section common Banner section common Banner

検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 2-17

腎障害

点滴や内服によって体内に吸収された抗がん薬は、代謝後に体外に排泄されます1)
そのため抗がん薬の副作用は、主要な代謝・排泄経路の1つである腎臓にも腎障害が現れることがあります1)
腎障害は、抗がん薬による腎臓への直接障害による場合だけでなく、
治療によりがん細胞が急速に死滅(崩壊)することで起こる腫瘍崩壊症候群のような場合があります1,2)

腎臓に対するダメージの程度は、基本的には抗がん薬の累積用量と相関するため、
治療回数と比例して顕在化するケースが多くなります1)
抗がん薬の投与による腎機能の低下は、一度発症すると不可逆的であることが少なくありません1)
そのため、リスクの評価を慎重に行い、発症の予防と早期発見が重要となります。

腎障害に注意すべき抗がん薬

抗がん薬の種類によって腎障害のパターンやリスクは異なります1)。特に注意したいのが、腎排泄型の抗がん薬です。患者さんの腎機能が低下している場合は抗がん薬の用量調節が必要となることもあるため、治療開始時には患者さんの腎機能や、抗がん薬の腎障害リスクの確認が重要です1)

また、全ての抗がん薬は腎障害のリスクが考えられるため、治療中は患者さんの尿量・補液量・飲水量などのin-outバランスを観察するほか、体重の増減や浮腫の有無などにも注意しながら経過観察し、腎障害に起因するこれらの異常の早期発見に努めましょう2)

そのためには患者さんの協力も不可欠です。尿量や体重測定の重要性を伝え、飲水励行などの指導を行うことも大切です2)

注意すべきアセスメント項目

治療開始前には、血液検査や尿検査、腎機能検査などを参考にアセスメントし、腎障害の有無やリスク因子を確認します2)

推定糸球体濾過量(eGFR)は腎機能を反映しているため、抗がん薬の用量調節に役立ちます。eGFR値が60mL/minを下回る場合には、薬剤の減量を考慮する必要があります1)。腎障害のリスクが高まる状態として、食事量の低下や低アルブミン血症、血管内脱水(胸腹水、ほか)などがあります1)

また、体重の軽い高齢者や女性の場合、血清クレアチニン値が基準値内であっても、潜在的に腎機能が低下していることがあります1)。これらのリスクがある患者さんでは、血清クレアチニン値が低値であっても、腎排泄型の抗がん薬を使用した場合に腎障害が強く現れることが多いため、注意が必要です1)

表 腎機能の検査別アセスメント項目

治療開始後は、血清クレアチニン値と尿蛋白、血尿、円柱所見、タンパク定量などの項目を注意深く観察しながら、腎機能低下の徴候を見逃さないように努めます1)。使用する抗がん薬の種類にもよりますが、最低でも各コースに1回は血液検査と尿検査を行い、継続的に記録するようにします1)

腎不全の症状は食欲不振や倦怠感など、非特異的なものから始まるため、症状から早期発見を行うことは難しいとされています1)。しかし、尿量の減少や浮腫、胸腹水による呼吸困難、電解質異常などの尿毒症症状が見られる頃には、すでに重症腎不全である可能性もあります1)

具体的な予防策

腎障害を一度発症すると、治療による改善は難しいため発症を予防することが非常に重要となります1,2)。予防の方法として、腎障害のリスクである脱水を避けるため、飲水励行の指導や、点滴による水分補給など、十分な水分摂取が大切になります1)

抗がん薬によっては、1日に数リットルに及ぶ大量補液と、それに見合った尿量を確保するために利尿薬が投与されます。ただし、低栄養状態やもともとの腎機能または心機能に問題がある患者さんの場合、大量補液そのものが負荷になることもあります1)。体重や尿量の詳細な観察と共に、心不全の徴候として末梢や眼瞼の浮腫、呼吸音などもチェックすることが大切です1)

補液管理や尿量管理は、腎障害による化学療法の中断を防ぐためにも重要ですが、患者さんの身体的、精神的負担となることも確かです。疾患の理解を深める指導と同時に、患者さんへの労いも大切です3)

さらに、外来化学療法を施行する患者さんには、「排尿が半日以上ない」「治療後に体重増加が止まらない」など、腎障害が疑われる場合の症状について、詳細な情報を提供します。自宅でこれらの副作用が出現した場合は、速やかに病院へ連絡するよう指導します2)

腫瘍崩壊症候群について

抗がん薬の投与後、がん細胞が急速に死滅(崩壊)することで電解質異常や高尿酸血症を起こし、急性腎不全や不整脈等を発症することがあります。これは腫瘍崩壊症候群と呼ばれ、治療開始後24~72時間以内に発症することが多く、予防として補液の確実な投与と尿量の確保、尿酸生成抑制薬の投与などがあります2,4)。アセスメントとして、浮腫の有無や体重増加、呼吸状態などを観察し、症状出現時には速やかに対処する必要があります。

資料

  1. 舛本真理子. 月刊ナーシング 2016;36(2):40—43.
  2. 松山円. プロフェッショナルがんナーシング 2013;3(6):604-606.
  3. 竹本朋代. がん看護 2020;25(2):121-125.
  4. 松山円. プロフェッショナルがんナーシング2015;5(4):347-349.