一般講演1-1

Targeting the HTLV-I-regulated BATF3/IRF4 transcriptional network in adult T cell leukemia/lymphoma1)

中川 雅夫 先生

北海道大学大学院医学研究院 内科学分野 血液内科学教室

成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)は,ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)感染者のごく一部(約5%)において長い潜伏期間(50年余)を経て発症する予後不良なT細胞性リンパ腫であり2),その治療法開発の基盤となる分子生物学的解析が求められている。
我々は,ATLL細胞株のshRNAライブラリーを用いた機能スクリーニングにより,BATF3およびIRF4からなる転写因子複合体がATLL細胞の増殖に必須であることを見出した1)

BATF3およびIRF4は,ATLL特異的遺伝子発現を協調的に誘導することや,ゲノム結合部位の解析結果(図1)などから,正常T細胞と同様に,ATLL細胞においても転写因子複合体として機能していることが示された1)。このことは,ATLL細胞株のみならず,ATLL患者検体での研究においても確認できた1)
   それでは,なぜATLLにおいてBATF3/IRF4転写因子複合体が高発現しているのか。ここで,HTLV-Iのゲノムにコードされる転写因子であるHBZ(HTLV-I bZIP factor)に着目した。

ATLL発症時には多くのウイルスタンパク質の発現が消失しているが,HBZはすべてのATLL患者に発現している1)。このHBZの関与について研究したところ,HBZはATLL特異的BATF3遺伝子座のスーパーエンハンサーに結合することにより,BATF3およびその下流にある標的(がん遺伝子MYCなど)の発現を制御していることが示唆された1)

さらに,臨床応用という観点から,スーパーエンハンサーの機能を比較的選択的に阻害することが報告されているBET阻害剤3)(臨床開発段階の薬剤)により,ATLL細胞のBATF3遺伝子座のスーパーエンハンサーの機能も阻害されるのではないかと考え検討した。その結果,BET阻害剤は,HBZおよびBATF3による転写ネットワークを直接的に崩壊させてその発現を抑制し,ATLL細胞株,ATLL患者検体(図2),さらにATLLのマウス異種移植モデルのいずれにおいてもATLL細胞の増殖・生存を阻害した1)。BET阻害剤は,ATLLの治療薬となりうる可能性が示唆された。

【参考文献】

  1. Nakagawa M, et al. Cancer Cell 2018; 34: 286-297.
  2. Matsuoka M, Jeang KT. Nat Rev Cancer 2007; 7: 270-280.
  3. Loven J, et al. Cell 2013; 153: 320-334.

図1 ATLL細胞株でのBATF3/IRF4のゲノム結合部位

図2 BET阻害物質JQ1処理後の患者ATLL細胞