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検査・診断、治療や移植にかかわる
看護ケアのポイントや
患者さまの心のケアについて説明していきます。
先生からのメッセージは
現場の生のアドバイスをいただいています。

Contents 1-5

性機能への影響

がんに対する化学療法と放射線療法は、妊孕性に影響を及ぼしたり、
性交渉そのものが難しくなったりするなど、性機能にさまざまな問題を引き起こすことがあります1)
性機能障害は、患者さんにとって年齢にかかわらず重大かつデリケートな問題なので、
治療開始前の十分なリスクアセスメントと、情報提供が大切です。
そして、患者さんとそのパートナーがそれぞれの意思を尊重しながら、
価値観や心情に寄り添ったケアを行うよう努めましょう。

抗がん薬治療による影響2)

抗がん薬は細胞分裂が盛んな組織に作用する特徴があります。そのため、男性は精巣、女性は卵巣などが強く影響を受けます。

精巣に現れる影響には、萎縮や無精子症などが挙げられます。また、骨盤内神経にも作用する抗がん薬では、勃起障害を誘発することがあるため、不妊の原因となります。

卵巣に対しても多くの抗がん薬が直接作用し、機能の低下が起こりやすくなります。卵巣機能が低下すると、一時的に無月経になったり、そのまま閉経したりすることもあるため、不妊につながることも少なくありません。

治療後に性機能障害がどれくらい回復するかは個人差が大きく、男性は糖尿病などの持病の有無や年齢、治療期間などが影響します。また女性の場合、回復には男性以上に年齢による影響が現れやすいといえます。

放射線治療(骨盤部)
による影響3)

骨盤部への放射線治療でも、性機能への影響がみられます。男性では勃起障害が起こりやすくなります。これは放射線がペニスに血液を流入する動脈を障害することによるものです。照射された部位の治癒過程で動脈壁が弾性を失い、十分に拡張できなくなることで硬い勃起が得られなくなるケースもあります。動脈にダメージとなる高血圧やヘビースモーカーの患者さんでは、勃起障害のリスクがより高まります。

女性の場合は骨盤領域への照射で膣が炎症を起こし、その後の線維化などで伸展しにくくなり、膣の奥行きや内径が縮んでしまうことがあります。これにより、膣の潤いの低下や膣サイズの縮小、性交痛、性欲低下などが起こりやすくなります。

妊孕性の温存に関する
情報提供1)

将来子どもを持ちたいと考える患者さんに対しては、がん治療による妊孕性への影響や妊孕性を温存する方法について、治療開始前から情報を提供しておくことが大切です。

妊孕性の温存には、治療前に精子や受精卵を凍結保存する方法があります。女性は採卵に最低でも数日から数週間を要することがあるため、治療の開始を遅らせることが可能な病状であることが求められます。

一方、造血細胞の減少により貧血や血小板減少が起きている場合、または急性白血病など治療の開始が急がれる場合などでは、妊孕性の温存が困難と判断されることもあります。また、青年期や未婚の患者さんの場合、自身が子どもを持つという将来像をイメージしにくかったり、性機能に関する希望を表現しづらかったりすることも考えられます。情報提供後も、十分なフォローアップを行うことが重要です。

患者指導のポイント

治療前から、性機能に対する影響を十分に伝えるとともに、性生活やパートナーとの関係性について看護師側から触れるようにし、患者さんが話しやすい環境を整えておきましょう4)

また、家族構成など社会的背景を確認しておくことはもちろんですが、すでに子どもがいる患者さんでもさらに出産を望んでいる場合があります。「今後お子さんを持つご予定はありますか」など丁寧な対話を心掛け、既婚であることやすでに子どもがいることで質問や情報提供を省略しないように注意します4)

性生活についても、看護師が相談相手になれることを伝え、患者さんが自由に発言できるよう、同席者の選定にも配慮することが大切です3)

資料

  1. 神津三佳. がん看護 2013;18(5):513-516.
  2. 山田みつぎ. がんサポート 2016;3:94-97.
  3. 祖父江由紀子. プロフェッショナルがんナーシング 2014;4(3):260-263.
  4. 田﨑亜希子. がん看護 2020;25(2):188-191.

看護師

社会医療法人北楡会 札幌北楡病院
看護部

荒 香織 先生

ワンポイントアドバイス

- 看護のコツ -

伝えるタイミング

性機能障害については伝えるタイミングが難しいと思います。性機能への影響は、早めに情報提供することが重要ですが、血液疾患の特徴として診断から治療までの期間が短いことが多く、患者さんが考える時間をあまり持てないままに治療開始となることもあります。医師が患者さんに説明する前に、先に聞いてもよいかを医師に確認するなどして、事前に情報収集するというように、できるだけ早め早めの確認を心掛けています。

話しやすい環境を

病気のことで頭がいっぱいで、どうしたらよいかわからない、妊孕性まで考えられないという患者さんも多くいらっしゃいます。若い男性患者さんは性に対する話を若い女性看護師としたくないということもあります。そのような時は担当ではなくても男性看護師に対応してもらったり、性別や年代にあわせて同世代の医師や看護師に対応してもらうなど話しやすい環境を作るようにしています。

専門看護師との連携

AYA世代の中でも、小児と成人の境目のような10代後半の患者さんであれば両親への対応も必要となります。両親への説明や治療後のケアについて伝えることが難しい場合は、小児の専門看護師がいればそのような専門看護師に相談して関わり方を教えてもらったり、必要であれば対応してもらうなどの連携もあるとよいと思います。

患者さんとなんでも話せる関係を

「性に関する話をしてもいいんだ」という信頼関係を構築することも大事だと思います。患者さんが話しやすい雰囲気を作ったり、ほかの患者さんの経験談や事例を伝えたりすることでコミュニケーションを取るようにしています。今は、インターネットでいろいろな情報が得られますが、性機能についてはあまり触れられておらず情報量も少ないようです。看護師など医療スタッフからの情報は患者さんにも有用な情報になると思います。

- コミュニケーションのコツ -

妊孕性の温存について、病院によっては他院へ依頼することもあると思います。その場合、予約制の病院であれば予約や受診がスムーズに進むように配慮します。患者さんが外出できない状況であったり、急な発熱で通院が難しくなってしまうこともありますので、そのような時はご家族へのフォローが必要になります。