血液腫瘍免疫の基礎
Lesson 02
社会医療法人川島会 川島病院 血液内科 主任部長
徳島大学 名誉教授
安倍 正博 先生 監修
がん治療における抗体療法では、がん細胞表面に発現するタンパクを認識するモノクローナル抗体を用いて、抗体依存性細胞傷害 (ADCC)をはじめとするエフェクター機能の誘導を期待しています1-8)。ADCCは、IgGの受容体であるCD16(FcγRⅢA)を発現する免疫細胞により誘導されますが、CD16はナチュラルキラー細胞(NK細胞)やガンマデルタT細胞(γδT細胞)に発現することが報告されており、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)についてもその可能性が検討されています9-11)。
そこで、がん免疫治療の新たなアプローチとして、これらの細胞の数的増加や機能増強を狙った研究が行われています1-8)。細胞傷害活性を示す
さまざまな免疫細胞
免疫反応は自然免疫と獲得免疫に大別でき、それぞれを担う細胞は異なりますが、両者の間にはさまざまなクロストークが存在します11)。NK細胞、NKT細胞、γδT細胞はいずれも共通のリンパ系前駆細胞を起源として分化した細胞であり、NK細胞は自然免疫を担う自然リンパ球で、NKT細胞とγδT細胞は自然免疫と獲得免疫の両方を担うT細胞サブセットです
(図1)9-11)。
NK細胞による
細胞傷害活性
NK細胞は、CD8陽性細胞傷害性T細胞(CTL)と同様、感染細胞やがん細胞に対して細胞傷害活性を示すとともに、サイトカインの分泌などにより獲得免疫にも影響を与えます5-7,9,12)。NK細胞の活性はさまざまな活性化受容体や抑制性受容体により制御されており(図2)、受容体の発現量は疾患ごとに異なることが報告されています5,9)。
これらの受容体のうち、MHC(主要組織適合性遺伝子複合体)クラスⅠ分子受容体であるNKG2ファミリーには活性型と抑制型、両方の受容体が含まれています。
なかでもNKG2D(CD314)は、正常細胞には発現しないMHCクラス様分子であるMICAやMICBなどと結合し、MDSやホジキンリンパ腫において、あるいは意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)から多発性骨髄腫(MM)への移行やMMの進展に伴い発現低下することが示唆されています5,9)。
NK細胞の機能(細胞毒性、サイトカイン産生、増殖能など)は、これらの受容体から受け取る活性化シグナルと抑制性シグナルのバランスに応じて調整されます5-7,9,12)。 NK細胞が正常細胞と相互作用する場合は、活性化と抑制のバランスがとれることで細胞傷害作用は誘導されません(図3a)7)。 一方、NK細胞がMHCクラスI分子を消失したがん細胞(図3b)や、ストレスを受けたことで活性化リガンドの発現が増加した細胞(図3c)と相互作用する場合は、NK細胞が受けるシグナルに偏りが生じることで細胞傷害作用が誘導されます7)。 なかでも、活性化受容体のひとつであるCD16(FcγRⅢA)は、IgG1 やIgG3 のFc領域と結合することでADCCを誘導します2,5-7,9,12)(図3d)。
がん患者ではNK細胞の数的減少や機能不全が認められています。さらに、いくつかのがん種において、がん微小環境に浸潤するNK細胞が多いことが良好な予後と関連する可能性が報告されています5,13-16)。 このような背景から、NK細胞の細胞傷害活性を誘導する治療戦略として、抗SLAMF7抗体などを介したADCC活性の誘導やNK細胞上の抑制性受容体の阻害などのアプローチが考案されています
(図4)1,5,6)。
NKT細胞による
細胞傷害活性
NKT細胞は、自然免疫と獲得免疫の中間的な役割を担う細胞です。NKT細胞は、NK細胞受容体(NKR)とT細胞受容体(TCR)を発現し、刺激に素早く反応して、免疫応答を調節するサイトカインやケモカインを産生します11,17,18)。
NKT細胞はTCRの多様性から主にType ⅠとⅡに分けられます。Type ⅠのNKT細胞はTCRに多様性がなく、エフェクター機能を示すinvariant NKT(iNKT)細胞として知られています。さらに、iNKT細胞はヘルパーT細胞と類似しているため、NKT1、NKT2、NKT17などのサブセットに分類されます。一方、Type ⅡのNKT細胞のTCRには多様性があり、免疫抑制性の働きをすると考えられています(図5)6,17-19)。
iNKT細胞はサブセットごとに異なる組織に局在すると考えられています。ただし、樹状細胞やがん細胞などのCD1d上の脂質抗原を認識する点は共通した特徴です。iNKT細胞は、パーフォリンやグランザイムの放出、Fasリガンドなどを介して直接がん細胞を攻撃します。
また、iNKT細胞はIFN-γなどの放出を介してNK細胞やCD8陽性T細胞などを活性化することで、間接的にがん細胞を攻撃すると考えられています(図6)6,17-20)。
これまでに、複数の腫瘍モデル動物を用いた研究において、glycolipid α-galactosylceramide (αGalCer)によるiNKT細胞の活性化が腫瘍の排除や転移の抑制につながることが報告されました9,21,22)。
その他、MM患者の骨髄ではNKT細胞が減少している可能性や、iNKT細胞の数的増加が良好な予後に関連する可能性が報告されています6,23-25)。このような背景から、iNKT細胞を用いた治療戦略として、がん患者から採取したiNKT細胞をex vivoで培養後、αGalCerを提示させた樹状細胞とともにがん患者に輸注する方法などが考案されています6)。
γδT細胞による
細胞傷害活性
γδT細胞は、多くのT細胞とは異なり、γ鎖とδ鎖で構成されるTCRを発現する細胞です。γδT細胞は、サイトカインの産生やMHCに依存しない抗原認識により自然免疫と獲得免疫の両方に関与します。がんでは、その作用はがん微小環境とのクロストークにより誘導されると考えられています8,9,26-28)。
γδT細胞にはTCRの違いによって複数のサブセットがありますが、ヒトでは主にVδ1型とVδ2型が知られています8,28)。サブセットごとに体内分布は異なり、Vδ1型は上皮や脾臓などに、Vδ2型は血中に存在すると報告されています8)。
ヒトγδT細胞の主要なサブセットであるVδ1陽性T細胞とVγ9/Vδ2陽性T細胞において、がん細胞の認識に関わるTCRやNKR、それらのリガンドを図7に示します8)。たとえば、Vγ9/Vδ2陽性T細胞は、NKG2DなどのNK活性化受容体をもち、リンパ腫細胞に発現するULBP1などで活性化することが報告されています8,27,29)。また、Vγ9/Vδ2陽性T細胞はCD16(FcγRⅢA)を介した抗腫瘍作用も示します。さらにαβT細胞のエフェクター細胞への分化やNK細胞の活性化にも関与しており、間接的にも抗腫瘍作用を誘導します8,9,26-28)。ただし、IL-17を産生する一部のサブセットは免疫機能を抑制し、がん細胞の生存・増殖を促進すると考えられています27)。
γδT細胞ががんに対する生体防御を担うことはよく知られていますが、MMの進行に伴いγδT細胞の機能不全が顕著になり、またMMの前がん状態であるMGUSにおいても骨髄内ではγδT細胞の機能不全がすでに惹起されている可能性があることも報告されています8,23)。
このような背景から、γδT細胞の細胞傷害活性を誘導する治療戦略として、ex vivoやin vivoでリン酸化抗原(がん細胞上に発現する非ペプチド抗原)とIL-2によってTh1 様のγδT細胞を活性化・増殖させる方法やがん細胞特異的なモノクローナル抗体の併用によってADCC活性を誘導する方法、免疫チェックポイント阻害薬の導入などの治療戦略が考案されています8,27,28)。
Lesson 02
社会医療法人川島会 川島病院 血液内科 主任部長
徳島大学 名誉教授
論文1)の著者にはBristol-Myers Squibbから指導料などを受領しているものが含まれる。
2023年4月作成
承認番号 2204-JP-230013211
シーズン2
Lesson 01
抗体がもたらす
エフェクター機能
INDEX
シーズン2
Lesson 03
造血器腫瘍における
抗体療法とその応用
その他のLesson