検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。
Contents 3-4
肝中心静脈閉塞症(VOD)
・
類洞閉塞症候群(SOS)
造血幹細胞移植の前処置により肝類洞がかんるいどう障害され、二次的に小静脈が閉塞することで発症します。
黄疸、有痛性肝腫大、ゆうつうせいかんしゅだい腹水、体液貯留などが現れる重篤な病態であり、重症となる患者さんも多くいます。
病態の主体が類洞の障害であり、肝静脈の閉塞は必須ではないことから、
最近では類洞閉塞症るいどうへいそく候群(SOS)と呼ばれるようになっています1)。
VOD/SOSの発症要因と病態
類洞内皮細胞は前処置に用いられる抗がん薬による細胞障害を受けやすいため、これらの処置により類洞壁から剥がれ落ち、末梢の類洞が塞がります1)。その後、血が固まりやすくなることで、肝静脈が血栓により塞がったり、線維性に狭窄したりすることで、門脈内の圧力が上昇します2)。また、塞がった血管の下流にある肝細胞は虚血となり最終的には死滅します1)。
門脈内の圧力が上昇するとVOD/SOSの臨床症状である黄疸、腹水などが現れます。さらに門脈血の減速や逆流といったことも起こり、全身の血液循環にも影響が及ぶため、重症例では腎不全や呼吸不全、多臓器不全へと進展します2,4)。
VOD/SOS発症と多臓器不全への進行イメージ
VOD/SOSの症状
VOD/SOSの多くは移植後20日以内の早期に発症しますが、30日以降に発症することもあります1)。三大主徴として、黄疸、有痛性肝腫大、体液貯留を伴う体重増加があり5)、黄疸の症状は肝腫大や肝の圧痛、体重増加よりも遅れて現れる傾向があります1)。
症状の観察
体重(1日2回、決まった時間に測定)、浮腫、検査データ、黄疸、腹部膨満感、ふくぶぼうまんかん有痛性肝腫大、出血傾向について観察します1)。
発症当初は総ビリルビン(T-Bil)値以外の肝機能データは変動しないことが多く5)、では破砕赤血球のはさいせっけっきゅう増加、末梢血液所見では血小板輸血に反応しない血小板の減少がみられます1)。
発症当初は総ビリルビン(T-Bil)値以外の肝機能データは変動しないことが多く5)、では破砕赤血球のはさいせっけっきゅう増加、末梢血液所見では血小板輸血に反応しない血小板の減少がみられます1)。
看護
重症化すると呼吸不全、意識障害、腎不全などから多臓器不全に進展し死に至る合併症です5)。重症VOD/SOSの死亡率は84.3%と報告されています5)。
1日2回の体重測定を実施し、増加がある場合は医師に報告し、指示に基づく対応を行います1)。T-Bil値の上昇に伴い、肝臓による薬剤代謝が阻害され、腎不全が悪化し、傾眠傾向となり不穏状態になることもあります1)。意識レベルを観察しながら危険防止に努めます1)。
出血予防として、特に不穏時はベッドのサイドレールを柔らかいものでカバーするなどして外的刺激を少なくするようにします1)。
自力での日常生活が困難な場合は、ADLを援助します1)。
資料
看護師
医療法人 原三信病院
看護部 主任
横田 宜子 先生
ワンポイントアドバイス
- VOD/SOSの看護ケア -
VOD/SOSの症状として現れる浮腫による体液貯留は、体重測定を行う看護師が最初に気付きやすい変化です。徐々に体重が増加するので、2~3日経過を観察し体重が増加し続けていたら医師に報告します1)。また、お腹の張り感は患者さんから聞き取るようにします。黄疸をみることは少ないかもしれませんが、全体的に患者さんの体が黄色くなったり、眼球黄染がみられたりするのでしっかり観察します。
- コミュニケーションのポイント -
VOD/SOSは重症な合併症ですが、看護師が早期発見するのは難しい合併症だとも思います。日々観察しながら患者さんの変化を聞き取るように心掛けます。看護師は「つらいかもしれませんが一緒に乗り越えていきましょう」と伝え、寄り添っていく姿勢が大切だと思います。検査が増えると患者さんは不安に思うかもしれませんので、何のための検査で、どのようなことをするのかを事前にしっかり説明し、検査に対する不安や苦痛がない状態で検査を受けられるよう環境を整えることも大切だと思います。
ドクター
医療法人 原三信病院
血液内科 主任部長
上村 智彦 先生
看護師さんへのメッセージ
- 早期発見の重要性 -
VOD/SOSは実臨床で診断することはとても難しく、診断時に既に重症化していたことも過去に経験しています。現在ではVOD/SOSに対する治療薬があり、早期の治療介入により予後の改善が期待できるようになりました。
VOD/SOSの臨床診断基準として、移植後20日以内あるいは3週間以内のT-Bil値の上昇が提唱されていますが1)、早期発見には患者さんの自覚症状である右季肋部痛や体重の変化など2)が現れていないか確認することが重要です。
- エコー検査の実施時期を調整 -
VOD/SOSは依然として診断が難しい合併症ではありますが、体外式超音波検査(エコー検査)の定期的な実施が補助診断として有用であることが確立しています6~9)。検査技師がどのタイミングでエコー検査を実施するのかといった調整は、看護師さんに担ってもらい、医師以外の医療者の介入をスムーズにできるよう、チーム医療の要となることを期待しています。
Section 03
移植時