検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。
Contents 3-2
消化管GVHD
同種造血幹細胞移植後に発症する急性GVHDの1つに、腹痛や下痢などの消化管症状があります。
消化管GVHDはセルフケアが必要となり、上手にコントロールできると患者さんのQOL の維持や
治療の継続につながりやすくなります1)。
消化管GVHDの症状
消化管GVHDは、移植片の生着後に腸管を標的臓器として起こります。
消化管症状のケアのポイント
腹痛1)
痛みの部位と程度を観察します。痛みがあるときは、腹巻などによる温罨法が有効な場合があります。
下痢1)
排便の頻度や便の性状を観察します。下痢が続くと肛門周囲の皮膚トラブルとなる可能性があります。
温水洗浄便座やシャワーを用いて肛門を清潔に保つように患者さんに指導します。また、排便後には肛門部・周囲の皮膚を強くこすらないように伝えます。お尻拭きを使用する場合は、刺激を避けるためにもアルコール非含有のものを使用するなど配慮します。おむつを使用している場合は、排泄する度に交換し、汚れのついていない状態を維持するようにします。肛門周囲の皮膚トラブルに対しては医師の指示に従い、外用薬を使用します。
悪心・嘔気1)
持続時間を観察します。嘔吐した場合は吐物の性状、量を観察します。急な嘔吐や悪心に備えて、ベッドサイドに膿盆を準備したり、医師に制吐剤の使用を相談したりします。
食欲不振1)
食事と水分摂取量を観察し、食欲不振の程度、体重の推移を観察します。
患者さんの好みの食べ物や食べられる食品を探し、ご家族などから差し入れしてもらうなどして、経口摂取できるように工夫します。
食欲不振が強く、経口摂取ができない状態が長期間続くような場合や、消化管GVHDの症状が強く消化管の安静を保つために経口栄養を中止する場合には、中心静脈から栄養補給をすることもあります。なお、経口摂取を再開する際には、少量ずつ消化のよい食事から開始します。
資料
看護師
医療法人 原三信病院
看護部 主任
横田 宜子 先生
ワンポイントアドバイス
- 消化管GVHDの看護ケア -
下痢は、患者さんにとって身体的・精神的な苦痛を伴う症状です。患者さんの苦痛を最小限にできるように早期対処が必要になります。下痢の回数や程度を把握し、適切な医薬品について確認しておくことも大切です。下痢が持続する場合は、全身状態に影響を与えるため食事・水分摂取ができるのかどうか、また日中・夜間を問わずにトイレに行く回数も増えるため転倒にも注意が必要です。肛門痛が出現する可能性が高くなりますので、移植前からのセルフケアの指導も必要です。
消化器症状で、患者さんの食欲がない場合など、栄養士との連携が重要になります1)。移植が決まったら、栄養士さんと顔合わせをし、コミュニケーションを取ってもらうようにします。栄養の専門家である栄養士と面談することで、患者さんも直接アドバイスを受けることができます。
また、患者さんが吐き気でつらいようであれば、背中をさすったり、「つらいですね」と声掛けしたりしています。つらい時間は患者さんを一人にしないで、一緒にその場にいる時間をつくることで、患者さんに安心してもらえるようにしています。
排便については言いにくいと感じる患者さんもいらっしゃると思いますので、時間をかけてゆっくり話してもらうように心掛けます。下痢の場合、量などを話してもらうことが重要であることを入院中からきちんと伝えておくと、退院後も恥ずかしがらずに詳細に答えてくれるようになります。「排便はありましたか」と漠然と聞くと「あったよ」「なかったよ」といった返事しかないので、聞きたいところは細かく聞くことが大切です。排便回数、形状、量などを1つずつ聞くと答えてくれますので、必要な情報は細かく聞きます。答えにくい内容であれば、個室で聞くなど、まわりの環境に配慮したり、なぜ聞きたいのか質問する理由を説明したりすれば、きちんと答えてくれることが多いと思います。
- コミュニケーション -
排便は、性状・回数・量などを伝えてもらうことが重要ですが、量については伝えにくいものです。コップ1杯くらい、片手くらい、など目安を提示すると患者さんも伝えやすくなると思います。「排便はありましたか」と漠然と聞くと「あったよ」「なかったよ」といった返事しかないので、聞きたいところは細かく聞くことが大切です。患者さんが話しにくいと思うことも、事前にGVHD治療に重要であることをしっかり説明しておくことが大切だと思います。
食欲不振時は、「どのようなものが食べられますか」「どのような味をおいしく感じますか」と確認するようにしています。大量の抗がん薬を使用しているため、患者さんに味覚変化が起きていることがあります。患者さん個々に食べられるもの、食べやすいものを探すようなコミュニケーションを図っていきます。患者さんに摂食意欲が出てきたら、栄養士と面談をしてもらいます。看護師も移植前から栄養士とコミュニケーションを図り、患者さんとの面談のタイミングなどの調整を図ることも重要です。患者さんの状態は電子カルテ上で情報共有できますので、何かあれば電子カルテに記載し、疑問などがあれば栄養士さんから看護師に声掛けしてもらうよう普段からコミュニケーションが取りやすい環境をつくることも大切です。
また、患者さんがこのようにいろいろな職種の方と直接関わり合うことは、安心感にもつながるので、患者さんにもよいことだと思います。
ドクター
医療法人 原三信病院
血液内科 主任部長
上村 智彦 先生
看護師さんへのメッセージ
- 急性期には脱水にも注意 -
急性期の消化管GVHDでは、まず水様性の下痢がみられることが多く、重症度が上がると高度の腹痛(+/-腸閉塞)または肉眼的血便(量によらない)といった症状がみられるようになります2)。
下痢の看護という観点だけでなく、下痢の悪化により補液等のアウトバランスが強くなると、脱水になることも考えられます1)。脱水症状などを示唆する症状や所見の有無を確認することも重要になります。
- 下痢への対応 -
下痢に対しては、ステロイド薬などで治療介入すると改善することもあります2)。治療効果を医師が捉えられるように観察することも、看護師さんには重要になるでしょう。 下痢による電解質異常によって血圧低下や頻脈といった症状が引き起こされたり、転倒のリスクも高まります1)。また、ベッドサイドで処置される場合は羞恥心もあるでしょう。看護師さんには精神的なケアも含めて対応してほしいと思います。
Section 03
移植時