一般講演1-1

皮膚移植片対宿主病による皮膚幹細胞の傷害とルキソリチニブによる新規治療法の検討

Ruxolitinib protects skin stem cells and maintains skin homeostasis in murine graft-versus-host disease1)

高橋 秀一郎 先生

北海道大学大学院医学研究院 内科学分野 血液内科学教室

白血病などの血液悪性腫瘍の治療のために行う同種造血幹細胞移植における主要な合併症の1つが,移植片対宿主病(GVHD)である。GVHDにおいては,腸管や皮膚,肝臓など,さまざまな臓器が標的となる。我々は,これまでの研究から腸管GVHDでは腸幹細胞が傷害されることを報告してきた2)。今回我々は,皮膚GVHDにおいても皮膚幹細胞が傷害されるか否かを検討したので報告する1)

ここで着目したのが,種々の臓器における幹細胞マーカーとして報告されているLeucine-rich orphan G-protein-coupled receptor 5(Lgr5)である2-4)。Lgr5+皮膚幹細胞については近年の研究で,Lgr5+毛包幹細胞(hair follicle stem cells; HFSCs)が毛髪の形成や創傷治癒における再生上皮の形成に寄与し,その高い増殖能や多分化能は皮膚恒常性維持において重要な役割を担うことが明らかになってきた5,6)

そこで我々は,皮膚GVHDのマウスモデルを用いて,皮膚GVHDによりLgr5+HFSCsが傷害を受けるか否かを検討した。その結果,皮膚GVHDを生じたマウスでは,Lgr5+HFSCsが減少しており,それに関連して移植後の毛髪再生抑制および創傷治癒遅延が認められた (図1)1)。この知見に基づいて,皮膚GVHDに対してLgr5+HFSCsを保護しうるような治療法を探索した。

そこでさらに,ヒト臍帯血由来細胞のマウスへの移植でも同様の効果が得られるかどうかを検討した。ここでは,臨床応用を視野に,HLAの異なる複数ユニットの凍結臍帯血から一度にHSC/HSPCを抽出する技術開発を試みた。そして,日本赤十字社・関東甲信越臍帯血バンクの協力を得て,Miltenyi Biotech社のCliniMACS Prodigyという装置を用いることにより,凍結臍帯血から最大9ユニットのヒト混合CD34陽性細胞分画の抽出に成功した。これをサポートユニットとして用いて,総計10ユニットを免疫不全マウスに移植したところ,早期の造血回復に寄与し得ることが示された。

皮膚GVHDに対する標準治療の1つであるステロイド外用剤は,種々の炎症性皮膚疾患に用いられているが,その抗炎症作用(T細胞浸潤抑制)が強い反面,HFSCsに毒性を示し,毛髪再生を遅延させるなど,皮膚恒常性を維持できなかった1)。そこで,これに代わりうる治療薬の候補として,同種反応性T細胞の皮膚への遊走に重要なIFN-γ受容体シグナリングを抑制するJAK1/2阻害剤であるルキソリチニブに着目し検討した。その結果,ルキソリチニブ外用剤は,皮膚GVHDをコントロール群に比べ有意に改善し(p<0.005,Mann-Whitney U検定),かつLgr5+HFSCsを保護し,移植後の毛髪再生および創傷治癒を改善させた。また,治療モデルにおいても有効性を示した
(図2)
1)

以上,マウスにおいてルキソリチニブ外用剤は,GVHDによる皮膚幹細胞の傷害を抑制し,組織の恒常性を維持できることが示された。今後は,ルキソリチニブ外用剤が皮膚GVHDのみならず,多様な炎症性皮膚疾患に対して皮膚恒常性を維持しうるかどうか,臨床応用の可能性を視野に入れて研究を進めていきたい。

【参考文献】

  1. Takahashi S, et al. Blood 2018; 131: 2074-2085.
  2. Takashima S, et al. J Exp Med 2011; 208: 285-294.
  3. Hanash AM, et al. Immunity 2012; 37: 339-350.
  4. Hayase E, et al. J Exp Med 2017; 214: 3507-3518.
  5. Jaks V, et al. Nat Genet 2008; 40: 1291-1299.
  6. Page ME, et al. Cell Stem Cell 2013; 13: 471-482.

図1 皮膚GVHDとLgr5+皮膚幹細胞(マウスでのin vivo実験)

図2 ルキソリチニブ外用剤と皮膚GVHD(マウスでのin vivo実験)