自ら努力する後輩は育てたい

患者さん以外にも出会いはありましたか?

豊嶋

医師になって2年目にも、すばらしい先輩との出会いがありました。九州大学の第一内科では、研修先の関連病院はくじ引きで決めるのですけれど、わたしは一番外れくじで、あまり人気のない地方の総合病院になってしまいました。ですが、そこで、今でも最も尊敬する先生に出会ったのです。その病院の院長でした。
そこでは、自分が一番下っ端でしたから、クリスマスや年末年始などは、よくわたしが当直になりました。大晦日に一人で当直をしていた時、患者さんが多くて、寝る暇がないほど忙しいと思っていたのですが、実は院長が助けてくれていたのです。守衛室の横に陣取って診察の必要のない、薬だけもらいに来た患者さんに処方箋を書いてくれていました。かなりの人数を何時間もかけてさばいてくれていたのです。そのことを知ったときは本当にびっくりしてしまって、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

当直医を陰で助けてくれていたのですね。

豊嶋

この院長から教えていただいたことは、まだ他にも多くあります。ある日の昼休み、出前を取り、マンガを読みながら食べていると、「豊嶋君、もし、ここに君の患者が来て、君がマンガを読んでいる姿を見たらどう思う?」と言われて、なるほどと思いました。さっきまで、偉そうに説明をしていた医師が、同じ白衣を着て、食べながらマンガを読んでいる姿なんて、絶対見せてはいけないですよ。周囲との関係など、他人からはどう見えるのかを、教えてもらいました。

また、この院長のカルテの書き方がすばらしく、忙しいのに、1例1例が症例報告になるぐらい丁寧に書きこんでありました。それを見せられると、自分もいいかげんなカルテにはできないです。院長の自らを厳しく律する姿や倫理観に多くを学びました。この院長が、わたしの医師としての基本姿勢のモデルですね。

その院長のように素晴らしい人に会っても、それを活かせるかどうかは、結局その人次第ですよね。

豊嶋

まあ若かったから、感受性はあったのかもしれませんね。また、田舎者で素直だったからでしょうか。