一般講演2-2

CML幹細胞の栄養吸収を標的とする新しい治療戦略1)

仲 一仁 先生

広島大学原爆放射線医科学研究所 幹細胞機能学研究分野

我々の国際共同研究グループは,がん幹細胞の栄養源を絶って兵糧攻めにしようという新たな治療戦略を提起している。

対象は慢性骨髄性白血病(CML)で,CML幹細胞と正常な造血幹細胞の栄養代謝の違いを明らかにするため,テトラサイクリン制御型CMLマウスモデルを用いてメタボローム(代謝産物)解析を試みた。その結果,解糖系などのエネルギー産生やアミノ酸代謝に関しては差がなかったが(Welch’s t検定),CML幹細胞ではさまざまなジペプチド種が蓄積していることが判明した。このジペプチド種蓄積の分子メカニズムを明らかにするためにRNAシークエンス解析を行ったところ,CML幹細胞ではジペプチドトランスポータSlc 15A2が正常造血幹細胞に比べて有意に高発現していることが明らかとなった(p=0.01292,Student’s t検定)。In vitroにおいて標識ジペプチド類似体(Gly-Sar)の取り込み活性を評価してみると,確かにジペプチドトランスポータの活性が亢進していることが確認された。実際,ジペプチドトランスポータ阻害作用を有するセファドロキシル(CDX)を処理することで,in vitro,ならびにin vivoにおけるCML幹細胞のジペプチド取り込み活性を抑制できることが明らかとなった。このような結果から,栄養吸収を標的とするCML幹細胞の治療法開発の可能性がみえてきた。

では,この栄養吸収がどのような分子メカニズムを介してCML幹細胞の生存維持に関係しているのか。ここで注目されるのが,CML幹細胞のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)抵抗性に必須の役割を担うTGF-β-FOXO経路である2)。Foxo3aは,TGF-βシグナルの下流のSmad3と相互作用してCML幹細胞の未分化性維持に関与している2)。CML幹細胞において吸収されたジペプチド種はp38MAPKを活性化し,下流のSmad3を制御することで体内でのCML幹細胞の生存維持に関わることが示唆される()。事実,上記のジペプチドトランスポータ阻害薬CDXを処理すると,CML幹細胞におけるp38MAPK-Smad3経路を抑制することができる。

このCML幹細胞に特異的な栄養吸収のメカニズムを抑制することによってCML幹細胞を治療できないだろうか。このような疑問を明らかにするため,CML発症マウスにCDXを投与して,生体内でのCML幹細胞に対する治療効果について解析を行った。まず,CML発症マウスにCDXを投与すると,生体内に存在するCML幹細胞が減少することが明らかとなった。さらに,これらのCML幹細胞をレシピエントマウスに移植して白血病発症能力の評価を行ったところ,治療を行っていないCMLマウスから得たCML幹細胞は白血病を発症させるが,CDX投与後のCML幹細胞は白血病発症能力を喪失していた1)。重要なことに,CML発症マウスに第1世代TKIイマチニブとCDXを併用投与すると,イマチニブ単剤投与と比較して,再発抑制効果を示すことが判明した(p=0.002,log-rank検定)。

以上のCMLマウスモデルを用いた非臨床試験の結果から,生体内でのCML幹細胞の生存維持にはジペプチド種の吸収が重要な役割を担っていることが明らかとなった。このCML幹細胞に特異的な栄養吸収のメカニズムを抑制することで,TKI治療効果の向上と再発予防を行うための新たな治療ターゲットになることが期待される。CDXは第1世代のセフェム系抗生剤として広く知られており,今後,このようなドラッグリポジショニングは,より効果的ながん治療法を開発するための重要なストラテジーとなると考えられる。

【参考文献】

  1. Naka K, et al. Dipeptide species regulate p38MAPK-Smad3 signaling to maintain chronic myelogenous leukaemia stem cells. Nat. Commun. 6: 8039, 2015.
  2. Naka K, et al. TGF-beta-FOXO signaling maintains leukaemia-initiating cells in chronic myeloid leukaemia. Nature 2010; 463: 676-680.

図 栄養素によるCML幹細胞の維持機構