一般講演1-2

Calreticulin遺伝子変異による細胞腫瘍化の分子メカニズム
The molecular mechanism of development of myeloproliferative neoplasms by mutant calreticulin

荒木 真理人 先生

順天堂大学大学院医学研究科 輸血・幹細胞制御学

我々は,これまでの研究から骨髄増殖性腫瘍(MPN)患者で認められる変異型calreticulin(CALR)タンパク質が,トロンボポエチン(TPO)受容体MPL(巨核球や造血幹細胞の細胞膜表面でTPOと結合し,JAK2を介して細胞内にシグナルを伝達する受容体タンパク質)と特異的に結合することで,下流のシグナル伝達系を恒常的に活性化し,巨核球系細胞の腫瘍性増殖を引き起こすことを報告した1)。その際,変異型CALRタンパク質は野生型とは異なる立体構造になることでMPLと強く結合している可能性を見出したが,MPLの活性化機序の詳細は依然として不明であった1)

我々は,一般的に多くのサイトカイン受容体が活性化する際,2つの受容体分子が集まるという点に着目し,変異型CALRタンパク質が2つの受容体分子と同時に結合する可能性について検討した。その結果,変異型CALRタンパク質はお互いが結合することで1つのホモ多量体を形成し,複数のMPL結合ドメインを有する1つの大きな分子として存在することが示された(図1)2)。また,このようなホモ多量体化は野生型CALRタンパク質では観察されなかった。さらに解析を行ったところ,変異型CALRタンパク質同士の結合は,MPN患者に認められる特異なフレームシフト変異により生じたCALRタンパク質のC末端領域に存在する,変異型タンパク質に特異的な配列によって担われていることが明らかになった2)。次に,変異型CALRタンパク質のホモ多量体形成を阻害する実験を行ったところ,変異型CALRタンパク質とMPLの結合や,変異型CALRタンパク質依存性のMPLの活性化の減弱が観察された。これらのことから,変異型CALRタンパク質はホモ多量体化して,サイトカインのように複数の受容体分子と同時に結合することで,受容体を恒常的に活性化することが明らかになった(図1)2)

続いて,変異型CALRタンパク質とMPLの結合を規定している分子基盤と,変異型CALRタンパク質がMPLを活性化する細胞内の場所の検討を行った。その結果,変異型CALRタンパク質は,受容体の成熟過程において付加されるMPL上の未熟な糖鎖を認識して結合すること,変異型CALRタンパク質によるMPLの活性化は主に細胞表面で生じていることを明らかにした3)。以上の結果を元に,我々は,多量体化した変異型CALRタンパク質が,MPLの成熟が生じる小胞体(タンパク質の折りたたみや成熟などを行う細胞内小器官)において未成熟なMPLの糖鎖を認識して結合し,形成された複合体が細胞膜表面に輸送されたところで,MPLの下流経路であるJAK2が恒常的に活性化し,MPNが発症する,というモデルを提唱する3)(図2)。これはまた,MPN治療戦略として,細胞表面に発現している変異型CALRタンパク質を標的とした免疫学的な治療法,あるいは,変異型CALRタンパク質によるMPLの活性化に必要な分子間相互作用や,これらのタンパク質複合体の細胞表面への輸送経路を標的とした阻害剤による治療法の可能性を示唆するものである(図2)。

【参考文献】

  1. Araki M, et al. Blood 2016; 127: 1307-1316.
  2. Araki M, et al. Leukemia 2019; 33: 122-131.
  3. Masubuchi N, et al. Leukemia 2020; 34: 499-509.

図1 変異型CALRタンパク質のホモ多量体化によるMPL活性化モデル

図2 変異型CALRタンパク質によるMPN発症メカニズムとそれを標的とする治療戦略