一般講演3-2

CRISPR/Cas 9システムを用いた全ゲノム機能的スクリーニング法によるAML新規治療標的分子探索

Genome-wide CRISPR-Cas9 screen identifies leukemia-specific dependence on a pre-mRNA metabolic pathway regulated by DCPS1)

山内 拓司 先生

九州大学病院 遺伝子・細胞療法部/病態修復内科

昨今のゲノムシークエンス技術の進歩により,急性骨髄性白血病(AML)発症の起因となる遺伝子異常の多様性が明らかになってきた。しかしながら,その研究知見が治療成績の改善には,まだ結びついていない。本研究では,CRISPR/Cas 9システムによる“全ゲノム機能的スクリーニング法”を行い,新たなAML治療標的分子として,DCPS(decapping enzyme scavenger)を同定した1)

まず,新たに樹立した2つのマウスAML細胞株を用いて20,611の遺伝子全ゲノムを対象としたCRISPRノックアウトスクリーニング(in vitro)を行なった結果,AML細胞生存・増殖必須遺伝子として約2,000の遺伝子を抽出した。全ゲノムスクリーニングより抽出した約2,000の遺伝子の中から新規治療標的分子を絞り込むにあたって,1)阻害薬の有無,2)ヒトでの機能欠失型遺伝子変異報告の有無,を既存のデータベースを活用し検索することによって,470の遺伝子に絞り込んだ。この470の遺伝子に対し新たにスモールスケールのスクリーニングライブラリを作成し,in vivoでのスクリーニングを行ない,AML細胞生存・増殖必須遺伝子として130の遺伝子を同定した。本研究では,そのなかでも阻害薬が存在し,かつヒトでの機能欠失型遺伝子変異報告のあるDCPSに着目した1)

DCPS阻害薬(RG3039)は,脊髄性筋萎縮症の治療薬として開発され,phase I clinical trialにて安全性も確認されている薬剤である2-4)。このRG3039の抗白血病効果をヒト白血病細胞株を用いて検証した。その結果,in vitroにおいて細胞周期停止,細胞分化,細胞死が誘導され(図1),DCPS阻害薬(RG3039)
の増殖抑制作用が示された5)

一方,DCPSの機能としては,mRNAのdecappingに関与することが報告されている2)。そこで,DCPSのIP(immunoprecipitation)-Mass Spectrometryを行ったところ,pre-mRNAスプライシング機構関連タンパクと結合することが示された。また,RNAシークエンス解析からは,DCPS阻害薬がAML細胞にmRNA異常スプライシングを引き起こすことが明らかになった。

DCPS阻害薬のヒト造血における影響を,ヒト臍帯血由来細胞を免疫不全マウスに移植する異種移植モデルを用いて検証した。DCPS阻害薬は,ヒト正常造血の再構築を阻害せず,正常造血幹細胞活性を阻害しないことが示された。興味深いことに,機能欠失型DCPS変異を有する患者の末梢血では,正常な血球数が示されており,DCPSが定常状態のヒト造血には必須ではなく,阻害剤などにより治療標的とした場合にも大きな副作用を起こす可能性が低いことを示唆している。最後に,ヒトAML細胞を免疫不全マウス内に再構築させる異種移植モデルを用いて,in vivo でのDCPS阻害薬の抗白血病効果を検討した。DCPS阻害薬治療群では,末梢血・骨髄における腫瘍量の減少を認め,コントロール群に比して有意に生存期間の延長を認めた(p<0.05,Mantel-Cox log-rank検定,
図2)1)

以上,CRISPR/Cas9スクリーニング法によって同定されたDCPSは,新たなAML治療標的分子として有望であると考えられる。

【参考文献】

  1. Yamauchi T, et al. Cancer Cell 2018; 33: 386-400.
  2. Van Meerbeke JP, et al. Hum Mol Genet 2013; 22: 4074-4083.
  3. Gogliotti RG, et al. Hum Mol Genet 2013; 22: 4084-4101.
  4. Ng CK, et al. Hum Mol Genet 2015; 24: 3163-3171.
  5. Milac AL, et al. Biochim Biophys Acta 2014; 1839: 452-462.

図1 DCPS阻害によるAML細胞の細胞周期停止,細胞分化,細胞死の誘導(マウスでのin vitro実験)

図2 DCPS阻害薬の抗腫瘍効果(マウスでのin vivo実験 )