どんな失敗も新たな一歩となる

UT‐7の亜株誕生の際のエピソードもありますか?

小松

UT‐7/GMはUT-7をGM-CSFで2年以上培養して得られた細胞株で、エリスロポエチンを入れて培養後、遠心機にかけてみたら、ペレットが赤いんですよ。このUT‐7/GMというのはGM‐CSFで増えるだけなんですけど、エリスロポエチンを添加したら赤血球系に分化したんですね。ヒトではそういう細胞株はありません。エリスロポエチンで赤血球系へ、トロンボポエチンで巨核球系のほうに分化していく、二方向性をもっている世界で唯一の細胞株です。

これは僕が自分で実験していたから、よかったんですよ。テクニシャンに頼んでいたら、気がつかないでポッと捨てられていたかもしれません。自分で覗いて、「あれっ?赤い」と思ったから、発見できた。だから僕は若い人たちに「人に頼まないで、自分で実験しろ」と言っています。

おかしい」とか「変わった」とかというのに気がつく人と気がつかない人がいますよね。

小松

いますよ。だから、僕は、必ずみんな同じようにチャンスは与えられるのではないかと思うんですよね。僕もいっぱいチャンスを見逃していると思うんだけど、自分が関心をもっていると、自ずと見えてくるものもある。

偶然と言えば偶然かもしれませんが、それを見逃さなかったわけですね。

小松

実はUT‐7の亜株であるUT‐7/TPOも偶然から生まれたんです。1994年、「血小板を増やすトロンボポエチン(TPO)の存在が疑われていた時代に、ある企業の研究室がトロンボポエチンを精製しました。なかなか精製してすぐは外へ出すことはありませんが、ご厚意により、その培養上清を早期に入手することができました。僕は興味津々でトロンボポエチンの培養上清をUT‐7/GMに添加したんですね。そうしたら1週間で細胞はほとんど死滅しましたが、インキュベーターの中にとりあえずそのままにしておきました。1ヵ月間経って、「そろそろ捨てるかな」と思って、捨てる前に何気なくちょっとだけ覗いてみたら、ものすごく大型の細胞がいっぱい増えていたんです。こうして生まれたのがUT‐7/TPOです。

あとで振り返ってみると、偶然がすごく重なっていました。トロンボポエチンはUT‐7には反応しないんです。たまたま培養していたUT‐7/GMにだけ反応する。しかも、手に入った培養上清がトロンボポエチンの活性が弱いものだったために、トロンボポエチンに感受性の高い細胞が選択的に増えたんです。当時はTPOの蛋白発現効率が悪く、TPO活性の低い上清しか得られなかったことが逆に功を奏したんです。今思えば、けっこう運がよかったなあと思います。

もしも、覗いてみないで捨てていたら、UT‐7/TPO は生まれなかったのですね。

小松

そう、うっかり捨てていたらそれで終わりでした。
先述のとおり、CMK細胞株の研究は一見無駄のように思えましたが、あとで振り返ってみると、精製したGM-CSFが冷蔵庫にたくさんあってもったいないなと思っていたから、「加えてみようかな」と思ったわけです。それが結局はUT‐7の樹立につながったので、人生というのは、そのときは無駄だなあと感じても、うまく活かせば、失敗ではないのかなと思います。

エジソンも「私は決して、失望などしない。どんな失敗も新たな一歩となるからだ」と言っていますが、そのとおりだと思います。失敗だと思って捨ててしまえばそこで終わり。でも活かせば、新たな一歩。