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検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 2-20

脱毛

化学療法による脱毛は、患者さんに急激な外見の変化をもたらし、
生活の質(QOL)にも大きな影響を与えることがあります。
患者さんによっては、自尊感情が低下し、抑うつ状態を招く場合もあります1,2)
一方、脱毛の捉え方には個人差があり、
いろいろなウィッグを楽しみたいと前向きに考える患者さんもいます1)
年齢や性別、社会的背景だけにとらわれず、患者さん個々の価値観やニーズを十分に理解することが、
適切なケアの実践につながります2)

脱毛の要因

毛を作る毛母細胞は、活発に細胞分裂することで成長、つまり毛を伸ばしています。一方、抗がん薬には毛母細胞のように細胞分裂が盛んな組織に作用するという特徴があるため、副作用として脱毛が生じます3)

脱毛は治療開始1~3週間程度で始まります2)。抗がん薬の種類によって程度は異なり、治療中に全ての毛が抜け落ちることもあれば、毛量が減少する程度の場合もあります3,4)。また、毛の抜け方もさまざまで、脱毛が徐々に進む場合や、短期間で抜け落ちることもあります3,4)。そして、治療終了後3カ月くらいから発毛が始まります2,3)

患者さんの理解と準備状況のアセスメント

脱毛に対するケアを行うためには、脱毛への理解、準備や対応状況が整っているかをアセスメントすることが大切です2)

脱毛の時期や程度に対する理解状況を確認し、それに対する苦痛の程度、外見の変化に対してどうしていきたいのかなどのこだわりも把握しておくことが重要です2)。そして、帽子やウィッグなど脱毛に対する準備はできているか、そもそも準備の必要性を感じているのか、脱毛時期の過ごし方なども確認します2)

脱毛を誰にも気付かれないようにしたいのか、職場などにも伝えて帽子で過ごしてもよいのかなど、患者さんの思いに沿ってケアするために十分なアセスメントを行います2)

段階ごとのケア

治療前

進行、再発がんでの延命や症状緩和など、患者さんの治療目的と社会的背景などを考慮しながら、治療により予想される脱毛の程度と必要な準備を説明します3)。脱毛が始まったときに手入れをしやすくするため、髪を短くカットしておくのも一つの手段であることを伝えます3,4)。ウィッグは高価であるため、パンフレットや展示会などの活用を促して納得できるものを購入できるようにサポートします3)。眉毛の脱毛はメイクでカバーできますが、もとの眉の位置や形を確認できるよう、予め顔写真を撮影しておくようアドバイスするのもよいでしょう3)

治療中

脱毛に対する心構えができていても、実際に脱毛が始まると大きなショックを受ける患者さんは少なくありません3)。看護師にとってはよく知った経過でも、患者さんにとっては初めての、大きな不安の伴う経験です。看護師はこのことを念頭に置き、患者さんの心に寄り添ったケアを行う必要があります。

脱毛が進むのを恐れて、洗髪を控えるようになる患者さんもいますが、清潔のためには正しく洗髪するように指導します3)。脱毛抑制効果をうたう高価なシャンプーを使用する必要はなく、使い慣れたものでよいことも伝えます3)

治療後

発毛には個人差があり、発毛が始まっても髪質が脱毛前とは異なることで、患者さんがショックを受ける場合もあります3)。もとの髪質に戻るまでは2年程度を要することなど、事前にしっかりと説明しておくことが大切です3)

脱毛に対するアピアランスケアは、患者さんが持つ自己像との乖離にどう対処できるかが鍵となります2)。社会的背景やライフスタイルを考慮し、暮らしの場面ごとの悩みに耳を傾けながら、心理サポートも並行して行います1,2)

表 アピアランスケアのプロセス

脱毛症状に対するサポート

自治体によってはウィッグの購入費用に対して補助を行うケースがあるほか、基金やレンタルなどもあります2,3)。患者さんが活用しやすい情報提供を心掛けましょう。

男性は女性と比較して、眉毛や睫毛の脱毛に対するメイクに慣れていません。より簡単でシンプルな方法を伝え、口頭だけでなく実際に行いながら指導した方がよりよい支援につながります5)

脱毛が始まると、患者さんはそれまで通っていた理・美容室には行きにくいと感じることもあります。治療について打ち明けるのが難しい場合は、脱毛への対応に慣れている病院内の理・美容室や、ウィッグメーカーのサロンなどを紹介するとよいでしょう4)

資料

  1. 入江佳子. YORi-SOUがんナーシング 2020;10(6):608-613.
  2. 村上富由子. がん看護 2020;25(2):163-166.
  3. 伊藤里佳. 消化器ナーシング 2021;26(9):870-874.
  4. 池辺琴映ほか. がん看護 2018;23(4):385-388.
  5. 久野真知子ほか. がん看護 2018;23(4):389-391.