一般講演1-2

制御性T細胞による自己(腫瘍)抗原特異的CD8陽性T細胞の解明1)

前田 優香 先生

東京理科大学生命医科学研究所 免疫生物学研究部門

前田先生は,腫瘍免疫学の歴史,がん免疫療法の意義,腫瘍細胞の免疫からの逃避機構(Cancer Immunoediting説)について説き起こし,本題に入った。近年,腫瘍局所での抗腫瘍免疫応答の抑制,すなわち免疫寛容が生じる機序において,中心的役割を果たしているのが制御性T細胞(Treg)であることがわかってきた。このTregは樹状細胞(DC)を介してT細胞を抑制しており,特に抗腫瘍作用を担うCD8陽性T細胞のTregによる抑制機構に,前田先生らのグループは着目した。

周知のとおり,骨髄で産生されたT細胞は乳幼児期に胸腺で教育され,自己反応性T細胞は負の選択を受けて排除される。しかしながら,このシステムは完璧ではなく,自己抗原に反応するクローン(禁止クローン)が末梢に多く漏れ出ている。それにもかかわらず,通常,自己免疫疾患を発症しない。その機序について検討した。

まず,抗原特異的T細胞を誘導するために,腫瘍抗原であり,かつ自己抗原であり,これに対する免疫寛容が崩壊したときに自己免疫疾患が起こるという条件が揃ったMelan-Aをピックアップした。これは,メラノーマの腫瘍抗原であり,白斑症という自己免疫疾患をひき起こす。

健常人末梢血から採取したCD8陽性T細胞とTregを段階的に培養し,Melan-Aでペプチドパルスを行った抗原提示細胞(APC)を用いて,Melan-A特異的CD8陽性T細胞を誘導した。その誘導率は,Treg濃度依存的に低下する。しかも興味深いことに,TregとエフェクターT細胞が1対1の群では,細胞分裂が一度だけで止まってしまうという現象を見出した。

さらに,Tregによって分裂が抑制されたCD8陽性T細胞群と抑制されなかった細胞群を集めてきて,Tregを除いたうえで再度Melan-Aで刺激すると,いったん抑制された細胞群は再刺激してもサイトカインを産生せず,細胞分裂も起こさない。つまり,Melan-A特異的CD8陽性T細胞に対して二次刺激を加えても細胞分裂もサイトカイン産生も行わない,完全な不応答状態に陥っていることが明らかになった。

次いで,これらの細胞の遺伝子発現を検討したところ,CTLA-4の発現が上昇していた。また,フローサイトメトリーで細胞表面マーカーの発現をみても,同様にCTLA-4の発現が上昇していた。さらに興味深いことに,ナイーブなCD8陽性T細胞に特徴的なCCR7と,活性化されたCD8陽性T細胞に特徴的なCTLA-4を同時に発現していることを見出した。

また一方,Tregを用いずに,このような現象が再現できるか否かを検討した結果,APCとして未成熟なDCを用いてMelan-A特異的CD8陽性T細胞を誘導すると,上記と同様の現象が再現された。これに対して,成熟DCを用いると,CTLA-4免疫グロブリン添加時にのみ再現された。すなわち,成熟DC上のCD80/86をブロックすることによって再現できた。したがって,APCの共刺激分子を介したシグナルが重要と考えられる。

以上をまとめると,Tregによって抑制された自己(腫瘍)抗原特異的CD8陽性T細胞は,ナイーブフェノタイプと免疫抑制分子をともに発現する特異的表現型(CCR7+CTLA-4+)を有する不応答性(アネルギー)T細胞となる()。この細胞は,Tregにより共刺激分子の発現が抑制されたAPCによって誘導される。そして,これらが健常人末梢血にも確かに存在し,自己免疫をコントロールしていることが明らかとなった。さらに,腫瘍免疫の観点からは,Tregによる免疫抑制をコントロールすることが効率的な抗腫瘍免疫応答を得るうえで重要ではないか,と前田先生は示唆した。

【参考文献】

  1. Maeda Y, et al. Detection of self-reactive CD8+ T cells with an anergic phenotype in healthy individuals. Science 2014; 346: 1536-1540.

図 新たな不応答性細胞の特徴の同定