血液腫瘍免疫の基礎

Lesson 04

腫瘍微小環境における
抗原提示細胞

香川大学医学部 血液・免疫・呼吸器内科学 教授

門脇 則光先生 監修

がん細胞を取り囲むがん微小環境には、樹状細胞(DC)や腫瘍に浸潤したマクロファージである腫瘍関連マクロファージ(TAM)などが抗原提示細胞(APC)として存在する場合があります1,2)。以降では、APCの種類やそれぞれの機能について紹介します。

樹状細胞(DC)

DCは、抗原提示や免疫寛容(トレランス)の誘導を担い、免疫の恒常性維持に重要であると考えられています3,4)。DCの機能は外的刺激や環境要因に応じて変わりますが、このメカニズムは、DCが受け取る刺激によってT細胞に送るシグナルが異なることに起因します1-7)。具体的には、DC上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)/ペプチド複合体からT細胞受容体に送られる抗原刺激(シグナル1)、DC上の共刺激分子であるCD80やCD86からT細胞上のCD28へ送られるシグナル(シグナル2)、DCが分泌するサイトカイン(シグナル3) があげられ、シグナル1、2が強い場合には免疫反応、弱い場合には免疫寛容が誘導されます(図17)。また、シグナル3はT細胞の分化に関与しており、IL-12であればTh1細胞、IL-10であれば免疫抑制性のT細胞が誘導されます7)。このように、DCは、基本的にあらゆる種類の抗原特異的な免疫反応をコントロールする免疫系の中心的な細胞です7)

図1.DCからT細胞に送られるシグナル

1) DCのサブセット

DCには機能の異なる複数のサブセットが存在し、主に従来型DC (cDC)と形質細胞様DC(pDC)に分類できます(表18)

cDCは、脾臓、リンパ節、骨髄などのリンパ系組織や肺、皮膚などの非リンパ系組織に分布し、異なる働きをするcDC1とcDC2などに分類できます4,8-10)。cDC1は、MHCクラスⅠを介して外来抗原をクロスプレゼンテーションすることでCD8陽性の細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導するだけでなく、IL-12を分泌してTh1細胞の分化を誘導し、さらにナチュラルキラー(NK)細胞やNKT細胞を活性化します7-10)。このように、cDC1は抗腫瘍免疫応答を誘導する高い能力を有しています7-10)。一方で、cDC2は主にCD4陽性T細胞を活性化し、MHCクラスⅡを介してTh1、Th2、Th17を誘導します7-11)


pDCは、体内のウイルス抗原などの刺激に応答し、多量のⅠ型インターフェロン(IFN)を分泌します8,12,13)。また、pDCはTreg細胞を増殖・活性化することで免疫抑制を亢進させるため、一部の癌種において予後不良との関連が報告されています14)
その他のDCとして、炎症状態下で末梢血中の単球から分化したmonocyte-derived DC(MoDC)なども報告されています15,16)

表1.DCのサブセット

2) 造血器腫瘍におけるDC

がん細胞は、さまざまなメカニズムを介してがん微小環境中のDCの免疫寛容を誘導します表217)。例えば、がん細胞がTGF-βなどのサイトカインを放出すると、DCによって分化誘導されたTreg細胞がCTLなどの免疫細胞を抑制することで免疫寛容が誘導されます17-19)。また、がん微小環境に多く存在するVEGFはDCの成熟化を抑制することが報告されています17)

表2.DCの寛容化を誘導する
がん細胞由来の因子

実際に多発性骨髄腫においては、腫瘍細胞から放出されるIL-6、TGF-β1、IL-10、VEGFがDCの成熟化を障害することや、健常人と比較して末梢血液中のDC数が減少していることが報告されており、DCを介した免疫寛容が誘導されていることが分かります(図28,20-24)。また、IL-6などの腫瘍由来サイトカインは、CD34陽性前駆細胞をDCではなく単球細胞へ分化誘導することも報告されています22)
pDCは骨髄に集積して、免疫抑制および腫瘍促進を誘導します25)

図2.MMにおけるDCの減少と機能低下

3) DCを用いたがん免疫療法

がんに対する特異的な免疫反応を誘導する治療として、がん抗原を取り込ませたDCの投与が試みられていますが、単独での臨床効果は限られています7)。そこで、in vivoのDCを利用する方法として、がん特異的抗原やがん抗原をコードするDNAワクチン、mRNAワクチン、死滅したがん細胞を用いる方法などが研究され、実用化に向けた開発が行われています26-28)

マクロファージ

がん細胞は、微小環境において、マクロファージなどの正常細胞との直接的な接触や液性因子などの作用を介して免疫逃避します29,30)

マクロファージはほとんどの臓器に存在し、感染防御などに関与するだけでなく、免疫の恒常性維持にも寄与します31)。また、マクロファージは、微小環境に応じて動態や働きが変わる「可塑性」や「不均一性」を示し、それぞれの特徴によって主にM1マクロファージ、M2マクロファージに分類できます31-33)。M1マクロファージはIL-6やIL-12、IFN-γなどの炎症性サイトカインを産生し、抗腫瘍効果を発揮する一方で、M2マクロファージはTGF-βやIL-10などの抗炎症性サイトカインの産生などを介して免疫抑制的に働きます(図331-33)

図3.マクロファージの分類

特に、腫瘍に浸潤したマクロファージは腫瘍関連マクロファージ(TAM)と呼ばれ、M2マクロファージと類似した性質を示します(図432-36)。TAMはVEGFやIL-6、IL-10などを産生し、がん細胞の増殖・浸潤・転移などを促すと同時に、制御性T細胞(Treg)などの免疫抑制細胞の動員やTh1型免疫反応の抑制、新生血管の形成などを通じて、がん細胞の生存をサポートします32-36)。このような特徴から、実際にびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)においては、CD163陽性のM2 TAMが予後不良と関連することなどが報告されており、TAMは新たな治療標的のひとつと考えられています37-41)

図4.TAMの機能

Lesson 04

腫瘍微小環境における
抗原提示細胞

香川大学医学部 血液・免疫・呼吸器内科学 教授

門脇 則光先生 監修

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論文19,27)の著者にはBristol-Myers Squibbから指導料などを受領しているものが含まれる。

2022年9月作成
承認番号 2204-JP-220007013

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Lesson 03

獲得免疫における
T細胞の応答

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Lesson 05

多発性骨髄腫の
がん微小環境と免疫

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