成人T細胞白血病・リンパ腫(Adult T-cell Leukemia/Lymphoma; ATLLあるいはATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルスI型(Human T-Lymphotropic[又はT-cell Leukemia] Virus type-I; HTLV-1)により引き起こされる末梢性T細胞リンパ腫である1)2)。西南日本に多発するT細胞腫瘍として1977年に内山・高月らにより最初に報告され3)、1980年代にHTLV-1が原因ウイルスとして同定された4)。
日本におけるATLLの発症頻度はT/NK細胞腫瘍の中で最も多く、すべての悪性リンパ腫の7~8%を占める5)。また、ATLLの予後は極めて悪く、世界的な後ろ向き研究であるInternational T-Cell Lymphoma Projectでは、ATLL患者の5年生存率(OS)は14%と報告されている6)。
ATLLの患者分布は、HTLV-1持続感染者(キャリア)の分布に一致する。HTLV-1キャリアは、日本、中央アフリカ、カリブ海地域、中南米などに多くみられ、日本では九州を中心とした西南日本、四国南部、紀伊半島、三陸海岸、北海道に多くみられる7)。キャリア数は全世界で500~1,000万人8)、日本では658,000人と推定されている9)。九州・沖縄地方のキャリア数は減少しており、全国レベルでも減少傾向にあるが、大都市圏では増加傾向がみられる地域もある7)9)。 ATLLの発症は、20歳台までは極めてまれであり、60歳台後半から70歳台前半に多い10)。2010年の調査では、ATLL患者の男女比は1.16と男性がやや多く、年齢中央値は67歳であった9)。HTLV-1キャリアにおけるATLLの生涯発症率は約5%であり、年間約1,000人が発症する11)。発症年齢は年々上昇傾向にあり、今後、人口の高齢化と若年HTLV-1キャリアの減少とともにさらに高くなると考えられる。
HTLV-1の感染経路には、母乳による垂直感染(母子感染)と、性交渉や輸血による水平感染がある。このうち、ATLL発症につながる重要な感染経路である母子感染に対しては、全国的な感染予防対策がとられるようになり、HTLV-1新規感染者は大幅に減少すると考えられる12)。
ATLLはHTLV-1感染から数十年を経て、多段階のゲノム変化の蓄積により発症すると考えられている。HTLV-1感染細胞の増殖初期においては、tax 遺伝子とHBZ 遺伝子の働きを中心とした感染細胞の増殖促進と宿主免疫による増殖抑制が均衡状態にあるが、やがてその破綻が起こりATLLを発症する14)。