特別講演

MDSの起源と遺伝学的基盤について

小川 誠司 先生

京都大学大学院医学研究科 腫瘍生物学(第二病理学)教授

小川先生は,発症機序がまだ明らかでない骨髄異形成症候群(MDS)の遺伝学的基盤について,これまでの研究知見をレビューした。

MDSとは,非常に多彩な病像を呈し,基本的には1系統以上に血球減少があり,骨髄異形成を伴う。これに有効な治療法はまだ確立されておらず,その要因の1つとして分子論的な発症機序が十分に明らかになっていないということがあった。ここ10数年,MDSに対する分子・遺伝子レベルでの病態解明が鋭意進められているが,二次性白血病に移行していく過程の全体像は,まだ把握されていない。

  • MDSにおけるドライバー変異の同定と病型

MDSは造血器腫瘍であるから,体細胞変異が重要な役割を果たしており,変異が蓄積して発症する。変異については最も研究が盛んで,遺伝学的解析が進められており,2009年にはドライバー変異としてTET2の遺伝子変異がみつかって以来,急速に進展してきた。いまや,RNAスプライシング,DNAメチル化,転写因子,クロマチン修飾,チロシンキナーゼ・受容体,コヒーシン,RAS経路,DNA修復等々に関する遺伝子変異が網羅的に発見され,それぞれの役割が究明されている(図1)。ただし,これらがどういう過程で,どういう順番で蓄積しいくのか,あるいは病型にどう関与しているのかといった詳細についてはまだこれからの研究課題である。

病型別に遺伝子変異をみると,MDSの進行に伴って変異が増える傾向が窺える。また,変異をもつ細胞が末梢血や骨髄でどれくらいの割合を占めているのかを算定すると,二次性急性骨髄性白血病(sAML)に移行すると,変異細胞は増大する。クローンの解析からも蓄積傾向がみられる。進化論的研究法としての種の多様性の指標をみても,多様性が増す傾向にある。1つの傾向としては,低リスクからsAMLに進行するにつれて,変異の数が少しずつ増え,クローンのサイズが拡大し,クローンの構造としては亜集団が次々出現する一方で,一部は消失しながら,全体的に多様性が増していくようである。症例ごとに追跡しても,その傾向が認められる。このような変異クローンの進化・分岐と淘汰の生存競争のパターンが次第にみえつつある。

特にMDS発症に関与すると考えられるドライバー変異に着目して,病期の進行に伴う変化をみると,症例ごとに異なり,多様な変異が出現したり,消失したり,増減していくが,その変化パターンからいくつかの変異がMDS進行により強く関与する可能性が示唆されている。また,経時的検体でドライバー変異をみると,進行過程でそれぞれの変異が役割分担しながら入れ替わり,低リスクから高リスクへの進展,さらにsAMLへの移行にいずれの変異がより強く関与するか,といった1つのパターンがまだ明瞭ではないが類推できつつある(図2)。

  • MDSの起源に関する考察:再生不良性貧血に着目

さらに,MDSの起源に関しても解明したいところであるが,MDS診断時点ではすでに正常骨髄からの発症機序を辿ることはできない。そこで,自己免疫細胞によって造血幹細胞が破壊される骨髄不全の1つで,しばしばMDSあるいはAMLへ移行する再生不良性貧血(AA),特にそのクローン性造血に着目して遺伝子変異を検討した。方法としては,米国NIHおよびクリーブランド,そして日本の金沢大学におけるコホート(総計439例)の保存検体を用いて,約100個の候補遺伝子について解析した。

遺伝子変異を認めたAA患者の割合としては,3コホートとも約1/3の症例(NIH 35%,日本38%,クリーブランド33%)に変異を認め,そのうち約1/3(それぞれ12%,13%,17%)では複数の変異が認められた。

遺伝子変異を有する症例の多く(約75%)では診断時からすでに遺伝子変異が存在し,変異をもつ血球の割合は,治療後低下した症例もあるが,全体では著明に上昇した。どのような遺伝子変異かというと,約75%のAA患者にBCOR,BCORL1,PIGA,DNMT3A,ASXL1の5つの遺伝子変異が認められた。

これらの変異は複数の血球系統に認められ,造血前駆細胞の段階で変異が生じていると考えられる。ただし,変異を有する血球の割合は一般に少ない(多くの症例で20%以下)。また,変異のアレル頻度もMDSでの平均30%に比してAAでは平均9.3%と少ない。

AAとMDSにおける変異の異同をみると,AAで顕著なDNMT3AとASXL1はMDSでも同様にみられるが,BCOR/BCORL1はMDSでは少なく,PIGAはMDSではごくわずかである。一方,MDSで高頻度に認められる多くの遺伝子変異がAAではほとんど認められない。このようにAAとMDSでは大きく異なる。

AAでの変異については,それぞれの変異によってその増減の時間経過が異なる。また一方,年齢との関係をみると,変異によって異なるが,多くの変異は年齢と強く相関し,変異をもつ患者の割合が加齢とともに上昇する。また,1例あたりの変異数をみても同様の相関がみられた。したがって変異の多くは,加齢に伴って蓄積したものと考えられる。

さらに,変異とゲノムコピー数異常を合わせると,48%の症例では何らかのゲノムの異常がある。また,候補遺伝子だけでなく,一部を対象に,すべての遺伝子について調べてみると,約60%に何らかの変異があることが示された。興味深いことに,塩基の置換パターンをみると,C→T置換が多く,特にCの前にA,後にGがあると起こりやすい。これは,メチル化されたCの脱メチル化という自然に生じやすい化学反応で,加齢によって起こることの傍証となる。

そして,全体的にこれらの変異と治療反応性や予後との関連性が窺え,個々の症例の経過をみても次のようなことが示唆された。DNMT3A,ASXL1変異を有する患者では,その変異をもつ細胞が経時的に増加して白血病を発症し,予後不良の傾向がある。一方,PIGA,BCOR,BCORL1変異を有する患者では,変異をもつ細胞が消失する傾向があり,予後も良好である。

しかしながら,変異の経過は非常に複雑で,個々の変異について経時的な挙動を正確に予測することは難しい。ただし,どの遺伝子変異に着目して,何を主眼に研究していくべきかという方向性はみえつつある。

最後に小川先生は,MDSのみならず種々の造血器腫瘍の起源について,最近注目を集めているクローン性造血に関する主要論文をピックアップしてその要旨を紹介しながらレビューし,その起源は,正常人でも一般に生じているようなクローンのランダムな変異の獲得にあるのではないか,と推察した。

【参考文献】

  1. Haferlach T, et al. Landscape of genetic lesions in 944 patients with myelodysplastic syndromes. Leukemia 2014; 28: 241-247.
  2. Delhommeau F, et al. Mutation in TET2 in myeloid cancers. N Engl J Med 2009; 360: 2289-2301.
  3. Papaemmanuil E, et al. Somatic SF3B1 mutation in myelodysplasia with ring sideroblasts. N Engl J Med 2011; 365: 1384-1395.
  4. Yoshida K, et al. Frequent pathway mutations of splicing machinery in myelodysplasia. Nature 2011; 478: 64-69.
  5. Walter MJ, et al. Clonal architecture of secondary acute myeloid leukemia. N Engl J Med 2012; 366: 1090-1098.
  6. Yoshizato T, et al. Somatic mutations and clonal hematopoiesis in aplastic anemia. N Engl J Med 2015; 373: 35-47.

図1 Major driver targets in MDS 2015

図2 Enrichment of driver mutations MDS/aAML