一般講演2-1

マスト細胞をがん化に導くKitシグナリングは「エンドリソソーム」,「小胞体」で起こる1)

小幡 裕希 先生

東京理科大学生命医科学研究所 免疫生物学研究部門

細胞内シグナル伝達を担う種々のチロシンキナーゼのなかでも受容体型のKitチロシンキナーゼの役割,その変異によるさまざまな疾患,腫瘍については多くの研究がなされている。小幡先生は,その背景から解説し,Kitの増殖シグナリングがどこでどのように行われているか,すなわちKit変異体の細胞内動態とシグナル伝達の時空間的解析を主眼とする研究成果について報告した。

まず着目したのは,マスト細胞腫においてKit変異体(D814Y)を発現するRCM(R cell, mutant Kit)細胞の成長因子非依存的自律増殖における役割である。Kit(D814Y)のキナーゼ活性をその阻害薬でブロックするとRCM細胞の自律増殖は用量依存性に抑制されることから,自律増殖にはKit

(D814Y)のキナーゼ活性が必要なことは明らかである。その細胞ではKit変異体にPI3K(phosphatidylinositol 3-kinase)が結合し,その下流でAktおよびSTAT(signal transducers and activator of transcription)5が恒常的に活性化されている。どちらの活性を阻害しても自律増殖をしないことから,AktとSTAT5は互いに上流あるいは下流に位置するのではなく,独立に存在してともに活性化される必要がある。

Kit変異体の細胞内局在を調べると,小胞状のオルガネラ(細胞小器官)に集積していた。そのオルガネラとは,ゴルジ体でも小胞体でもなく,エンドリソソーム外膜だった。Kit変異体は,新規合成後に小胞体→ゴルジ体→細胞膜へ一方向性に輸送され,その後直ちに自身のキナーゼ活性に依存したエンドサイトーシスを介して細胞膜からエンドリソソームへ集積する。

こうしたKit変異体の細胞内輸送経路のどこで,AktとSTAT5は活性化されるのか。この点について,エンドソーム成熟阻害薬Bafilomycin A1によるエンドソームからエンドリソソームへの輸送阻害の影響などを調べたところ,注目すべきことに,Kit(D814Y)-PI3K複合体はエンドリソソームに輸送されることによってAktを特異的に活性化するが,STAT5活性化はそこ以外で起こることがわかった。そして,STAT5の活性化はどこで起こるのかを探索した結果,それは生合成されたKit変異体によって小胞体で起こることが示唆された。

つまり,に示すように,正常なマスト細胞では細胞膜の活性化Kitは速やかに分解されるが,マスト細胞のがんではKit変異体がエンドサイトーシスによってエンドリソソームに集積され,ここでAktを活性化する(主に生存に関与)。一方,細胞内で生合成されたKit変異体は小胞体においてSTAT5を活性化する(主に増殖に関与)。

今後の研究課題,将来展望として,他の受容体型チロシンキナーゼにも当てはまる機構かどうか,また治療に関する輸送阻害の可能性,オルガネラに潜むキナーゼに対する抗体医薬の効果,分子標的治療中のキナーゼの動態の理解(抗体医薬品との併用の可能性)などを挙げ,小幡先生は講演を締め括った。

【参考文献】

  1. Obata Y, et al. Oncogenic Kit signals on endolysosomes and endoplasmic reticulum are essential for neoplastic mast cell proliferation. Nat Commun 2014; 5: 5715. DOI: 10.1038/ncomms6715.

図 Kit変異体による増殖シグナリング