臨床試験と実臨床でみるエロツズマブの特徴と位置づけ
松本 守生 先生
国立病院機構 渋川医療センター 血液内科
多発性骨髄腫(MM)の治療は,近年目覚ましい進歩を遂げている。そのなかでも中心となる薬剤は,ボルテゾミブに代表されるプロテアソーム阻害剤(PI)とレナリドミドに代表される免疫調節薬(IMiD)である。そのいずれかに,抗体薬などの新規薬剤を上乗せすることで効果の増強を目指し,さまざまな組み合わせの併用療法が試みられている。
エロツズマブは,再発・難治性MM(RRMM)患者に対する治療薬として本邦で初めて承認された抗体薬であり,骨髄腫細胞やNK細胞に発現しているSLAMF7(signaling lymphocyte activation molecule family member 7)に特異的に結合するヒト化IgG1モノクローナル抗体である。エロツズマブの作用機序は,骨髄腫細胞表面上に発現しているSLAMF7に結合することでNK細胞の抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を誘導し,一方,NK細胞上のSLAMF7に結合することでNK細胞を活性化すると考えられている1)。しかし,T細胞や樹状細胞にもSLAMF7が発現しているという報告があり2),その作用機序についてはさらに研究が進められている。
エロツズマブが承認された根拠となった臨床試験が国際共同第III相試験ELOQUENT-2である。本試験では,RRMM患者に対するスタンダード治療とされるレナリドミド(Len)と低用量デキサメタゾン(Dex)の2剤(Ld)併用療法と,Ld療法にエロツズマブを上乗せした3剤(ELd)併用療法の有効性と安全性を比較検討した。 本試験では,Ld群325例とELd群321例を対象に,ELd療法の臨床的有用性を検証した (図1)。
主要評価項目の1つであるPFSは,1年時ELd群68%,Ld群57%,2年時がそれぞれ41%,28%,3年時が26%,18%という成績であった(図2)3,4)。また,探索的評価項目である次治療開始までの期間(TTNT)中央値がELd群33.4ヵ月,Ld群21.2ヵ月[ハザード比0.62(Cox回帰モデル)]であった4)。
安全性については,いずれかの群で30%以上に発現した有害事象(AE)を表1に示す。AE発現率(全Grade)は,ELd群99.4%,Ld群99.1%であった。Grade 3/4の血液学的AEとしては,貧血がELd群19.5%,Ld群21.1%,好中球減少症がそれぞれ35.3%,44.5%に認められた。
なお,実臨床でのMM患者は臨床試験の適格基準を満たさないことも多く,臨床試験の結果をそのまま実臨床に当てはめることは難しい。今後は実臨床での有効性,安全性について,臨床試験の成績とどのような乖離があるのかを検討する必要があると考える。
【参考文献】