

検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。
退院後は患者さん自身による感染対策を行うことが必要となりますが、医療者との接点も少なくなり、
外来管理が主体となって頻回のモニタリングが困難になることから、セルフケア指導の重要性はより高まります1)。
看護師は、患者さんが日常を取り戻していく中で、個々の能力に合わせた患者支援を継続して行うことが大切です。
外出
花粉や粉塵の中には真菌が含まれていることもあり、これらが体内に侵入することで感染症を起こす可能性もあります1)。そのため、うがい、手洗い、点眼などで洗い流したり、マスクの着用で侵入を防いだりするよう指導します1)。旅行は気分転換によい機会となりますが、主治医の許可を得てから行動するのがよいでしょう。また、旅行先の衛生状態や感染症の流行状況は事前にしっかりとチェックするように伝えます。制限だけでなく、患者さんが安全に外出を楽しめる工夫を考えることが必要です1,2)。
家族環境
ご家族にもうがいや手洗いなどの基本的な感染対策を習慣づけてもらうことが重要です。インフルエンザワクチンの接種も望ましいでしょう1,2)。また、ご家族に咳や痰などの呼吸器症状がある場合は、室内でもお互いがマスクを着用し、なるべく近づかないように接触を避ける必要があります1)。水痘、麻疹、風疹、帯状疱疹などの感染性疾患にも十分な注意が必要です1,2)。
自宅での注意点3)
通院治療中の患者さんには、自宅の調理器具を洗浄・乾燥し清潔に保つよう配慮すること、エアコンのフィルター清掃や寝具類の清潔を保つこと、毎日の体温測定と感染兆候の観察など、自宅で過ごす際に心掛ける注意点なども伝えるとよいでしょう。
移植後の患者さんであれば、すでに獲得していたウイルスの抗体価が経時的に低下します1)。そのため、感染対策の一環としてワクチン接種を考えます。特に侵襲性肺炎球菌感染症や水痘帯状疱疹ウイルス感染症、季節性インフルエンザウイルス感染症などには注意が必要で、中でも肺炎球菌感染症は進行が早く、命に関わる経過をたどる可能性も高いため、早い段階でのワクチン接種の開始が望まれます1)。
ワクチンには、病原体の生存の有無により不活化ワクチンと弱毒生ワクチンの2種類があります。接種時期については、移植からの期間や免疫抑制剤の投与の状況などによって患者さんごとに検討する必要があります。
移植後のワクチン接種については「造血細胞移植ガイドライン予防接種(第3版)4)」に以下のように記載されています。
造血細胞移植後のワクチン接種スケジュール例(予防接種第3版要旨)
1) 開始基準:不活化ワクチンは移植後6ないし12カ月を経過して慢性移植片対宿主病GVHDの増悪がないこと。生ワクチンは移植後24カ月を経過し、慢性GVHDを認めず、免疫抑制剤の投与がなく、輸血や通常量のガンマグロブリン製剤の投与後3カ月、大量のガンマグロブリン製剤あるいは抗CD20抗体の投与後6ヵ月を経過していること。
移植後のワクチン接種の考え方については、日本造血細胞移植学会ガイドラインの更新情報を確認し、施設での方針を検討しておくとよいでしょう2)。
看護師
社会医療法人北楡会 札幌北楡病院
看護部
荒 香織 先生
- 看護のコツ -
感染予防行動についての説明
がん治療により好中球が減少すると感染しやすくなるので、患者さんには感染予防の行動の重要性を繰り返し説明したり、退院後は実際の生活における行動を聞いて、個々に合わせて行動を修正していただくように指導します。指導を実施するタイミングは患者さんが一時退院する際や、退院前に行っています。血液がんの種類によっては複数回の入院が予定されているので、一時退院や退院時に繰り返し説明し、外来時や再入院時に実際の過ごし方を確認します。
仕事に復帰する患者さんの場合
治療に専念できるという患者さんもいますが、仕事を持っていたり、社会的役割がある患者さんも多くいます。患者さんの職業やライフスタイルに合わせた感染予防の指導が大切だと思います。仕事に復帰する患者さんに公共交通機関での移動はしないように伝えても、現実的には無理なこともあると思います。そのような時は状況に合わせて、どのようにしたらよいかを主治医を含めて相談したり、ケースワーカーといった他職種とも一緒に考えるようにしています。何か問題があって特別な配慮が必要な患者さんの解決策を導き出すためには、看護師1人では判断できないこともあるので、いろいろな情報を得てからどうしたらよいかを考えます。
基本的な感染予防の重要性
新型コロナウイルス感染症の流行により、マスクの着用や手洗い、うがいの習慣化が定着したと思います。
退院後も体温は毎日測るように指導していますので、自身の正常時と異常時の身体の状態を把握することに役立ち、早期の対応につながります。38℃以上の発熱が続く場合や、解熱剤を飲んでも熱が下がらない場合、発熱だけでなく寒気や震えを伴う場合、いつもと違う症状の時は速やかに医療機関に相談するよう指導することも、感染症の重篤化予防に役立ちます。
退院後、自宅での生活がつらくならないように、また楽しく生活できるようにするためには、体調が悪い時は我慢せずに、すぐに病院へ連絡してほしいことや、そのままにしておくと重症化することがあることも説明します。
院内の感染対策
医療者側は、自分たちが感染しないように気を付けることや、ご家族との面会といった外からの感染症の持ち込みに注意します。ご家族には手指消毒、うがい、体温測定といった基本的な感染予防について説明し、ワクチン接種の有無についても確認しています。
院内感染に対して患者さんが不安に感じているようであれば、患者さんからの問い合わせには正確に答えつつ、実施している感染対策についても説明します。もし、実際に院内感染が起こったら、情報はすぐに発信し、患者さんの安心につなげられるように情報提供するなどして対応します。