一般講演3-2

ATLおよびその他のがんにおけるNDRG2発現低下は、PTENリン酸化異常を介してPI3K-AKTシグナル伝達経路を活性化させる1)

中畑 新吾 先生

宮崎大学医学部機能制御学講座 腫瘍生化学分野

 成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)は、宮崎を含む南九州に多い。その研究に取り組んできた宮崎大学を中心とする共同研究グループから最新の研究知見が報告された。
 ATLLの基礎疾患として、ヒトTリンパ球向性ウイルスタイプI(HTLV-1)感染症が存在する。HTLV-1キャリアは約108万人と推計され、生涯ATLL発症率は約5%であるが、いったん発症するときわめて予後不良である。HTLV-1感染からATLL発症に至る過程はいまだ不明であるが、1つの作業仮説としては、数10年かけて感染細胞のクローナルな増殖が継続し、その間に多段階ゲノム異常が蓄積し、そこに何らかの素因が加わると、ある特定の遺伝子変異、染色体異常ないしはエピジェネティック変化による遺伝子発現異常が引き金となって発症すると想定される (図1)。
 そこで、多面的な分子生物学的アプローチが試みられているが、最近の統合的ゲノム解析から、ATLL症例および細胞株の染色体核型分析により全切断点の分布が捉えられるようになった。その高頻度切断点の重複に着目すると、10p11-13、14q11および14q32の3点の重複がそれぞれ約30%ずつの頻度でみつかった2)
 すでに、染色体切断点集中領域10p11に関する遺伝子解析が進み、TCF8(ZEB1転写因子)ががん抑制遺伝子候補として挙げられ、その変異・異常の詳細、ATLL病態との関連性が解明されつつある2)
 今回解析したのは、14q11領域についてである1)。この領域の共通欠失領域から、がん抑制遺伝子候補として細胞分化に関与するN-myc downstream-regulated gene(NDRG)2を同定した。
 がん抑制遺伝子の不活性化機構のチェックポイントを辿っていくと、ATLL細胞においてゲノムおよびエピジェネティックな変化による転写活性の低下が認められた。
 これまでにATLLやその他のがんでは、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)-AKTシグナル伝達経路の恒常的活性化が発がんに重要な役割を果たしていることが知られている。ATLL細胞でのNDRG2低発現は、ATLL細胞が示すPI3K-AKTシグナル伝達経路の活性化と関連していた。
 その原因は、がん抑制因子の1つでPI3K-AKTシグナル伝達経路の負の調節因子として働くPTENのリン酸化異常であった。すなわち、NDRG2およびPI3KCA遺伝子自体の遺伝学的異常は認められないが、NDRG2発現低下に伴って、C末端テールの高リン酸化型PTENの発現が亢進していた。
 そこで、PTEN Ser380/Thr382/Thr383リン酸化を介したNDRG2によるPTENホスファターゼ活性の制御機序について検討した。NDRG2はPTENに結合し、蛋白ホスファターゼ(PP)2AをPTENにリクルートする働きをもつ。その結果、ATLL細胞では高頻度にNDRG2の発現が低下しており、PTEN Ser380/Thr382/Thr383リン酸化が誘導され、PI3K-AKTシグナル伝達経路の活性化が促進されることがわかった。
 一方、NDRG2欠損マウスはT細胞リンパ腫やその他のがんを高率に発症し、その腫瘍細胞はCD4+CD8-由来であった。
 以上より、NDRG2遺伝子はATLLのがん抑制遺伝子候補であり、その発現低下に伴うPTENリン酸化を介したPI3K-AKTシグナル伝達経路の活性化が発がんに重要であることが示唆された。中畑先生は最後に、本研究成果とこれまでの知見に基づいて多様なシグナル伝達系の異常が関与するATL発症機構モデルを提起した(図21)

【参考文献】

  1. Nakahata S, et al. Loss of NDRG2 expression activates PI3K-AKT signaling via PTEN phosphorylation in ATLL and other cancers. Nat Commun 2014; 5: 3393. DOI: 1038/ncomms4393.
  2. Hidaka T, et al. Down-regulation of TCF8 is involved in the leukemogenesis of adult T-cell leukemia/lymphoma. Blood 2008; 112: 383-93.

図1 HTLV-1感染からATL発症にいたる作業仮説

図1 HTLV-1感染からATL発症にいたる作業仮説