野文夫(監修). 造血幹細胞移植の看護(改訂第2版). 南江堂. 105-114、180-185.
  2. 日本造血細胞移植学会(編集). 同種造血細胞移植後フォローアップ看護(改訂第2版). 南江堂. 5-6、123-142.

看護師

医療法人 原三信病院
看護部 主任

横田 宜子 先生

ワンポイントアドバイス

- 晩期障害の看護ケア -

長期フォローアップ外来(LTFU外来)で、きちんと継続して通院するよう伝えます。慢性GVHDなどは退院後に出現したり、症状が持続する場合もあります。社会生活を送りながらの治療になりますので、個々の患者さんに合ったケアなど提案し、継続できる方法を一緒に模索していきます。また、年数が経過すると受診を忘れたり、来院しなかったりすることがあるかもしれませんので、「今後も外来で治療を継続します。節目のスクリーニング検査はしっかり受けて、よりよい生活を過ごせるようにしましょう」と伝え、退院したら終わりではないことを理解してもらいます。

患者さん自身に自覚症状がなくても、スクリーニングとして移植後、半年、1年、2年といった節目のスクリーニングを行うことが大切です2)。また、二次がん予防として胃カメラや大腸カメラなどの検査を受けてもらうよう指導することや、メタボリック症候群などの晩期合併症などについての指導2)も重要です。

- コミュニケーションのポイント -

退院後は、患者さんの生活や社会的立場などを聞き取り、そこから患者さんごとに必要な支援を考えるようにしています。今のままでいいのか、変更や修正をした方がいい点はないか、という視点で聞き取ります。体調のよい患者さんは病院に来た時だけ病気のことを考えるといった方も多いので、来院時は心配事をしっかり聞くようにしています。性腺機能障害など患者さんから話しにくいことは、問診票などを利用して気掛かりを探索しています。

AYA世代では、入学や就業、結婚といったライフイベントが多く、不安が増強する場合もあります。ライフイベントの時には特に注意して話を聴くようにしています。就業については、「なかなか就職先が見つからない」「就職先に自分の病気のことをどこまで言ったらいいだろうか」といった質問を受けることもあります。一度退職すると再就職が難しい場合があるので、そのような場合は社会資源の利用や、多職種に協力してもらい次に進めるようにしていきます。

ドクター

医療法人 原三信病院
血液内科 主任部長

上村 智彦 先生

看護師さんへのメッセージ

- 慢性期のQOL -

医師は慢性期には原疾患の再発や慢性GVHDの沈静化、臓器障害の有無などを主に確認しており、多忙な日常診療の中ではQOLまで考慮することは難しいことがあります。そのような観点から、看護師さんには患者さん個別の生活上の悩みや移植に関連する困り事などを聴取してほしいと思います。
例えばセクシャリティーの問題などは、患者さんも医師に聞くのは抵抗感があるものです。日々の診療やケアの中で、いろいろな悩みや相談事を話しやすい関係性を構築することが非常に重要です。

- 患者さんの相談窓口として -

患者さんは悩みや疑問があっても、どこにどう相談したらいいかわからないということもあります。LTFU外来に関わる看護師さんには、患者さんがどんな相談でもできるような関係を構築し、困り事の窓口となり調整することが必要だと思います。困り事の全てを看護師さんが解決する必要はなく、患者さんが最初に相談する窓口として、介入のきっかけになってほしいと思います。
また、在宅支援の必要性を医師が気付く場合もあれば、看護師さんがコミュニケーションの中から気付くこともあるでしょう。看護師さんにも自立的にその必要性に気付く立場であってほしいと思います。