一般講演2-2

骨髄増殖性腫瘍におけるTET2欠損の2つの役割1)

亀田 拓郎 先生

宮崎大学医学部内科学講座 消化器血液学分野

亀田先生らのグループは,骨髄増殖性腫瘍(MPN)に分類される本態性血小板血症(ET),真性多血症(PV),原発性骨髄線維症(PMF)の病態解明に取り組んでいる。MPNでは造血幹細胞(HSC)レベルの異常や,エリスロポエチン(EPO)などの造血サイトカインのシグナル伝達経路の異常が病態に関与している。近年,それらの背景にある遺伝子異常がゲノム解析技術の進歩によって明らかになりつつある。MPN患者では約90%にJAK2をはじめとするシグナル伝達分子の遺伝子変異(以下シグナル伝達変異)が認められる。また,数10%にDNAのメチル化に関与するTET2, IDH1/2, DNMT3Aや,ヒストン修飾に関与するASXL1,EZH2などのエピゲノム制御分子の遺伝子変異(以下エピゲノム変異)が認められる2)。エピゲノム変異の保有率はMPNの重症度が増すにつれて高くなる。また,1人の患者の中にエピゲノム変異とシグナル伝達変異が共存する場合には,TET2変異とJAK2変異の組み合わせが最頻である2)。遺伝子変異の多様性が明らかになるに伴い,各々の変異と疾患表現型との関係,あるいは複数変異の意義といった課題が生じてきた。亀田先生らは,これらの課題に対して種々のマウスモデルを用いてアプローチしており,その研究成果について本講演で報告した。

JAK2はEPOなどの造血サイトカインのシグナルを伝達する重要な分子である。MPNでみられるJAK2の活性化型変異(JAK2V617F)(以下JAK2変異)が造血に及ぼす影響は,同変異体を導入した細胞株やトランスジェニックマウスを用いて検討され,JAK2変異がMPNのドライバー変異であることが明らかとなった3)

TET2はDNAシトシン(C)のメチル化・脱メチル化の代謝サイクルに関与する分子であり,脱メチル化の初期ステップを担っている。TET2の機能欠失型変異(以下TET2欠損)は,MPNを含め種々の骨髄系腫瘍に共通してみられ,また加齢に伴って出現する変異でもある。そのため,TET2欠損の役割の1つとして,骨髄系腫瘍の発症母地を形成する役割が推測されている。TET2欠損の造血系に及ぼす影響はノックダウンマウスを用いて検討され, TET2欠損はHSCに増殖優位性を与えることが明らかとなった4)。しかし,同マウスの表現型は,野生型マウスと比較しごくわずかな脾腫を認めるものの血球数や生存は同等で,TET2欠損がMPN病態に与える影響は不明瞭であった4)。そこで,TET2欠損とJAK2変異の2重変異マウスを作製し,各々の変異のみのマウスや野生型マウスと比較検討した1)

TET2欠損のみのマウスは,野生型マウスと比較しごくわずかな脾腫を認めるものの,血球数や生存は同等でMPNを発症しない。JAK2変異マウスは,野生型マウスと比較し著明な血球増多と脾腫を呈し,MPNを発症して生存が短縮した。2重変異マウスは,さらに著明な血球増多,脾腫,生存短縮を呈した。各々のマウスの病理組織や細胞増殖マーカー(Ki-67)の所見もこれに矛盾せず,TET2欠損がJAK2変異MPNの病態増悪に働く『疾患増悪因子』であることが明らかとなった。

次に,各々の変異マウスにおける個体あたりの造血幹前駆細胞数を経時的に観察した。JAK2変異のみのマウスでは細胞数が徐々に減少するが,2重変異マウスでは細胞数が長期間維持されていた。また,各々の変異細胞と野生型細胞を放射線照射マウスへ競合移植し,さらに1次移植マウスの骨髄細胞を2次マウスに移植し長期間観察したところ,2重変異細胞のみが野生型造血を背景に致死的MPNを発症させた。試験管内で各々の変異細胞の継代を繰り返した場合には,JAK2変異細胞は早期に継代不可能となったが,2重変異細胞は長期継代が可能であった。以上から,TET2欠損はJAK2変異によるHSCの自己複製能低下を救済し,MPNの発症や維持に働く『疾患維持因子』であることが明らかとなった。

マウスモデルの検討から明らかとなったMPNにおけるTET2欠損の2つの役割(『疾患増悪因子』と『疾患維持因子』)を踏まえ,亀田先生は,JAK2変異のみのクローンは顕在化(幹前駆細胞レベルのクローン拡大)しにくいため比較的低リスクのMPNを発症させるにとどまるが,2重変異クローンは顕在化しやすいため比較的高リスクのMPNを発症させるのであろうと推察した()。

【参考文献】

  1. Kameda T, et al. Loss of TET2 has dual roles in murine myeloproliferative neoplasms: disease sustainer and disease accelerator. Blood 2015; 125: 304-315.
  2. Lundberg P, et al. Clonal evolution and clinical correlates of somatic mutations in myeloproliferative neoplasms. Blood 2014; 123: 2220-2228.
  3. Shide K, et al. Development of ET, primary myelofibrosis and PV in mice expressing JAK2 V617F. Leukemia 2008; 22: 87-95.
  4. Shide K, et al. TET2 is essential for survival and hematopoietic stem cell homeostasis. Leukemia 2012; 26: 2216-2223.

図 2重の変異によるクローンの顕在化とMPN発症)