一般講演1-2

Aspp1 preserves hematopoietic stem cell pool integrity and prevents malignant transformation1)

仁田 英里子 先生

千葉大学大学院医学研究院 細胞分子医学

造血幹細胞(HSC)は静止期にあり遺伝子変異から守られているが,一方で修復が困難なため変異を蓄積しやすいというジレンマを抱えている2)。造血器腫瘍の発症機序の面で問題となるその遺伝子変異の蓄積をどのように制御してHSCは健全に保たれているのであろうか3)。この維持機構の面から造血器腫瘍発症を解明していこうというのが,本研究のテーマである。今回,筆頭著者である山下真幸先生が米国(UCSF)で研究中のため,代わって報告する。

これまでの研究知見から我々は腫瘍抑制遺伝子p53と,その共役因子であるAspp(apoptosis-stimulating protein of p53)1の役割に注目した。

まず,Aspp1のHSCおよび造血幹前駆細胞(HSPC)における役割を,Aspp1ノックアウトマウスなどを用いた一連の実験系で検討した。

その結果,Aspp1はHSCおよびHSPCに特異的に発現し,定常状態下ではHSCの自己複製能を減弱させることによってHSCプールのサイズを制限していた。

しかし,放射線照射などの遺伝毒性ストレスが加わると,Aspp1はHSCの細胞周期を活性化し,不可逆的なDNA損傷を受けた細胞にp53依存性アポトーシスを誘導して,それらの細胞を排除する方向に働いた。

こうしたp53依存性の機能に加え,Aspp1はp53欠損HSCにおいてはその自己複製能およびDNA損傷の蓄積を抑えた。すなわち,Aspp1はp53非依存的にHSCの自己複製能やDNA損傷蓄積を制御する機能も併せ持つことが明らかになった。

したがって,Aspp1とp53が同時に失われると発がんリスクが高まることが想定され,両因子のダブルノックアウトマウスでは特にT細胞白血病/リンパ腫などの血液がんの発症が確認された。

これらの研究結果から,Aspp1とp53が協調してHSCの自己複製能やDNA損傷を制御し,HSCプールの健全性を維持していることがわかってきた()。このように,HSCは遺伝子変異の蓄積や悪性形質転換を阻止する特異的な機序を有することが示唆されるが1),HSCがどのように遺伝子異常を獲得し,クローンを拡大させ,最終的に造血器腫瘍の発症に至るのか,今後の研究の進展が期待される。

【参考文献】

  1. Yamashita M, Nitta E, Suda T. Cell Stem Cell 2015; 17: 23-34.
  2. Rossi DJ, et al. Cell 2008; 132: 681-696.
  3. Blanpain C, et al. Cell Stem Cell 2011; 8: 16-29.

図 Aspp1およびp53による造血幹細胞プール健全性の制御