一般講演3-1

Turbulence enables large scale production and clinical application of iPS cell-derived platelets
(Turbulence activates platelet biogenesis to enable clinical scale ex vivo production)1)

中村 壮 先生

京都大学iPS細胞研究所 臨床応用研究部門
[共同筆頭著者:伊東幸敬 先生(京都大学CiRA,株式会社メガカリオン)]

ヒト人工多能性幹細胞(hiPSCs)を用いた生体外での血小板作製は,ドナーに依存した輸血システムを補うものとして期待されている。しかし,hiPSC由来の巨核球からつくられる血小板の数が少ないため,臨床投与に必要な量(1千億個以上)を作製することは現在のところ達成できていなかった。今回我々は,血管内の乱流(動きが不規則に絶えず変動している乱れた状態の流れ)が生体内における血小板産生の物理的調節因子であることを明らかにし,乱流条件を設定可能なバイオリアクターを開発しその応用に成功したので報告する1)

当研究室で作製したiPS細胞由来不死化巨核球細胞株(imMKCL)2)を用いて血小板を作製する場合,フラスコを振盪させる振盪培養のほうが従来の静置培養(培養皿)よりも血小板数・機能を有意に上昇させていた(p<0.01,Student’s t検定)1)。このことは,振盪という物理刺激が血小板産生を促進させたと考えられる。そこで,マウスの骨髄中での血小板産生を,2光子顕微鏡と粒子画像流速測定法を用いて生体内観察を行った。その結果,血管内の血流で生じる乱流部位において血小板前駆体(proplatelet)の形成が確認され,乱流は巨核球からの血小板産生を促進する因子であることが見出された1)

そこで,乱流条件下で様々な物理パラメーターをシミュレーション解析可能な2.4Lの縦型浸透培養装置を用いて培養したところ,生体内血小板の機能に匹敵する血小板を高効率に産生することに成功した。

次に,0.3Lと2.4Lの縦型浸透培養装置を用いて様々な撹拌条件下での培養槽内物理パラメーターシミュレーション解析と血小板産生効率の関係について検討した。その結果,0.3Lと2.4L培養の乱流エネルギー(流れの乱れの強さ)と,せん断応力(流体の平行方向を挟み切るような作用の物理量を力で示したもの)の指標が,血小板の収量が最大となる至適範囲で両スケールで一致することが判明し,縦型培養装置の容量に関係のない物理パラメーターの至適値が存在することを発見した1)

そこで,この2つの指標を適合させて8Lスケールの縦型培養装置を用いて培養したところ,hiPSC由来imMKCLから臨床投与で必要なレベルを満たす約1千億個の血小板を作製することができた(図1)1)

こうして作製された血小板を2種類の動物モデル(マウス,ウサギ)に輸血したところ,体内循環および止血能など,生体内の血小板のほぼ同等の特性を示すことが確認された1)

我々は,さらに乱流による効率的な巨核球からの血小板産生のメカニズムについて細胞レベルで検討した。その結果,乱流によってimMKCLからIGFBP2(インスリン様増殖因子結合タンパク2),MIF(マクロファージ遊走阻害因子)およびNRDC(Nardilysin: N-arginine dibasic convertase)という可溶性因子が放出され,これらのオートクライン機能が血小板産生を促進していることが示唆された(図2)1)
 本研究成果により, hiPSCから質・量ともに臨床応用に可能な血小板の製造が可能となり,輸血医療を大きく変革することが期待される。

【参考文献】

  1. Ito Y, Nakamura S, et al. Cell 2018; 174: 636-648.
  2. Nakamura S, et al. Cell Stem Cell 2014; 14: 535-548.

図1 ドナーの異なるiPSC由来巨核球細胞株を用いた血小板収量の検討

図2 本講演のまとめ:乱流による血小板産生の活性化および生体外における臨床規模での血小板作製の可能性