一般講演3-1

エピジェネティック因子ASXL1の安定性はユビキチン化およびUSP7介在性脱ユビキチン化により制御される1)

井上 大地 先生

東京大学医科学研究所 細胞療法分野

井上先生は,骨髄異形成症候群(MDS)で変異が認められることの多いエピジェネティック因子ASXL1(additional sex comb-like 1)の蛋白分解,制御機構について,これまでの研究成果を中心に最新知見を紹介した。

ASXL1遺伝子は,もともと胎生期の形成に必須の遺伝子であり,Hox遺伝子を正または負に制御することが知られている。ASXL1遺伝子は,血液疾患が認められない高齢者のクローン性造血の原因遺伝子の1つでもあり,また疾患においてもMDSの約2割の患者でその変異がみつかっている。さらに,ASXL1の変異は独立した予後不良因子であることからも,その発症機構の解明が望まれている。大切なポイントは,ASXL1変異はほぼすべてヘテロ接合であり,長い最終エクソンの5’末端にホットスポットが集中し,C末端が欠失した切断型を形成することである。この変異をもつMDSの細胞クローンは,セカンドヒットとしてNRASやSETBP1などの遺伝子変異を有することで急性骨髄性白血病(AML)にトランスフォームすることが知られている。

 動物モデルとして,井上先生らはASXL1変異体を造血幹細胞(HSC)に導入して移植するマウス骨髄移植モデルを用いており,長期間の経過を経てMDS様の表現型をきたす。一方,ASXL1ノックアウト(KO)マウスでもMDS様の表現型をきたすので,どちらが実際の疾患により適切なモデルかが興味深いところであり,1つの検討課題でもある。

この点を踏まえ,ASXL1変異体の蛋白が本当に発現しているのか否かを検討した。すなわち,変異体蛋白を発現していれば我々の研究モデルがより適切なモデルということになる。もう1つには,ASXL1蛋白はきわめて検出しづらい不安定な蛋白であるが,その制御機構,安定化について検討した。

1つ目の課題に関しては,まずASXL1切断蛋白のN末端側を認識する新しいモノクローナル抗体を開発し,これを用いてホモ接合でASXL1変異をもつ血液細胞株,すなわち野生型をもたない細胞株(MEG-01とTS9;22)で検討したところ,実際にASXL1変異体蛋白が発現していることが初めて示された。そこで,さらにMEG-01細胞を用いて定量解析を試みた結果,この切断型の変異体蛋白が一定の割合で存在することが確認できた。

次に,ASXL1蛋白の安定性について,野生型蛋白と変異体蛋白とで比較したところ,いずれの蛋白の分解速度も他の蛋白より速いが,ほぼ同等の安定性を有することがわかった。したがって,ASXL1の変異をもつ患者では変異体蛋白発現の影響をやはり考慮する必要がある。

2つ目の課題,ASXL1蛋白はなぜ分解されやすいのかについては,その早い蛋白代謝に関与するASXL1結合蛋白を網羅的に検索して解析すると,予想どおりプロテアソームやユビキチンに関連した蛋白が多くピックアップされた。そして,ユビキチン化される部位は,ASXL1の351番目のリジン(K)であることが明らかになった。これは,ユビキチン化される蛋白のデータベース

(PhosphoSitePlus)のデータとも合致した。このK351はヒトでもマウスでも種間で保存され,ASXL2/3などのホモログ間でも保存されており,K351の機能の重要性が示唆される。実際に,このユビキチン化K351がこの蛋白分解に重要であることは,プロテアソーム阻害薬によるASXL1の安定化や,Kのアルギニン(R)への置換による影響からも支持される。

また逆に,どのような蛋白がASXL1変異体蛋白の安定化に関与するかを検討した結果,脱ユビキチン化酵素として知られるユビキチン特異的ペプチダーゼ7(USP7: ubiquitin specific peptidase 7)の関与が明らかになった()。USP7は,ASXL1安定化のキーとなる分子である。今後は,ASXL1のユビキチン化酵素の同定,またASXL1のユビキチン化される部位,リン酸化される部位,糖鎖の修飾を受ける部位は密接に相互に関連しており,これらの関連についてもさらに研究を続けていきたい,と井上先生は結んだ。

【参考文献】

  1. Inoue D, et al. The stability of epigenetic factor ASXL1 is regulated through ubiquitination and USP7-mediated deubiquitination. Leukemia 2015 Apr 3. doi: 10.1038/leu. 2015.90.

図 USP7による脱ユビキチン化とASXL1蛋白の安定化