一般講演1-1

Notch-Hes1シグナルはFlt3の制御を介して急性骨髄性白血病を抑制する1)

加藤 貴康 先生

筑波大学医学医療系 血液内科

Notchシグナルは,神経の発生や体節形成,また細胞の分化決定に重要な役割を担い,造血系においては,T細胞や赤芽球などの分化を調節していることがわかってきた。Notch受容体としてはNotch 1,2,3,4が,そのリガンドとしてはDelta-like 1/3/4,Jagged 1/2などが同定されており,リガンドを提示する細胞とNotch受容体をもつ細胞とが接することによって,Notchシグナルが核内に伝えられ,転写因子RBPJを活性化し,ターゲットの遺伝子発現を調節することが知られている2)

造血器悪性腫瘍におけるNotchシグナルは,T-ALL,CLL,バーキットリンパ腫,DLBCL(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫),SMZL(脾濾胞辺縁帯リンパ腫)では腫瘍促進的に,B-ALL,CMMoL(慢性骨髄単球性白血病)では腫瘍抑制的に作用し,Notch受容体遺伝子の変異についてもいくつか報告されている。急性骨髄性白血病(AML)に関しては,これまであまり報告がなかったが,近年,NotchシグナルはAMLに対して抑制的に働くことが,加藤先生らのグループや,他の2つのグループの研究から示唆されている。

今回,トランスジェニックマウスモデルを用い,NotchシグナルはAMLにおいて抑制的に働くことを示した研究の詳細を加藤先生に講演いただいた。

研究では,転写因子RBPJのノックアウト(KO)マウスモデル,およびその下流の代表的なターゲットであるHes1(hairy and enhancer of split-1)のKOマウスモデルを,AMLモデルとしてはMLL(mixed lineage leukemia)-AF9のマウスモデルを用いた。まず,RBPJのKOマウスでは,MLL-AF9による白血病細胞増殖が亢進し,野生型より早期に白血病を発症し死亡することが示された。次に,Hes1のKOマウスは胎生致死なので,胎児肝の骨髄球性共通前駆細胞(common myeloid progenitor: CMP)を移植したマウスを用いて実験したところ,同様に白血病細胞の増殖が亢進し,早期に白血病を発症し死亡した。これらのことから,RBPJ-Hes1経路がAMLに対して,腫瘍抑制的に働くことが示唆された。

さらに,Hes1の下流について検索したところ,AMLで高発現しているFlt3(FMS-like tyrosine kinase 3)遺伝子のプロモーター部位にHes1が直接結合し,その発現を抑制することが示唆された。

つまり,Notch-Hes1経路はFlt3の制御を介してAMLを抑制すると考えられる。このことは,ヒトのAML検体についてのマイクロアレイ解析からも支持され,特にNotch2が重要な役割を果たす可能性が高いことがわかってきた。

そこで,Notch2のアゴニスト(刺激抗体:αN2)を用いたAML治療マウスモデルで検討したところ,に示すように,MLL-AF9導入CMPを骨髄移植したマウスにαN2を投与すると,骨髄の白血病細胞の割合はIgG投与対照群に比して有意に低下していた。このことは,FLT3阻害薬なども含めたAMLの新たな治療戦略を示唆するものである,と加藤先生は結んだ。

【参考文献】

  1. Kato T, et al. Hes1 suppresses acute myeloid leukemia development through FLT3 repression. Leukemia 2015; 29: 576-585.
  2. Lobry C, et al. Notch signaling: switching an oncogene to a tumor suppressor. Blood 2014; 123: 2451-2459.

図 αN2を用いたAML治療マウスモデル