一般講演3-2

DNMT3A R882変異はポリコーム蛋白質との相互作用により造血幹細胞および白血病細胞の分化を阻害する1)

古屋 淳史 先生

東京大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科

急性骨髄性白血病(AML)において,DNMT3A変異は2割以上の患者に認められ2),細胞遺伝学的リスク因子の保有の有無を問わず予後不良と関連しており3),臨床的に重要な役割を果たしている。また,健常高齢者の5%以上がDNMT3A変異を有しており4),発症予防の面からも興味深い。しかしながら,この遺伝子変異がin vivoにおいてどのような機序で白血病原性を惹起しているのかについてはほとんど解明されていない。

本研究では,マウスの骨髄移植実験において変異型DNMT3Aを過剰発現させた系で,どのような造血異常が生じるかを検討した。

まず,変異型DNMT3Aをマウス骨髄に移植し1年以上経過観察したが,マウスに造血器腫瘍は発症しなかった。次に,移植4週後の骨髄を観察したところ,DNMT3A変異として最も高頻度に起こるR882H,R882Cを導入したマウス骨髄では造血幹細胞(HSC)が野生型に比べ異常な蓄積を認めた[p<0.05(両側t検定)]。また,HSCの細胞周期をみると,G0/G1期の比率が高かった。DNMT3A R882変異を導入したマウスへのHSCの二次骨髄移植では,HSCが増加した。

変異型DNMTA3を過剰発現した造血幹細胞/前駆細胞では,分化関連遺伝子群の発現が低下していた。しかし,それらのプロモーター領域のCpG island(CGI)のメチル化状態に変化は認められなかった。これは,DNMT3A変異がDNAメチル化に非依存的な役割を果たしていることを反映すると考えられる。

分子的には,R882変異はDNMT3Aとポリコーム抑制複合体1(PRC1)との結合能を高めたことから,DNMT3A変異はPRC1と協調的に作用していることが示唆された。また,PRC1の主要な構成因子であるBmi1のヘテロノックアウトによって,DNMT3A変異による異常なHSC蓄積が打ち消され,分化関連遺伝子の発現が正常レベルに回復した。

また,マウス骨髄細胞にDNMT3A R882HとHOXA9をともに導入すると,in vitroにおいて単球の単芽球への形質転換が促進された。

以上をまとめると,DNMT3A R882H変異はHSCの異常な蓄積を引き起こし,HOXA9存在下において単芽球への形質転換を促した。DNMT3A R882H変異による分化関連遺伝子発現のダウンレギュレーションにはPRC1を必要とした。つまり,PRC1を介してHSCおよび白血病細胞の分化を阻害することが示唆された。このDNMT3A変異とPRC1の協調関係は,DNMT3A変異を伴う白血病において治療ターゲットとしての可能性が期待できる。

【参考文献】

  1. Koya J, et al. DNMT3A R882 mutants interact with polycomb proteins to block
    haematopoietic stem and leukaemic cell differentiation. Nat Commun 2016; Mar 24; 7: 10924. DOI: 10.1038/ncomms10924.
  2. Thol F, et al. Incidence and prognostic influence of DNMT3A mutations in acute myeloid leukemia. J Clin Oncol 2011; 29: 2889-2896.
  3. Ley TJ, et al. DNMT3A mutations in acute myeloid leukemia. N Engl J Med 2010; 363: 2424-2433.
  4. Xie M, et al. Age-related mutations associated with clonal hematopoietic expansion and malignancies. Nat Med 2014; 20: 1472-1478.

図 DNMT3A R882HおよびR882C変異におけるHSCの異常な 蓄積