検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。
Contents 3-1
皮膚GVHD
同種造血幹細胞移植後に発症する急性GVHDの1つに皮膚症状があります。
GVHDは重症度に応じて治療法が異なるため、
重症度の決定には看護師による観察が重要となります1)。
GVHDの原因
移植片対宿主病 いしょくへんたいしゅくしゅびょう(GVHD)は移植された造血幹細胞に混じって輸注されるドナー由来のリンパ球が患者さんの臓器を非自己と認識し攻撃する反応です2)。GVHDは急性GVHDと慢性GVHDに分けられます。
皮膚症状のケアのポイント
皮膚の急性GVHDは、足底や手掌の紅斑から始まるここうはんとが多く、 顔面や体幹、上下肢に 小紅斑・小丘疹をしょうこうはん しょうきゅうしん認めることもあります2)。そう痒感を伴うことも多くあります2)。
そう痒感1)
そう痒感があれば、症状を緩和する目的で、クーリングを行います。これにより毛細血管の拡張が防止されます。乾燥が原因にならないよう保湿を行い、局所療法として抗ヒスタミン薬やステロイド薬の外用薬を用いたり、全身療法として抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服や点滴を行ったりすることもあります。保湿剤とステロイド外用薬を併用する場合は、塗る面積の広い保湿剤を先に塗り、後からステロイド外用薬を医師の指示に基づき患部に塗るようにします。
そう痒感が睡眠に影響しないよう、就寝前に外用薬の塗布や、睡眠薬の使用などを検討します。
灼熱感1)
摩擦刺激を軽減するために、綿手袋の着用や厚手の靴下、クッション性のある靴を活用します。また、内服薬をPTPシートから取り出したり、軟膏やペットボトルのキャップを開けたりする動作などは、患者さんに代わって看護師が行います。
水泡1)
摩擦や圧迫などにより表皮が剥離しないよう、ガーゼで保護します。自然吸収されるのを待ちます。
皮膚剥離・滲出創・感染創1)
医師の指示に基づき、皮膚の処置を行います。温生食による洗浄は疼痛を和らげることができます。皮膚の保護には、滅菌ガーゼ、滲出液を適度に吸収し、傷がつきにくい保護パッド、ガーゼと皮膚の間に非固着性シリコンガーゼを使用します。
セルフケアの支援
皮膚の清潔維持1)
顔、頭皮、身体を石けんなどで洗う際には、事前によく泡立ててから洗うようにします。洗顔ブラシ、ボディタオル、ナイロンタオルなどの道具は使用せずに、手掌や指腹で優しくなでるように洗います。洗った後は十分にすすぎ、柔らかいタオルで押さえるように水分を吸い取ります。
乾燥防止1)
洗顔やシャワー浴後の皮膚が十分湿って柔らかいうちに、保湿剤や保湿成分を含有する医療用医薬品を塗布し保湿します。清潔のスキンケアによって失われた水分や油分を補うようにします。
Stage 2以上の皮疹があれば、ステロイド外用薬で皮膚症状を抑えるようにします。
資料
看護師
医療法人 原三信病院
看護部 主任
横田 宜子 先生
ワンポイントアドバイス
- 皮膚GVHDの看護ケア -
保湿剤とステロイド薬を塗布する際には、まず保湿剤を先に塗り、その上にステロイド軟膏を塗るようにしましょう1)。基本的なことですが、忘れてしまいがちです。
また、移植を受ける患者さんは、比較的PSが維持されているので、ご自分で入浴やシャワーをする際には、「優しくなでるように洗ってください」と伝えるようにします。
皮膚症状の程度は患者さんによって異なります。重症であれば複数の薬剤を塗布したり、皮膚洗浄をしたりするなど、看護師の関わりが多くなります。皮膚を見ながら、痛みやかゆみの有無も聞き取り、コミュニケーションを取ることも重要です。皮膚症状は見た目にも影響するため、患者さんは悲しい思いをすることもあります。なるべく早く治るように、最善のケアを提供することや、入院中にしっかりセルフケアの方法を身に付けてもらい、退院後も継続して実施できるように指導することが大切です。
退院後には、皮膚GVHDの予防として、紫外線による皮膚への影響を避けるため長袖が好ましいことや、日焼け止めを塗ることも伝えるようにしています3)。
- コミュニケーションのポイント -
皮膚GVHD患者さんに対するコミュニケーションは、移植後、生着した直後、退院前・退院後と継続的に行いますが、コミュニケーションの方法はその都度、変えるようにしています。
移植直後や、生着直後には、患者さん自身も見たことがない紅斑やそう痒が現れるので、症状について言葉で説明するだけでなく、患者さんと一緒に皮膚の変化を見るように心掛けています。清拭などで患者さんの背中を拭く手伝いをするときに、一緒に手や足を見るのもよいでしょう。もし紅斑があれば「ここが赤くなっていますね」といった声掛けをしながら一緒に見るようにします。また、日々の病棟看護のなかで、検温時には必ず皮膚症状が発現していないかを確認するようにします。
生着後の急性GVHDであれば、時間単位で悪化することもあるので4)、「1日1回のみの観察」ではなく、各勤務で広がり具合などをしっかり見るようにします。そして、患部を写真で撮影しておくと、医療チーム間でいつでも患者さんの状態を共有することができます。
退院後は長期フォローアップ外来(LTFU外来)にて問診で症状の有無を確認することが中心になります。もし、腕などの見える部位に皮膚症状が現れている場合は、一緒に観察をしながらコミュニケーションを取るようにします。セルフケアができているときは、できていることを承認することも重要だと思います。
ドクター
医療法人 原三信病院
血液内科 主任部長
上村 智彦 先生
看護師さんへのメッセージ
- 急性GVHD -
皮膚の急性GVHDでは、重症になると水疱や皮膚剥離が現れることがあります4)。入院をベースとした日々の看護のなかで、初期症状の出現時期や皮膚変化を確認することが重要です。医師が1日に複数回チェックをしていても、その間に皮膚病変が現れることがあるため、頻回に訪室する看護師さんには急性期の変化をしっかり観察することを期待しています。
移植後に現れる皮膚症状は、GVHDによるものだけではありません。急性期の皮膚GVHDでは、水疱が現れ表皮剥離を起こすことがありますが、薬剤性の皮膚障害にも手掌や足底の水疱形成、表皮剥離が起こることがあり5)、GVHDとの鑑別が必要となることがあるので、症状の観察は非常に重要となります4)。
ステロイドの外用薬を使用していると、皮膚GVHDがいったんは改善したように見えても再度紅斑が現れ、実は蜂窩織炎だった4)、ということもあります。全身性の免疫抑制剤やステロイド外用薬を使用している際には、蜂窩織炎や帯状疱疹などの感染症との鑑別が重要となります。
- 慢性GVHD -
慢性期の皮膚GVHDは急性期とは異なり、よほど重篤でない限りは、患者さんが自宅でセルフケアをすることになります6)。看護師さんはLTFU外来などで患者さんの皮膚状態やセルフケアの状況を確認しながら、よりよいセルフケアができるよう指導し、困難な状況であれば、改善のための対応が必要となります。
また、患者さんが疾患や治療を正しく理解しているとは限らず、皮膚のかゆみが慢性GVHDによるものと考えず、石けんでゴシゴシと洗っていることがあります。これにより皮脂が減少し、表皮が剥離し、そこから抗原が入り、皮膚GVHDがさらに悪化することにもなりかねません。
皮膚の症状は、特に女性ではボディーイメージの問題もあるので、時に患者さんにはストレスとなることもあるでしょう7)。患者さんの生活スタイルなどを含めて、看護師さんはコミュニケーションを取りながら聴取して正しいケアを伝え、実践できるような指導が必要です。この点については医師ではなく看護師さんが中心となって行うことが望ましいと思います。
- 皮膚症状の理解を深めるために -
特に慢性期において、LTFU外来の看護師さんは、皮膚の所見を数多く見て、異常があれば写真撮影した画像に残すなどして医療チーム内で共有し、GVHDに典型的な皮膚症状なのか、感染症によるものなのか、例えば皮膚の多形萎縮や扁平苔癬があれば、慢性GVHDであることがわかりますので4)、皮膚所見からGVHDによる皮膚症状の可能性を推察できるようになることも大切だと思います。
看護師さんによっては慢性GVHDの重症度分類4)などを用いてアセスメントすることもあると思いますが、経験を積むことも疾患の理解という点で重要だと思います。GVHDなのかそうでないのか判断できない場合は、医師や経験の多い看護師さんに聞いて確認し、レベルアップに努めましょう。
Section 03
移植時