血液腫瘍免疫の基礎
Lesson 01
獨協医科大学 内科学(血液・腫瘍) 教授
今井 陽一 先生 監修
抗体を用いた治療がB細胞性非ホジキンリンパ腫などの治療で実用化され、すでに20年以上が経ちますが、現在も抗体は生物学的製剤の中心を占めています1-5)。
抗体医薬品は治療戦略にあわせてさまざまな標的をもち、例えば、
造血器腫瘍の治療ではCD20、CD30、CD33、CD38、CD52、CD79b、SLAMF-7(CD319)、CCR4などが治療標的とされています1-5)。
さらに、最近では二重特異性モノクローナル抗体(BsMAb)、抗体薬物複合体(ADC)、
CAR T細胞療法などのあらたな技術も開発されつつあります1-6)。
抗体による
がん細胞傷害のメカニズム
抗体によるがん細胞の傷害には、複数のメカニズムが存在します1,2)。
まず、抗体による直接的ながん細胞の傷害についてです。抗体は、がん細胞表面に存在する抗原を標的とします。標的抗原に結合することで、がん細胞のアポトーシスを誘導したり、下流シグナルを活性化あるいは不活性化して、がん細胞の生存・増殖に影響を及ぼします。また、酵素や薬物を結合した抗体は、がん細胞にそれらの化合物を運搬することでがん細胞を傷害します(図1)1,2)。
一方、免疫機能を介したがん細胞の傷害があります。抗体は、さまざまな免疫細胞の表面に発現するFc受容体を介したエフェクター機能によりがん細胞を傷害します1,2)。造血器腫瘍の治療では、これらの作用が重要と考えられており、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、補体依存性細胞傷害(CDC)などがあります(図1)1,2,6,7)。
NK細胞をはじめとするエフェクター細胞の表面に存在するFc受容体に、
がん細胞に結合している抗体のFc領域が結合することによってシグナル伝達経路が活性化されます。
溶解酵素、
パーフォリン、グランザイム、腫瘍壊死因子(TNF)などのさまざまな物質が、エフェクター細胞から分泌され、
がん細胞を破壊します1,2,6,7)。
マクロファージをはじめとするエフェクター細胞は、 がん細胞に結合した抗体のFc領域によって貪食作用が活性化され、 ファゴリソソームによりがん細胞が溶解します1,2,6,7)。
補体のC1qにがん細胞に結合した抗体のFc領域が作用することで、補体カスケードの古典的経路が開始します。膜貫通チャネルである膜攻撃複合体を形成してがん細胞を傷害します1,2,6,7)。
抗体の構造と特性
免疫グロブリン(Ig)には、IgGやIgMといった種類がありますが、主に医薬品に用いられているのはIgGです3-5)。
IgGは、抗原結合部位であるFab領域とエフェクター機能に関わるFc領域、ヒンジから構成されます(図2)3-5)。
Fab領域は標的抗原への親和性や特異性など、Fc領域はADCC/ADCP、CDCの活性制御や血中動態、免疫原性に関与しており、
これらの2つの領域によってさまざまなエフェクター機能が得られます3-5,8,9)。
抗体によるエフェクター機能:
IgGとFcγ受容体
抗体による
エフェクター機能:
IgGとFcγ受容体
IgG には4 つのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)があり、それぞれヒンジ領域の長さ、鎖間ジスルフィド結合の数、Fcエフェクター機能が異なります2,5,9)。
一方、ヒトFcγ受容体(FcγR)には6つのサブタイプ(FcγRⅠ、FcγRⅡa、FcγRⅡb、FcγRⅡc、FcγRⅢa、FcγRⅢb)があり、発現している免疫細胞の種類、
Fcへの結合親和性、生物学的活性が異なります2,5,9)。
IgGはFcγ受容体との結合によってさまざまなエフェクター機能を誘導します。その機能はIgGのサブクラスとエフェクター細胞に発現するFcγRの種類によって決まります(図3)2,5,9,10)。
IgGのサブクラスのうち、IgG1はCDC活性を誘導するだけでなく、すべてのFcγRに対して高い親和性を示します。 IgG1は、NK細胞上のFcγRⅢaを介したADCC活性や、 マクロファージや単球、樹状細胞上のFcγRⅠやFcγRⅡaなどを介してADCP活性を誘導します。
一方、IgG4はFcγRⅠのみ、IgG2はFcγRⅡaのH131型のみに高い親和性を示し、エフェクター機能の誘導能は低いと考えられます(図4)2,4,5,9,10)。IgG3はエフェクター機能やFcγRに対する親和性は高いですが、他のIgGよりもヒンジが長く遺伝子多型も認められることから、 安定性が低く免疫原性のリスクがあると考えられ、治療薬には不向きであるとされています4,5)。
造血器腫瘍では、がん細胞上の抗原を標的としてADCCやADCP活性の誘導を期待した抗体製剤が多いため、多くの抗体製剤でIgG1が選択されます5,11)。ADCC活性の誘導を増強させるために、 Fc領域の糖鎖のうちフコースを除去したIgG1も実用化されています (図5) 11-16)。
また、さまざまながんに対して使用されている免疫チェックポイント阻害薬では、細胞傷害性T細胞(CTL)上の免疫チェックポイント分子
(PD-1など)を標的とする場合には、ADCC/ADCP活性などが誘導されないようにIgG4が主に選択されますが、がん細胞上の免疫チェックポイントリガンド
(PD-L1など)を標的とする場合には主にIgG1が選択されます5,11,15,16)。
このように、抗体製剤では、標的に応じてエフェクター機能を誘導すべきか否かを考慮し、IgGのサブタイプが選択されています。
Lesson 01
獨協医科大学 内科学(血液・腫瘍) 教授
論文16)の著者にはBristol-Myers Squibbから指導料などを受領しているものが含まれる。
2022年12月作成
承認番号 2204-JP-220019121
シーズン1
Lesson 06
B細胞リンパ腫に
おけるがん微小環境
INDEX
シーズン2
Lesson 02
NK / NKT / γδT細胞
による細胞傷害活性
その他のLesson