特別講演

制御性T細胞による免疫応答制御

坂口 志文 先生

WPI 大阪大学免疫学フロンティア研究センター 実験免疫学

正常個体中に存在する制御性T細胞(Treg)は,免疫自己寛容の維持,さまざまな免疫応答の抑制的制御に重要である1)。内在性Tregの大部分は,胸腺で機能的に成熟した形で産生される1)。転写因子Foxp3は,Tregに特異的に発現し,Tregの発生,機能発現を制御するマスター制御遺伝子である1)。Foxp3+CD25+CD4+Tregの量的・質的異常は,さまざまな自己免疫/炎症性疾患の直接的原因となる1)。典型例として,小児の免疫不全疾患であるIPEX症候群では,高頻度にI型糖尿病,甲状腺炎,炎症性腸疾患のみならず,重篤なアレルギー(皮膚炎,食物アレルギー)を発症する2)

免疫寛容の鍵を握るTregの存在は,IPEX症候群の疾患モデルともいえるScurfyマウスの自己免疫応答の原因を追究するなかで浮かび上がってきた1)

Tregを標的として,抗原特異的Tregの増殖をれば,移植臓器に対する免疫寛容を誘導できる。自己免疫疾患,さらには糖尿病などの免疫・代謝疾患に対する治療戦略ともなりうる。逆に,その量的,機能的減弱をることで腫瘍免疫,微生物免疫を亢進させることができる3) 。このように,Tregをめぐるさまざまな可能性が広がってきた。

その実現を目指すうえで,転写因子Foxp3の重要な機能は,正常T細胞にFoxp3を発現させると,機能,表現型の点で内在性Tregと同等のTregに転換できることである4)。しかしながら,Foxp3の発現のみでは,Tregの遺伝子発現プロファイルあるいは機能的安定性を付与できない4)。Tregを標的とする免疫応答制御の臨床応用に向けては,Foxp3遺伝子のみならず,Treg特異的遺伝子のエピゲノム制御が重要である。

マウスを中心とするこれまでの基礎的研究知見から,Tregによる免疫抑制の分子機構についてまとめると,詳細な部分ではまだ議論の余地はあると思うが,大筋として(1),Treg核内のFoxp3に加え,Tregの細胞表面に恒常的に発現しているIL-2受容体(R)を介したIL-2がレスポンダーT細胞の抑制に重要な働きを担っている5)。もう1つには,Tregの発現するCTLA-4と抗原提示細胞(APC)上のCD80/CD86の相互作用を介したレスポンダーT細胞の抑制である5)

それではヒト免疫細胞ではどうかというと,T細胞がFoxp3を発現しているだけでは,そのすべてがTregの機能を十分に発揮するわけではない。細胞分画を詳しく解析すると,実際には機能しない非Treg分画(Fr. III),ナイーブなまだ作動していないnTreg分画(Fr. I),そして十分な機能を発揮しうるエフェクター(e)Treg分画(Fr. II)に分けられることがわかった(2)5)。eTregの条件は,Foxp3が高発現したうえで,CTLA-4もCD25も高発現していることである5)

今日,ヒトTregの臨床応用への展開も実際に多方面で進められつつある。たとえば,eTreg特異的発現CCR4に対するモノクローナル抗体をはじめ,CTLA-4,PD-1,CD25などを標的としてTregを抑え,抗腫瘍免疫を高めようという方向で研究が進められている。ただし,問題は自己免疫反応を高めることなく,抗腫瘍免疫能を高めるという要件を満たせるかどうかである。1つには,nTregは温存し,腫瘍組織内だけでeTregの活性化を阻止するという考え方がある。もう1つには,まず宿主免疫系に影響しない抗腫瘍免疫療法を行い,腫瘍破壊で生じた抗原に反応して起こるTregの活性化を抑える。その後に,十分な抗原提示を行わせて,エフェクターT細胞を動員し活性化させる(3)5)。こうしたアプローチ法も考えられる。いずれにせよ,自己免疫能と抗腫瘍免疫能のバランスが肝要であろう。

【参考文献】

  1. Sakaguchi S, et al. Regulatory T cells and immune tolerance. Cell 2008; 133: 775-787.
  2. Hori S, et al. Control of regulatory T cell development by the transcription factor Foxp3. Science 2003; 299: 1057-1061.
  3. 坂口志文. 制御性T細胞と腫瘍免疫. 坂口志文, 西川博嘉編, がんと免疫, 2015: 95-101, 南山堂.
  4. Sakaguchi S, et al. FOXP3+ regulatory T cells in the human immune system. Nat Rev Immunol 2010; 10: 490-500.
  5. Tanaka A, Sakaguchi S. Regulatory T cells in cancer immunotherapy. Cell Res 2017; 27: 109-118.

図1 Treg媒介性免疫抑制におけるFoxp3,CTLA-4,IL-2

図2 ヒトFoxp3+ T細胞サブセットの進展と分化

図3 がん免疫療法においては組み合わせと順番が重要である