一般講演2-2

Leukaemia hijacks a neural mechanism to invade the central nervous system1)

白血病は神経機構を乗っ取って中枢神経系に浸潤する

八尾 尚幸 先生

九州大学大学院医学研究院 応用幹細胞医科学部門 がん幹細胞医学分野

急性リンパ性白血病(ALL)におけるALL細胞の中枢神経系(CNS)への浸潤は,ALL治療の大きな妨げとなる。現在,可能な限りのCNS浸潤予防措置を講じても成人患者の1~15%,小児患者の30~40%にCNS再発が起こるとの報告があり,その予後は不良である2)

固形がんのCNS浸潤は,がん細胞が脳血管を通って脳実質に浸潤するのに対して,ALLの場合には固形がんでは稀な髄膜への浸潤がみられる。このCNS浸潤はALLのすべてのサブタイプに共通して認められるが,CNS浸潤が生じる一元的メカニズムは明らかになっていない。
 本研究では,SCIDマウスにNalm-6(ヒトプレB細胞ALL細胞)を移植し,ALL細胞がCNSに浸潤することにより疾患末期に下肢麻痺を呈するALLマウスモデルを作製し, PI3Kδ阻害剤(GS-649443)の効果を検討した。

ALLマウスモデルにGS-649443を投与したところ,CNSにおけるALL細胞数が減少した1)。しかし,GS-649443自体は血液脳関門(BBB)を通過せず,ALL細胞の細胞死や細胞周期には影響を及ぼさなかった1)。そこで,ALL細胞の浸潤経路,ALL細胞のCNS浸潤を阻害するGS-649443の作用機序について調べた。

結果をまとめると,骨髄中のALL細胞はBBBを越えてCNSに浸潤しているのではなく,頭蓋骨または脊椎骨の骨髄内とクモ膜下腔を直接結ぶ血管が通過する骨内連絡孔を通ってCNSに浸潤することが明らかになった(図1)1)

また,このALL細胞の脳脊髄液への遊走,CNS浸潤は,ほとんどのALL患者で発現が認められるラミニン受容体であるα6インテグリンとラミニンとの相互作用を介する機序によることが示された1)。α6インテグリンとラミニンとの相互作用は神経系の発生に重要であることがこれまで報告されている3)。そして,ALL細胞でのα6インテグリンの発現や走化性は,PI3Kδによって制御されていた1)。GS-649443は,in vitroでラミニンを介するALL細胞の浸潤を阻害し(図2),末期ALLマウスモデルを用いたin vivo実験ではALL細胞が通過する骨内連絡孔の数を減少させた1)。さらに,α6インテグリン特異的中和抗体を投与した場合でも,同様の結果が得られた1)

以上より,PI3Kδ阻害剤の臨床応用が期待されるところであり,次のステップとしてCNS浸潤予防におけるPI3Kδ阻害剤と従来の抗がん剤との併用効果について基礎研究を続けている。有望な研究成果が得られつつあり,それを臨床現場に還元したい。

【参考文献】

  1. Yao H, et al. Nature 2018; 560: 55-60.
  2. Surapaneni UR, et al. Cancer 2002; 94: 773-779.
  3. Georges-Labouesse E, et al. Curr Biol 1998; 8: 983-986

図1 ALL細胞は骨髄とCNSをつなぐ導出血管に沿ってクモ膜下腔に浸潤する

図2 GS-649443はin vitroにおいてラミニンを介したALL細胞浸潤を阻害する