MM_new
MM_new

MM
多発性骨髄腫

2025.05.22

多発性骨髄腫の病態と診断、治療

疫学

年齢別罹患率

  • 2020年における推定罹患率は、10万人中5.8人(男性6.4人、女性5.2人)であった1)
  • 診断時の年齢中央値は、男性67歳、女性68歳で、60~69歳の患者の占める割合が31.6%と最大であった2)

図 多発性骨髄腫 罹患率・年齢階級別(全国推計値:2020年)1)

1) 国立がん研究センターがん対策情報センターより作成
 Sourse : Center for Cancer Control and Information Services, National Cancer Center, Japan
2) 日本骨髄腫学会 編. 多発性骨髄腫の診療指針(第6版), 2024; 文光堂, 4.

死亡数

  • わが国の2023年における多発性骨髄腫による死亡数は、男性2148人、女性2110人であった。

国立がん研究センターがん対策情報センターより作成
Sourse : Center for Cancer Control and Information Services, National Cancer Center, Japan

多発性骨髄腫と形質細胞

  • 多発性骨髄腫は、形質細胞に異常が生じることで単クローン性の増殖がみられるリンパ系腫瘍である。
  • 形質細胞は、B細胞から変化した最終分化段階の細胞である。B細胞は、細菌やウイルスなどの異物を見つけると形質細胞となり、抗体を放出してそれらを攻撃する。

図 血液細胞の分化1)

1) 増田敦子 編. 身体のしくみとはたらき, 2015; サイオ出版, 59.より改変

多発性骨髄腫の発症・症状

多発性骨髄腫の発症

  • 多発性骨髄腫では、骨髄において単クローン性に増殖した形質細胞(骨髄腫細胞)や、骨髄腫細胞が産生する異常な免疫グロブリン(M蛋白)により、さまざまな症状が引き起こされる。

図 骨髄腫細胞の増殖とM蛋白の産生

堀田知光 編. みんなに役立つ多発性骨髄腫の基礎と臨床, 2008; 医療ジャーナル社, 19, 20.

多発性骨髄腫の症状

  • 多発性骨髄腫はB細胞から分化した形質細胞の腫瘍であり、その産物である単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)の過剰産生や、貧血を主とする造血障害、易感染性、腎障害、溶血性変化などの多彩な臨床症状を呈する疾患である。

図 骨髄腫細胞およびM蛋白により引き起こされる病態と症状1-2)

1) 医療情報科学研究所 編. 病気がみえる vol.5 血液, 2008; メディックメディア, 136.
2) 安倍正博、遠藤逸郎、原田武志、尾崎修治 ほか.多発性骨髄腫 Updating(第2巻),2013; 医薬ジャーナル社,105-116,187,194.
3) 日本骨髄腫学会 編. 多発性骨髄腫の診療指針(第6版), 2024; 文光堂, 25,26.

臨床的特徴

骨病変

頻度

  • 骨病変は、溶骨性骨病変を1ヵ所以上認めることであり、骨粗鬆症、骨折を含めた溶骨性変化は初診時の約72%の患者に認められる1)

1) 日本骨髄腫学会 編.多発性骨髄腫の診療指針(第6版),2024;文光堂,6,7,26.

臨床所見

  • 初診時、主訴となるのは骨病変による痛みが多い。骨病変は溶骨性病変が主である1)
  • 単純X線検査での特徴的な所見としては、骨の一部が薄くなり、穴があいたように見える打ち抜き像(punched-out lesion:パンチドアウトリージョン)が知られている。

1) 日本骨髄腫学会 編.多発性骨髄腫の診療指針(第6版),2024;文光堂,6,7,83-87.

貧血

臨床所見

  • Hb 10g/dL未満:初診時、患者の約52%に認められる1)
    血小板数 10万/μL以下:
  • 患者の5-10%程度に認められ、そのような患者では、骨髄中の骨髄腫細胞の割合が非常に高い1)
  • 白血球数:通常は正常である1)
  • 貧血症状(労作時息切れ、動悸など):みられることがあるが、軽度の場合や慢性に持続する場合には自覚症状に乏しい1)

治療

  • 貧血の治療では原疾患の治療および赤血球輸血を考慮する1)
  • 腎障害を合併し、血清エリスロポエチン(EPO)低値の患者において、「腎性貧血」の適応に準じたEPO製剤は有効な可能性がある2)

1) 日本骨髄腫学会 編. 多発性骨髄腫の診療指針(第6版), 2024; 文光堂, 7-9,88.
2) Bohlius J,et al.; Blood Adv. 2019; 3(8): 1197-1210.

感染症

臨床所見と概況

  • 正常免疫グロブリン抑制による液性免疫の低下があり、感染症を繰り返しやすい1)
  • 高齢発症であること、長期にわたる継続的な治療が必要であることから、感染症の危険性が高い2)
  • 感染症は、多発性骨髄腫患者の合併率・死亡率における最大の原因で、健常人に比べ細菌性の発症リスクは7倍、ウイルス性では10倍多い3)

表 骨髄腫に多くみられる感染症の予防と治療(同種移植を除く)1,4,5)

1) 日本骨髄腫学会 編.多発性骨髄腫の診療指針(第6版),2024;文光堂,7,90,91.
2) Caro J,et al.; Leukemia. 2022; 36(3): 613-624.
3) Bilmark C, et al.: Haematologica. 2015; 100: 107-113.
4) Delforge M, et al.: Blood. 2017; 129: 2359-2367.
5) Teh BW, et al.: Blood Rev. 2014; 28: 75-86.

 腎障害

臨床所見と概況

  • 初診時の血清クレアチニン値2mg/dLより高値の腎障害を約15%の患者に認める1)
  • 腎障害の主たる原因は、cast nephropathy(骨髄腫腎:myeloma kidney)である2)
  • 骨髄腫腎のほか、単クローン性免疫グロブリン沈着症(MIDD)、アミロイド腎、直接骨髄腫細胞の浸潤、高カルシウム血症、高尿酸血症、薬剤なども腎障害の原因である2)

表 腎生検によるMM患者の腎障害の病理診断結果(Mayo Clinic 1997-2011) 3)

1) 日本骨髄腫学会 編.多発性骨髄腫の診療指針(第6版),2024;文光堂,7,88-90.
2) Dimopoulous MA, et al.: J Clin Oncol. 2010; 28: 4976-4984.
3) Nasr SH, et al.: Am J Kidney Dis. 2012; 59: 786-794.より作成

多発性骨髄腫の初発症状

  • 多発性骨髄腫では腰痛や病的骨折などがみられる。
  • 高齢者に多い疾患であるため、最初はただの腰痛などと思われやすい。また、進行に伴いさらに症状があらわれる。
  • 初診時主訴となるのは骨病変が多く、次いで貧血による動悸・息切れ、全身倦怠感が多い。

表 症候性骨髄腫患者の初診時主訴1)

1) 麻奥英毅 ほか.多発性骨髄腫 Updating(第1巻),2012; 医薬ジャーナル社,13

2025年5月作成

承認番号:2003-JP-250001010