

検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。
同種造血幹細胞移植を受ける患者さんは、移植前の化学療法や免疫抑制療法を実施することに加え、
血液がんという疾患そのものの特徴として移植前から易感染状態といえます。
移植によりさらに易感染状態となるため、
細菌、真菌、ウイルスなどによる感染症を発症するリスクがあります1)。
同種造血幹細胞移植前から一般病棟に戻るまでの感染予防について解説します。
問題となる感染症は、内因性の日和見感染であることが多く、また抗菌薬やG-CSFの使用により細菌感染のコントロールができるようになったことから、外因性の細菌感染を防ぐための厳重な管理は必要性が低くなっています2)。
移植前から患者さんには、移植後は発熱しやすいことや、感染予防が重要な時期などについて説明し、心構えをしてもらいます。手洗いの励行、口腔ケア、陰部ケアの重要性や持ち込み禁止の物品があることなどを理解してもらいます2)。
資料
1)日本造血・免疫細胞療法学会(編集). 造血細胞移植看護 基礎テキスト. 南江堂. 116-124.
2)河野文夫(監修). 造血幹細胞移植の看護(改訂第2版). 南江堂. 52-66.
6)髙橋萌々子ほか.Drug Delivery System 2017:32(2);134-142.
看護師
医療法人 原三信病院
看護部 主任
横田 宜子 先生
- 感染対策の看護ケア -
移植治療における感染症は重篤になりうる合併症です。移植前から、患者さんには感染予防の必要性の理解、セルフケアができるのかどうかを確認する必要があります。特に、好中球減少期の発熱は早期対処が求められますので、看護師間や医師との情報共有が重要です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行していた時期は、移植中や入院中はご家族との面会ができなくなりました。患者さん・ご家族にとって精神的苦痛が強い状況であったと思います。移植後や退院前後は、「コロナが心配」という声も聞きましたが、患者さんやご家族はしっかり対策を取られている方が多かったように感じます。
退院前には、患者さんのご家族がワクチン接種をしているか、一般的な感染対策ができているかを確認します。各施設で作成している感染対策の冊子などを活用して、退院後の指導をしていると思います。ただし、過度に感染を怖がり、全く外に出ないのもリハビリという面では問題ですので、すべき感染対策をしっかりしつつ、外出したり体を動かしたりするよう促します。全てを禁止とするのではなく、その中でできることを患者さんと一緒に探すようにしています。
退院後は、患者さんは少し調子が悪くても、外来受診日まで我慢してしまうことがあります。発熱していても、2日後に外来だから、それまで家で我慢する、といったことがありますので、退院前には「発熱があれば、受診日を待たずに相談してください」と必ず伝えるようにしています。 退院後の食事についても、食べたいものを確認し、今の状況でどんなものが食べられるかを一緒に考えるようにしています。
医療者も感染対策や体調管理は重要です。一般的な感染対策の実施はもちろんのこと、患者さんへの感染を避けるためにも、“体調が悪いときは休む”“密”を避けるなどの対策を一人一人が行うことも大切だと思います。
- コミュニケーションのポイント -
感染症を合併していると身体的苦痛だけでなく精神的苦痛も伴います。発現している感染症の症状や治療内容、移植経過を患者さんに説明することは、患者さんの不安軽減につながります。患者さんに今のご自分の状況を理解してもらい、不安や心配なことなどを表出できるようなコミュケーションを図ることも大切です。患者さんがセルフケアをきちんとできていれば、「よくできていますね」と承認してあげることも大切です。
食事に関しては、禁止している食品もありますので、あれも食べられない、これも食べられないではなくて、食べられる物を「これも食べられますね」「こうすれば食べられますね」ということで、前向きな形で受け止めてもらえるよう努めています。
ドクター
医療法人 原三信病院
血液内科 主任部長
上村 智彦 先生
- 発熱以外の症状や検査値も重要 -
感染症の指標となる症状の1つに発熱があります。移植後の発熱は、感染症によるとは限らず、免疫反応もしくはサイトカインストームによる場合3)もあり、臨床所見や炎症反応、CRP等から判断することになります。
ただ、CRPが上昇すれば感染症というわけではありません。ウイルス感染症では必ずしもCRPは上昇しませんし4)、逆にCOVID-19ではCRPが上昇5)したりするので、検査データの特定のマーカーを指標にしていると正確な診断が難しくなります。なお、ステロイド薬が投与されていると、発熱自体がマスクされることもあります。
発熱を1つの指標にしながら、服薬状況、患者背景などを確認し、発熱以外の兆候、症状と合わせて医師と状況や情報を集めながらディスカッションすることが感染症の早期発見につながります。
- 感染対策のゴールを示す -
退院後の患者さんへの感染対策の指導は、看護師さんが中心になって行うところでしょう。患者さんやご家族に感染対策を指導する際には、具体的なゴールを示してあげることも必要だと思います。退院後数年経ち免疫抑制剤も服用していないような患者さんから「刺身を食べていいでしょうか」と聞かれることがあったり、過度に敏感になったご家族が食器を熱湯消毒していたりといったことが散見されます。「いつまで」「どのような対応が必要なのか」、例えば、免疫抑制剤の服用を中止するまでは生ものは禁止、といった目安を立ててあげられるような情報提供が大切かもしれません。
長期フォローアップ外来(LTFU外来)では、患者さんの疑問点や感染対策を聞き出し、必要であれば、それを正しくフィードバックしてあげることも、看護師さんに求められることだと思いますし、長期的に重要な点だと思います。
3)日本造血・免疫細胞療法学会ガイドライン委員会 GVHD(第5版)部会. 造血細胞移植ガイドラインGVHD(第5版).
(https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_02_gvhd_ver05.1.pdf)
4)関雅文ほか. 日内会誌 2011:100(12);3522-3526.
5)Wang L. Med Mal Infect 2020;50(4):332-334.