特別講演

Immune-checkpoint blockade, T cell based adoptive cell therapy and beyond

河上 裕 先生

慶應義塾大学医学部先端医学研究所 細胞情報研究部門教授

ヒト腫瘍免疫学とがん免疫療法開発における課題は大きく変遷してきた。そもそもヒト自己がん細胞に対する免疫応答は存在するのか,あるとすればどの免疫細胞が重要で,免疫細胞が認識するヒトがん抗原の実態は何か,という問いから始まり,1980年代後半よりT細胞の役割,それによるがん細胞認識の分子機構が次第に解明され1,2),T細胞認識ヒトがん抗原が同定された3)。免疫系の攻撃をかわすがん細胞の逃避機構が改めて認識され1,2),21世紀に入ると,ヒトがん細胞による免疫抑制・免疫抵抗性の分子機構が究明され,その制御による免疫病態の改善法が開発されてきた1,2)

腫瘍免疫学の進歩とともに,Her2などのがん細胞分子を標的とするモノクローナル抗体,インターフェロンやインターロイキンなどのサイトカイン治療,リンパ球や樹状細胞の投与や同種造血幹細胞移植といった免疫細胞療法,同定したがん抗原やがん細胞成分を用いたがんワクチンの開発などが順次進められたが,患者さんの免疫を利用する免疫療法の治療効果は限定的なものが多かった。このように抗腫瘍免疫を増強する,免疫側のアクセルを踏む方向に力が注がれてきたが,近年,抗腫瘍免疫応答に対するブレーキを解除することが,予想以上に多くのがんで有用であることがわかってきた。最近は,この両者を組み合わせた複合がん免疫療法への期待が高まり,現在,PD-1/PD-L1阻害を中心とした多様な複合がん免疫療法の臨床試験が進行中である4)

 がん免疫療法だけでなく,広くがん治療の反応性や予後には,免疫病態が関与することがわかってきた。免疫病態は,がん細胞の遺伝子異常(突然変異や遺伝子発現異常など),患者さんの免疫体質(遺伝子多型など),さまざまな環境因子(喫煙,腸内細菌叢,食事肥満など)に規定され,個人差がある。これらの詳細な解析のためには,コンピューターを用いた多層オミックス解析や体系的な免疫細胞解析が必要であり,米国では,オバマ前大統領が個別化医療に関するPrecision Medicine Initiative5),バイデン前副大統領ががん撲滅へのCancer moonshot initiativeという国家的プロジェクトを掲げていた6)

また,がん免疫療法の開発においては,治療前や治療早期に効果が期待できるバイオマーカーを同定し症例を選択することや免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬やT細胞利用養子免疫療法など)の選択も重要であり,個別化・複合がん免疫療法の開発が期待される。欧米では国家的な大型プロジェクトや製薬会社が多大なエネルギーを注いでおり,日本でも産学官連携体制をさらに整備して,新規技術を駆使したヒトがん免疫研究の促進,疾患横断的・異分野連携によるヒト免疫研究の促進が期待される。特に免疫介入臨床試験におけるリバーストランスレーショナル研究が重要である。このような多角的なアプローチによって,今後,がん免疫療法のさまざまな課題が解決できるのではないかと考えている。

【参考文献】

  1. 河上 裕 編. 腫瘍免疫学とがん免疫療法. がんの進展・排除を司る免疫システムと逃避するがん-その制御による新たながん治療. 実験医学,2013.
  2. 坂口志文,西川博嘉 編. がんと免疫. 南山堂,2015.
  3. Coulie PG, et al. Nat Rev Cancer 2014; 14: 135-146.
  4. Das R, et al. J Immunol 2015; 194: 950-959.
  5. The White House. FACT SHEET: President Obama’s Precision Medicine Initiative.  https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2015/01/30/fact-sheet-president-obama-s-precision-medicine-initiative (2017.1.10)
  6. The White House. Cancer Moonshot. https://www.whitehouse.gov/CancerMoonshot
    (2017.1.10)