一般講演3-2

エピジェネティック因子ASXL1の安定性はユビキチン化およびUSP7介在性脱ユビキチン化により制御される1)

多田 浩平 先生

大阪赤十字病院 血液内科

多田先生は,京都大学血液・腫瘍内科での研究成果を報告した。また,冒頭に内容の一部に本邦未承認薬の薬剤および適応外の情報を含むが,それらの使用を推奨するものではないことを言明した*。

成人T細胞白血病(ATL)は,1977年に京都大学の内山卓先生,高月清先生らによって報告された末梢性T細胞白血病で,レトロウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染によって起こる血液悪性疾患である。主に母乳を介する母子感染によって伝播し,数10年の長いキャリア期間を経てATLを発症し(キャリアの3~5%),くすぶり型,慢性型,急性型/リンパ腫型といった病型へ進展する。経過は非常にアグレッシブで難治性であり,きわめて予後不良である。化学療法や造血幹細胞移植による3年生存率はそれぞれ約22%,約33%と低く2-4),新規分子標的薬(抗CCR4抗体)も再発・難治性ATLへの奏効率は約50%と報告されているが5),長期生命予後はまだ明らかではない。

最近,インターフェロン-α(IFN-α)と抗HIV薬ジドブジン(アジドチミジン:AZT)の併用療法の効果が期待され6),日本でもその臨床試験が進められている。AZTは核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)で,HIV逆転写の際にウイルスDNAに取り込まれ,選択性の高い抗ウイルス作用を示すが,ATLに対する効果の作用機序は明らかでない。

こうした背景のもと,多田先生らは,AZTを含む6種のNRTI[ジダノシン(ddI),サニルブジン(d4T),ラミブジン(3TC),テノホビル(TDF),アバカビル(ABC)]のATLに対する殺細胞効果と作用機序の解明に取り組み,種々の細胞株を用いてNRTIよる細胞増殖に対する作用を検討した。その結果,ABCはHTLV-1感染細胞に選択的に最も強力な増殖抑制効果を示した。

そこで,ABCのHTLV-1感染細胞に対する細胞周期,アポトーシスについて解析したところ,ABCはHTLV-1感染細胞にS/G2細胞周期停止を起こし,アポトーシスを誘導した。これは,DNA複製の際にABCが取り込まれ,DNA合成障害が起きることを示唆している。ただし,従来ABCは逆転写の際に取り込まれてchain terminatorとして働くが,宿主細胞のDNAポリメラーゼには親和性が低く,DNA複製の際には取り込まれないと考えられていた。

この点を明らかにするために,ATL細胞株培地にABCを加えて培養し,回収細胞のM期の染色体解析を行った結果,ABCが細胞のDNAに直接作用して損傷(DNA二重鎖断裂)を起こしていることが示唆された。そこで,DNA損傷に対するABCの作用をみるため,DNA二重鎖断裂のマーカーであるγH2AXの発現について検討したところ,ATL細胞ではABC誘導のγH2AX発現が遷延し(修復経路が活性化されたまま),ATL細胞増殖が抑制された。つまり,ATL細胞では,ABCによるDNA損傷を修復できないことが示された。

次いで,ABCによるDNA損傷の修復に関与する遺伝子を検討するため,DNA修復関連遺伝子の欠損したChicken DT-40細胞のABC感受性をスクリーニングしたところ,その感受性が高まり野生型よりも50%以上増殖が抑制される遺伝子欠損として5つの候補遺伝子(GEN1,RAD18,TDP1,USP1,POLL)がピックアップされた。これらの発現をATL患者検体のマイクロアレイ解析ならびに候補遺伝子欠損DT-40細胞に対するNRTI感受性を検討し,候補遺伝子としてTDP1(Tyrosyl-DNA phosphodiesterase 1)に絞り込んだ。

TDP1はヒト細胞ではユビキタスに発現し,一本鎖DNA損傷の修復に関与し,3’ブロック領域を除去する。そして実際,HTLV-1感染細胞ではTDP1発現が低下していた。また,Jurkat細胞のTDP1をノックダウンするとABC感受性が増強し,逆にHTLV-1感染細胞にTDP1を過剰発現させるとABC抵抗性を示し,DNA二重鎖断裂の修復能も回復した。また,TDP1はDNAに取り込まれたABCを除去しうることが確認された。最後に,ATLモデルマウスに対するABCの抗腫瘍効果を検討した結果,腫瘍の増殖を抑制し,生存率を高めた。

以上の研究知見をまとめて多田先生は,ABCは強力かつ選択的に殺ATL細胞効果を有し,その作用機序はATL細胞における一本鎖DNA修復酵素TDP1の発現低下に起因していることを示唆した()。

*本講演で言及した製剤の効能・効果,用法・用量に関する使用上の注意,警告・禁忌を含む使用上の注意につきましては,各製剤の添付文書をご参照ください。

【参考文献】

  1. Tada K, et al. Abacavir, an anti-HIV-1 drug, targets TDP1-deficient adult T cell leukemia. Sci Adv 2015; 1: el4002038(24 April 2015).
  2. Yamada Y, et al. A new G-CSF-supported combination chemotherapy, LSG15, for adult T-cell leukaemia-lymphoma: Japan Clinical Oncology Group Study 9303. Br J Haematol 2001; 113: 375-382.
  3. Tsukasaki K, et al. VCAP-AMP-VECP compared with biweekly CHOP for adult T-cell leukemia-lymphoma: Japan Clinical Oncology Group Study JCOG9801. J Clin Oncol 2007; 25: 5458-5464.
  4. Hishizawa M, et al. Transplantation of allogeneic hematopoietic stem cells for adult T-cell leukemia: a nationwide retrospective study. Blood 2010; 116: 1369-1376.
  5. Ishida T, et al. Defucosylated anti-CCR4 monoclonal antibody (KW-0761) for relapsed adult T-cell leukemia-lymphoma: a multicenter phase II study. J Clin Oncol 2012; 30: 837-842.
  6. Bazarbachi A, et al. Meta-analysis on the use of zidovudine and interferon-α in adult T-cell leukemia/lymphoma showing improved survival in the leukemic subtypes. J Clin Oncol 2010; 28: 4177-4183.

図 ABCの抗ATL効果の機序