一般講演3-3

T細胞リンパ腫におけるクローン進化のメカニズム1)

坂田(柳元)麻実子 先生

筑波大学医学医療系 血液内科

血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)は、全身のリンパ節腫脹、および自己免疫疾患様症状を高頻度に認める末梢性T細胞リンパ腫の一型である。AITLでは、さまざまな血液がんに共通してみられるTET2、IDH2およびDNMT3A遺伝子変異が同定されていたが、AITLに特異的な分子生物学的異常は同定されていなかった。
 本講演では、坂田先生が筑波大学をはじめとする多施設共同研究の成果を報告した。
 AITL 3例と分類不能型末梢性T細胞リンパ腫3例における全エクソン解析で、4例(AITL全例)でRHOA遺伝子変異がみつかったことから、AITL 72例と分類不能型末梢性T細胞リンパ腫87例を対象に解析した。その結果、それぞれ71%と17%の症例においてRHOA遺伝子に変異を認めた。そして、RHOA遺伝子変異が認められた66例中64例においては、RHOA遺伝子がコードするRHOA蛋白の17番目のアミノ酸がグリシンからバリンへ置換される変異(p.Gly17Val)があった。一方、ほかのT細胞リンパ腫やB細胞リンパ腫、骨髄系腫瘍ではRHOA遺伝子変異は全く認められず、この変異はAITLと分類不能型末梢性T細胞リンパ腫に特異的であった。
 一部症例でTET2、IDH2、DNMT3A遺伝子の塩基配列を解析したところ、興味深いことにp.Gly17Val変異が認められた症例すべてにおいて、TET2遺伝子変異も認めた。さらに、これらの遺伝子変異のアレル頻度の比較から、TET2およびDNMT3A遺伝子変異のほうがRHOAやIDH2遺伝子の変異よりも先に生じていると推察された。
 上記の各遺伝子変異のヒエラルキーから多段階発がん機序が推測されるわけであるが、それらが骨髄細胞や末梢血球、リンパ組織のどこで生じているか、遺伝子変異の起点を詳細に解析した。p.Gly17Val変異は腫瘍細胞にのみ認められたが、TET2遺伝子変異は腫瘍細胞、腫瘍ではない血液細胞のいずれにも認められた。
 これらの結果から、まずTET2遺伝子変異が未分化な血液細胞の段階で生じることにより前がん状態を形成し、ひき続いて腫瘍細胞へと運命づけられる段階でRHOA遺伝子変異が生じることが、AITLに特異的な腫瘍発症メカニズムである可能性が示唆された(図)
 また、RHOAのGly17Val変異体の役割も注目される。RHOAはsmall GTPaseの1つであり、さまざまな生物学的事象を制御する。ところが、Gly17Val変異を起こしたRHOAはGTPには結合せず、野生型RHOAの機能を阻害することが判明している。
 これまでの解析から、TET2ノックダウンマウスは超高週齢になってからT細胞腫瘍を発症する。これにRHOA遺伝子変異を加えることにより、ヒトのAITLに類似した多段階発がんマウスモデルを作製し、臨床に有用な研究への展開を目指している。

【参考文献】

  1. Sakata-Yanagimoto M, et al. Somatic RHOA mutation in angioimmunoblastic T cell lymphoma. Nat Genet 2014; 46: 171-75.

図 多段階発がん機序:腫瘍は前白血病/リンパ腫細胞に由来する