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検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
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現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 2-7

B型肝炎ウイルス再活性化

がん薬物療法では、既往感染者のB型肝炎ウイルス(HBV)が再活性化することがあります。
HBV再活性化による肝炎は劇症化しやすく予後が悪いため、注意が必要です。
HBV再活性化によるがん治療の中断や肝炎の再発を防ぐには、治療前から肝炎のリスクを把握し、
それに応じた対策を講じることが重要です。
患者さんがHBVの再活性化を理解し、治療に向き合えるような看護支援が求められます。

がん薬物療法に伴うHBV再活性化の原因とメカニズム

HBVの再活性化とは、抗がん薬治療により肝炎の活動性がないHBV感染者でHBVが再増殖することです。B型肝炎の既往感染者は、肝細胞内に少量のウイルスが残存していますが、普段は免疫監視機構によってウイルスの増殖は抑えられています。しかし、抗がん薬治療によりリンパ球による免疫監視機構が減弱化するとHBVが増殖しはじめます。

HBV自体は肝細胞を破壊する力はないものの、治療が終わり、免疫監視機構が回復すると、増殖したHBVに免疫が作用して肝炎が再発します。HBVの再活性化によって起こる肝炎は劇症化しやすく、予後不良のことが多く、注意が必要です1)

HBV再活性化への対処法

HBV再活性化への対処は、HBV再活性化を見逃さないことと、再活性化による肝炎の発症を防ぐことです1)。そのためには、がん薬物療法を開始する前に、HBVマーカーを確認し既往感染者であることを把握することが大切です1)

抗がん薬治療の開始前に全ての患者さんにおいて抗原抗体検査を行い、「B型肝炎治療ガイドライン(第4版)」に基づき、HBs抗原陽性あるいはHBV-DNA量が20IU/mL以上の患者さんには、肝炎発症予防として核酸アナログ製剤を投与します2)。 

治療中はHBVウイルス量の確認と肝障害を有害事象共通用語規準(CTCAE v5.0)等で評価します3)

表 肝機能障害の重症度評価

HBV再活性化の多くは、がん薬物療法の治療中ではなく治療終了後に発現するため、治療終了から少なくとも約1年間は核酸アナログ製剤の投与を継続する必要があります。また、核酸アナログ製剤の投与終了後もHBV-DNAのモニタリングを行い、再活性化を見逃さないことが大切です4)

アセスメント3,5)

核酸アナログ製剤の投与が必要な患者さんには、服用の重要性を認識してもらい、継続的に服用してもらうなど、アドヒアランスを有効に保つためのアセスメントが大切です。 

B型肝炎の自覚症状としては、全身倦怠感、発熱、筋肉痛などのインフルエンザ様症状、黄疸発現時のそう痒感や発疹などの皮膚症状、食欲不振や悪心・嘔吐などの消化器症状などがあります。ただしHBV再活性化では、HBVが活性化して肝機能評価で異常が認められても、すぐに自覚症状が現れないこともあるため注意が必要です。肝炎症状が劇症化すると、インフルエンザ様症状の持続、出血傾向、体重増加、腹部膨満感、見当識障害、昏睡などの症状が現れることがあります。

HBV再活性化の診断後は原則、入院して安静臥床、核酸アナログ製剤投与などの治療が行なわれます。食事制限はありませんが、黄疸がみられる場合は脂質の摂取を制限します。

患者さんにとってHBV再活性化の診断は、がん治療の延期や中止、それに伴うがん進行の不安など、現状を受け入れにくい可能性があります。患者さんの抱える不安や気がかりを理解し、がん治療の再開に向けてHBV治療が必要であることを伝え、治療に前向きに取り組んでもらうことが大切です。

資料

  1. 香取美津治ほか. 月刊ナーシング 2016;36(2):56-62.
  2. 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会(編). B型肝炎治療ガイドライン(第4版)
    (https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b.html)
  3. 濱田のぞみ. がん看護 2020;25(2):159-162.
  4. Kusumoto S, et al. Hematology Am Soc Hematol Educ Program 2014;2014(1):576-583.
  5. 吉田ミナ. プロフェッショナルがんナーシング 2013;3(6):607-610.